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「Creemaとサスティナブル」害獣となった命に、新たな息吹を。|ジビエレザー作家・MAKAMIさん

「Creemaとサスティナブル」害獣となった命に、新たな息吹を。|ジビエレザー作家・MAKAMIさん

ここ数年よく耳にする、「サスティナブル」という言葉。

sustain(持続する)とable(〜できる)が組み合わさっている通り、「持続可能な」「ずっと続けていくことができる」という意味を持つ言葉です。

もっと具体的には「地球環境や資源に配慮し、より良い状態を維持することができるもの」を指します。

 

特にものづくりの現場では欠かせない概念の一つとなっており、ファッション業界や飲食業界など、身近なところにも「サスティナブルな取り組み」を表明する企業が増えてきています。

大企業の取り組みだけではなく、「エコバッグやマイ箸を使う」「古着を捨てずにリメイクする」等、環境に気を配った暮らし方も、サスティナビリティへの第一歩。

 

地球環境の維持という大きなテーマですが、個々の工夫と解釈で、様々な方向から"サスティナブルな取り組み"は実現可能。実際にCreemaでも、サスティナブルなものづくりに取り組むクリエイターさんが数多く活動されています。

そこで、Creemaで活躍するクリエイターさんの、サスティナビリティを意識した取り組みや作品についてご紹介する連載企画をスタートします!

MAKAMIさん 害獣駆除される命に新たな息吹を。

▲鳥取県若桜町で害獣として駆除(捕獲)されたシカの革を使用しています

今回お話を伺ったのは、シカ、イノシシ、クマなど、害獣として駆除された動物の革(ジビエ革)を用いたレザーアイテムを制作するMAKAMIさん。

元は靴職人として活動されていらっしゃいましたが、レザーを扱うとあるイベントで、ジビエ革に触れます。それまでも存在自体は知っていたものの、手に触れるのは初めてだったそうです。

「害獣となった命に新たな息吹を」という思いで作品を制作されるMAKAMIさんに、制作に至るまでのお話や思いについて、教えていただきました。

――まず、MAKAMIさんがジビエ革を使った作品制作を始められたきっかけについて教えてください。

レザーを扱うイベントで、ジビエ革の見本を触って見たことがきっかけです。そういうものがあるという情報は知っていましたが、農作物被害のため、年間約100万頭ものシカやイノシシなどの野生鳥獣が害獣として駆除され、しかもその大部分が廃棄されているという事実は知りませんでした。最も駆除数の多いシカでも、駆除されたあとの皮革の利用は、わずか1%にも満たないのが現状です。

 

害獣対策に携わる猟師協会の方や行政の方、革のタンナーさん(動物の皮をなめして、革に加工する方)と話をする中で、私自身のものづくりの中でも彼らの命を生かせないか、という思いを抱くようになりました。

――そうした方々とのやり取りの中で、印象的だった言葉・エピソードはありますか。

まずは、イノシシをはじめとする野生動物に畑を荒らされた結果、廃業に追い込まれる農家さんが多いという話です。 害獣というと「かわいそう」と思われる方もいらっしゃいます。しかし、人間が日々の生活を送っていくためには、甚大な被害は食い止めないといけません。そのためにある程度の管理は必要なのだということを、きちんと知る必要があるのではないかと思いました。生活が立ち行かなくなってしまう農家さんにとっては「かわいそう」と思う段階はとっくに過ぎてしまっているのでしょう。

 

一方で昔ながらのマタギの方から伺ったのが、害獣となってしまった命を、その後人間の生活に生かすことができていないという話です。これにもはっとさせられました。 動物と人間の適正なバランスを踏まえた上で、人々の生活を守るための命だったのならば、せめて余すことなく生かしていきたい。そうした思いで、ジビエ革ブランドMAKAMIを立ち上げました。

(編集部 森永による補足)

あまり聞きなじみのない、「鳥獣被害」という言葉。なぜ管理が必要なのか、そして農家の方々にとってこの被害はどれほど深刻なのか、調べてみることにしました。

 

農林水産省が発表した「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(平成30年度)」の資料によると、鳥獣による平成30年度の農作物被害金額は約158億円にものぼります。

この金額は、農家の平均月収で換算すると、なんと約4万人分もの月収に相当します。これほどまでの被害額が続くと、廃業に追い込まれてしまう農家が多く出てきてしまうのは、自明のことと言えるでしょう。

 

こうした背景をふまえ平成27年に「鳥獣保護法」が改正され、鳥獣の著しい増加で劣化した植生を回復し、自然環境とバランスの取れた個体管理等を行うため、都道府県が事業者に鳥獣捕獲等を委託する事業が創設されました。このような地域での対策もあり、少しずつ状況は改善しているものの、依然として被害金額は膨大な額。農業を営む方々にとっては、数字に現れている以上の深刻な影響を及ぼしていることがうかがえます。

 

駆除をされたあとは、基本的にはほとんどそのまま"廃棄"されてしまうという現実を知り、

「人々の生活を守るための命だったのならば、せめて余すことなく生かしていきたい」

そうおっしゃるMAKAMIさんがどれほど真剣に命と向き合っているのか、あらためてその言葉の重みを実感しました。

▲MAKAMIが扱う革は全て、ジビエ革専門のタンナーが独自に配合したなめし剤を使用しています。有害な重金属・化学物質を使用せず、環境への負荷を極限まで抑えています。なめし工程で出る削りカスなども再加工し、リサイクルが可能です。

