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ニットデザイナー・Juhla[ユフラ]伊野妙さん - 人の体を温めるニットを作りたい_作り手インタビューvol.9
こんにちは。クリーマの宮崎です。
秋から冬に移り変わり、温かいニットが恋しくなる季節になりましたね。
私の中の「てぶくろ」のイメージが少し変わったのは、Juhla[ユフラ]のミトンに出会ってから。指先が三角にとがった形が何とも可愛らしくて、心ひかれたことを覚えています。
Juhla[ユフラ]は、伊野妙さんによるハンドニットのブランドです。
北欧やアイルランドの伝統パターンをベースとしたオリジナルデザインが魅力的で、冬を迎えることが楽しみになるくらい!
今回は、Juhla[ユフラ]伊野さんにお会いして、ニットの魅力や編み物への思い、そして、三角形のミトンが生まれたきっかけをお伺いしました。
初めて編み物をしたのは、何と幼稚園の頃だったという伊野さん。小学生になると、夏休みの自由制作で編み物を提出したこともあったそうです。
一番好きな手仕事、編み物
「幼い頃から手で作ることは何でも好きでしたが、今でも続けているのは、編み物ですね。母はセーターを編んでいて、祖母も縫い物や編み物が好きだったたので、教えてもらって作るようになりました。
年末年始は、家族一緒に過ごす家庭だったこともあり、その間はずっと編み物をしていました。父親にセーターを編んでプレゼントしたこともありますよ」
編むことが好きで、大人になるまでずっと続けてきたという伊野さんですが、就職し、編集者・ウェブディレクターとしてのキャリアを積む間は、あまりの多忙さから、編み物の時間がほぼ取れなかったそう。その後、フリーランスになったことで自由な時間ができ、また好きな編み物をスタートします。
そして、Juhla[ユフラ]の代表作の1つ、可愛らしい三角形のミトンが生まれたきっかけ。それは、フィンランドやスウェーデンを始めとする北欧への旅でした。
三角形のミトンに出会った北欧の旅
「寒い国はセーターも可愛いし、編み物好きとしてはお気に入りの国です。わざわざ真冬の時期を選んで旅行したこともあるくらい。北欧には何度も行きましたが、そこで見かけたのが三角形のミトンで、「可愛い!」と思ったのが最初の出会いでしたね。北欧に行くたびに見かけるので、ずっと心のどこかにあって、「やっぱり可愛い、私も作ってみよう」と思ったんです」
「ニットを見たい、毛糸を見たい」という気持ちから真冬に北欧へ。この発想は、編み物を愛する伊野さんならではのエピソードではないでしょうか。
極寒の北欧で感じたニットのちから
「行って良かったのは、本当の寒さを肌で体感できたことです。ニットを作っている私自身、実はあまり寒がりではないんですが、その時の現地はマイナス20度くらいだったので、さすがに、がっしり厚着をしました。あれほど「ウールってすごい!」と感じたことはありませんでしたね。
こんなに寒ければ、みんな毛糸で編み物をするよねって。街中で本を読む人もいれば、同じように編み物をしている人もいる。電車の中でも見かけました。そのくらい、日常的なものなんです」
日照時間が少ないために外が暗く、気温が冷え込む北欧では、編み物は家の中でできる楽しみ1つ。かつて、年末年始に家の中で編み物に夢中になった、伊野さんの姿と重なるようでした。
「ニットは体を温めるためのもの」というこだわり
「私が作るのは、実用的なものばかりです。ニット地を使って何を作ろうとか、それを可愛い小物にしようとかには興味がいかないんですよね。ニットはもともと、体を温めるために営まれて来たものだと思うからです。
このKukka[クッカ]というミトンは、スコットランド北方の厳しい自然環境で育ったシェットランドシープからとれる毛糸を使っています。フェアアイルのニット(シェットランド諸島の伝統ニット)でも使われていたので、どうしてもそれで編んでみたくて。あまり柔らかくはないのですが、丈夫でへたらないし、やっぱりすごく温かいので、こういうのも良いなと思います」
ニットのちからを感じ、それを手で形にしていく。
「ニットは体を温めるものだから」という、伊野さんのまっすぐな一言が心の深くに残りました。
毎日身につけられて、長く愛用できるものを
「このミトンや帽子が、気に入って毎日使うものになってくれたらいいですね。「毎日かぶってるよ」という声が一番うれしいです。
ラトビアに、おばあちゃんたちが編んでいる民芸品のミトンがあるのですが、それはそれですごく可愛いんです。でも、色や柄が派手なので洋服を選ぶし、日本で普段使うには難しいのかなと私は思ったりするんですね。
毎日身につけてほしいから、色数をしぼったり、合わせやすい色にしたり、そぎ落としてシンプルに作るようにしています」
Juhla[ユフラ]のニットを愛用する方々には、「気に入った良い物を長く使っていきたい」という共通した気持ちを感じるそう。
寒い時期、自分の肌を温め続けてくれたニットには、感謝にも似た愛着がわいてきます。今年もそろそろかなと毎年出してきて、「この冬もよろしくね」と言える相棒のような存在になったら、とっても素敵ですよね。
しあわせなシーンにふさわしい、贈り物になってほしい
ハンドメイドマーケットでの販売をスタートする前は、主に家族や友人のために制作していたという伊野さんですが、今は、知らない誰かが作品を見て買ってくれることが「もっと続けよう」という気持ちにつながり、制作のはげみになっているそうです。
そして、今までの取引にまつわるうれしいエピソードについてお伺いすると、そのお答えの中に、屋号であるJuhla[ユフラ]に通じる思いがありました。
「私のニットをプレゼントに選んで下さるのはうれしいですね。Juhla[ユフラ]は、フィンランド語で「お祝い・お祭り・ごちそう」などを意味する言葉なんです。お祝いごとなどの幸せで華やかなシーンにふさわしい、贈り物に選ばれるようなものを作りたいと名づけたので、そういう存在になってくれたらいいなと思っています」
編み物に、心満たされる楽しさを感じて
人生のほとんどを編み物と一緒に過ごしてきた伊野さん。1つのことを続け、ずっと好きでいる情熱は、簡単に芽生えるものではないはずです。
「編み物の楽しさって、わーっていうアドレナリンが出る楽しさではないんですよね。静かに手を動かすことで癒される、セラピーのような効果があると言われています。アメリカでテロがあった後には、編み物をする人が増えたという話もあります。静かに心満たされていく感じですね」
「編んでいると本当に楽しくて」と、ふふっと穏やかな笑顔に。編み物を続けてきた原動力である「楽しい」という気持ちに、少し触れられた気がしました。
「北欧には、もう1回勉強しに行きたいと思っています。ヒツジを飼っているところ、おばあちゃんが実際に編んでいるところ、そして、暮らしの中でニットがどう身につけられているのかも見てみたいですね。いつかね」
インタビューを終えて
伊野さんのお話の中で、一番心に残ったのが「ニットは体を温めるために営まれてきたもの」という一言です。身につける相手を温めてあげることができること、それはニットの素晴らしいちから。
伊野さんの言葉から、編み物へのたくさんの愛情を感じました。
一目一目を丁寧に編まれた、ニットを大切に身につけていくことで、温かさも愛着も増していくことでしょう。
自分が心から気に入ったものを長く愛用することで、満たされる気持ち。
Juhla[ユフラ]のミトンに、この大切な気持ちを改めて教えてもらった気がします。