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「今、私が会いたい人」開成町でしか造れない一番美味しいお酒を - 瀬戸酒造店さん【後編】

「今、私が会いたい人」開成町でしか造れない一番美味しいお酒を - 瀬戸酒造店さん【後編】

こんにちは。高(こう)です。

前回の瀬戸酒蔵店さんの作り手インタビュー【後編】となります。先日の、【前編】38年ぶりの酒蔵復活に向けた社長インタビューに続き、今回は、お酒造りのこだわりを知る酒蔵見学・杜氏インタビューをお届けします。

インタビュー当日の朝8時、神奈川県 開成町の駅に着くと、瀬戸酒造店で広報を担当されている奥津さんが迎えに来て下さいました。車の中でも日本酒の熱い話をして下さる奥津さんは、地元で生まれ育った、大のお酒好き。

元々は小田原の有名蒲鉾店にお勤めされていたそうですが、偶然訪れた瀬戸酒造店で「ここで働きたい!」と運命を感じ、猛アタック。何度も断られながらも通い詰め、現在に至るそうです。

そんな、情熱溢れる奥津さんに、瀬戸酒造店の酒蔵を案内していただきました。

 

(本インタビューは2020年1月末に実施しております)

(写真左:奥津さん、右:高)

酒蔵見学へ

今回は、大まかな酒造りの工程に合わせ、当日見学させていただいた様子をご紹介させていただきます。

精米

日本酒は水とお米が主原料なので、おいしいお酒をつくるためには、何よりも良い水と良いお米が必要不可欠とされています。瀬戸酒造店さんでも、もちろん水とお米にこだわっていらっしゃいました。開成町をはじめとした神奈川県の足柄平野のお米を使って、酒田錦という銘柄のお酒が造られているそうです。

 

原料となるお米の不要な部分を削るのが最初の工程「精米」となります。

 

洗米

精米した米を洗い、糠(ぬか)を取るのが「洗米」です。家庭でご飯を炊く際に米を研ぐのと同様、ここでお米の糠や汚れを取らないとおいしい日本酒を造ることはできません。

時間をタイマーで計りながら、スタッフ全員で「5,4,3,2,1、はい!」と息をぴたりと合わせてお米を洗米機へ投入していきます。この動作を何度も繰り返すのですが、皆さんの真剣な表情とピンと張り詰めた空気に、その場にいる私たちも緊張してしまいました。

浸漬(しんせき)

洗米の後、水分を吸収させるために、お米を水に浸す「浸漬(しんせき)」を行います。

水は丹沢山水系の深層地下水を使用されているそうです。

蒸米

お酒造りにおいてお米は「外硬内軟」という、外が硬くて、内が柔らかい状態が良いとされているそうです。そのため、伝統的な古式和釜の理想的な蒸し上がりを再現できる「OH式」の蒸し米機を利用しているとのことでした。これを使うことで、ムラがない美味しいお米が蒸し上がるそうです。

 

この「蒸米」の出来によって、麹菌の生育やお酒のふくらみ、味わいが大きく決まってくる大切な工程とのこと。

(蒸されたお米)

放冷

蒸したお米を冷ますのが「放冷」。蒸されたお米を甑(こしき)と呼ばれる大型のセイロから移し、手作業で行います。

火傷に気をつけながら慣れた手つきで、適温になるまで一気にほぐしていきます。米粒が塊にならないように、丁寧に手作業で行います。温度計で何度もチェックしながら、適温になるまでお米を冷ましていきます。

純米酒、吟醸酒など仕込むお酒の種類によって、冷却後の目標温度や放冷後の蒸米の硬軟が変わるため、放冷時間は調節されるそうです。

麹(こうじ)造り

蒸したお米を、日本酒の元となる麹にする工程が「麹(こうじ)造り」。これは「製麹(せいきく)」とも呼ばれます。蒸米に麹菌を付着させ、お米の中で麹菌を繁殖させるこの工程は、日本酒の味を左右する重要なポイントだそうです。

(写真提供:瀬戸酒造店)