――私はジビエ革に触れたことがないのですが、イノシシ、シカ、クマのジビエ革について、それぞれどんな個性があるのでしょうか。

シカは、きめの細やかさとしっとりとした肌触りが特徴です。シカ革を触ると、大抵みなさん「気持ちいい!」とおっしゃいます。特に、MAKAMIの革はオイルを含ませたスムース革に仕上げているので、よりしっとりとした手触りになっております。

▲ジビエ鹿革を使用したソフトな手触りのティッシュケース
▲しっとりとした手触りで、思わずずっと触っていたくなります。キャメルの他、ホワイトもあります。

イノシシの特徴は、三角形に並んだ毛穴模様です。「猪突猛進」の性格通り、生前に樹木にぶつかってできた傷が随所に見られます。手触りは硬く、力強い印象です。

▲猪革を使用したコンパクトなL字ファスナー財布
▲厚みと硬さがあるため型崩れしにくく、使い込むほどに艶が出てきます。

クマもイノシシと同じく毛穴の模様がしっかりと出ていますが、イノシシに比べて密度が高く、しぼのように表面がボコボコとしています。革の厚みは一番ありますが、意外にもイノシシよりやわらかい手触りです。ちなみに、クマは数がなかなかとれないため、クラウドファンディングなどで限定品として扱っております。

――ジビエ革を使った作品制作で、特に大変なことは何でしょうか。

野生の動物の皮なので、家畜として育てられた牛などとは違い、傷はもちろんのこと、革の厚みや密度が1枚1枚異なります。個体差も魅力の一つですので、すべてを均一に仕上げるべきとは思いませんが、厚みが変わると制作作業で使う機械の設定もそれぞれ変えなければならないので、そこには少し大変さを感じています。

 

また、個体差により、染色を同一に行っても多少色味の違いが発生します。なるべく合わせてもらえる様、タンナーさんにも努力してもらってはいますが、技術だけではどうにもならないところなので難しいところです。ただ、必ずしも予想通りにならないというところも、ジビエならではの面白さ・魅力だと考えています。

――自然の産物ならではの大変さがあるのですね。MAKAMIさんは、作品制作中、どんなことを考えながら作業されていますか?

変な話なのですが、勝手に自分の中で空想をしていて、自分は(ブランドの名前の由来ともなっている)狼の化身が住んでいる「まかみの森」の麓の村に住む作家で、この革は恵みの品なんだ!と想像しながら作っています(笑) ときどき村に行商人が来て、私の作品を町に売りに行ってくれるのです……なんて、細かい設定で妄想しながら楽しんでいます。

 

※ブランド名のMAKAMIは、日本古来の伝承に登場する言葉で、ニホンオオカミの古名「真神」が由来となっています。

▲制作中の風景。

Creemaの作品販売ページでは、お客様のご要望に寄り添えるよう、革質の希望(きれいめ、傷多め)をお聞きするようオプションを用意していますが、個人的には傷がしっかり入っているものがおすすめです。

 

「野生動物のため、皮傷が多く製品化に向かない」そんな声も、あちらこちらで耳にします。でもその傷は、野山を駆け回る獣たちの息吹を感じられる証です。作品の背景に思いを巡らせることのできる、一点物の価値として生まれ変わらせることができれば、作品を通じて新たな循環が生まれるのではないか……そんな風に考えています。

――あらためて、MAKAMIさんが考えるジビエ革ならではの魅力についてお教えください。

同じデザインの作品でも、一つとして同じものはないところでしょうか。これまでの日本の革製品の基準からすると、傷のついた革はNGとなってしまいますが、革の本場イタリアでは昔から「生きていた動物の皮を使っているのだから個体差や傷など当たり前」という認識で、革そのものを身近に楽しんでいるそうです。

 

また作品を通して、人間以外の生命を感じ、普段の日常生活ではあまり意識しないことにほんの少し意識を向けてみることで、周りのものがこれまでとは少し違って見えてくるかもしれません。

私はジビエ革を扱うようになってから、農家さんや猟師さんのことを意識したり、食や自然について考える機会が増えました。それがどんなものであれ、自分の世界を少し広げることになったのだと思います。MAKAMIの作品を通して、皆さんにもそんな体験をしてもらえたら嬉しく思います。ぜひ、「まかみの森」に遊びにきてください(笑)

MAKAMIさんのギャラリーページはこちら!

取材を終えて。

日本の農家の方々が日々悩まれている鳥獣被害の深刻さや、駆除された動物の行く末について、私は今回のお話で初めて知りました。

 

何気ない毎日の食卓やときおり触れる自然の中には、命の問題が横たわっています。きっかけが無ければそれについて考えることも知ることもなく通り過ぎてしまいますが、MAKAMIさんのおっしゃる通り、作品やそれが生まれるまでの背景を知ることによって、いつもの風景も、見え方がほんの少し変わりそうです。

 

「命を大切にする」という、幼い頃から何度も耳にしてきた言葉。

私自身、この言葉を自分がどのようにとらえて実践していくのか、深く考えるきっかけとなりました。

 

命を活かす、という思いから始まったMAKAMIさんの作品制作。貴重な恵みを余すところなく大切に使う取り組みをご紹介した今回のインタビューが、皆さんにとってのサスティナブルや環境、自然について考える一つのきっかけになれば幸いです。

 

MAKAMIさん、ありがとうございました!

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