酒母造り

アルコール発酵を促す酵母を大量に増殖させたものを「酒母」と言います。麹と水を混ぜ合わせたものに、酵母と乳酸、さらに蒸米を加えます。一般的には、約2週間で酒母が完成するそうです。

今回はその途中のタンクを見せていただきました。

醪(もろみ)造り・仕込み

酒母をタンクに入れ、麹、蒸米、水を加えて発酵させる「醪(もろみ)」を造る工程が「仕込み」と呼ばれています。大きなタンクの中に先ほどの蒸し米や麹を入れてかき混ぜるのですが、これが大変な重労働です。慣れていらっしゃるので簡単そうに見えますが、実際は非常に体力が必要で難しい作業だそうです。

上槽(じょうそう)・火入れ

今回、見学させていただけたのはこの工程までですが、この後に、醪をしぼって(圧搾)日本酒と酒粕に分ける「上槽(じょうそう)」が行われます。瀬戸酒造店ではその後お酒を生の状態でビン詰めし、それを湯煎してやさしく火入れ(加熱処理)をします。

酒蔵見学を終えて

お酒に少しでも余計な菌が入ってしまうと、すべてが台無しになってしまうため、酒蔵の中は徹底した衛生管理がされていました。杜氏※さんが「お酒造りで一番大切な仕事は掃除と洗濯ですよ」とおっしゃっていた通り、酒蔵の中にはチリひとつ落ちていませんでした。


余談ですが、酒蔵見学の前3日間、インタビューに訪れた私たちは全員、納豆を禁止されました。納豆菌は生命力が非常に強く、納豆菌が麹に混ざってしまうと麹菌より先に繁殖してしまい、お酒の味が劣化してしまうそうです。つまり、納豆好きの私は酒造には嫁げない、ということを知りました。

 

※杜氏(とうじ):酒造りの一切を取り仕切る責任者

小林杜氏の思い

普段はなかなか直接お会いすることのできない杜氏さんに、酒造りにかける思いや、森社長との出会いについてお伺いさせていただきました。

導かれるように酒造りの道へ

(以下、小林さん談)日本酒業界で高齢化が問題になっており、このままいくと日本酒がなくなってしまうのではないか……?そう言われていた1992年頃。導かれるように、日本酒造りの道へ入りました。そこから、長野、岡山、和歌山、滋賀と全国津々浦々で日本酒を造ってきました。

(写真左:小林杜氏、右:高)

経験と勘と数値

酒造りで一番大切にしているのは、「洗米」と「蒸し」です。ここまででお酒の味のほとんどが決まると言ってもいいぐらい、重要な工程だからです。経験や勘ももちろん大切ですが、専用の機械で分析し、数値でも確認をしています。

 

ただ、気をつけなければいけないのは「同じ数値でも味が違うことがある」ということです。甘さが違っている時もあり、糖化が進んでいるからなのか、発酵が遅れているからなのか、どんな理由でその数値が出ているのか……ああでもこうでもない、と毎回、試行錯誤をしながら造っています。

開成町でしか造れないお酒を造りたい

酒蔵が復活してまだ2年。今後は、今あるお酒をもっともっとブラッシュアップしていきたいと思っています。私自身が造りたいお酒というより、この開成町で、この地の素晴らしい水、米、微生物など、全てが活きることで完成するお酒造りを目指しています。

全てが活かされたとき、開成町でしか造ることができない、一番美味しいお酒が出来上がると思います。

酒造りで広がったご縁

森社長と初めてお会いした時、てっきり会社のプロジェクトを任される形で酒造を再生されたと思っていたので、自らが事業を発案し中心となって推進して来られた、ということに驚きました。酒造りから農業を活性化させ、お客さまを呼んで、開成町を盛り上げたい、そんな思いが強く感じられました。

 

実際に、今は森社長の思い描く理想に近づきつつあります。これまで酒米を造ったことのなかった開成町の農家さんが、研究を重ね、酒米を造ってくださっています。最近では、瀬戸酒造店のお酒を取り扱ってくださる地元の飲食店も増えてきました。数人から始まった、開成町での酒造りが、ご縁とともに次第に広がっていることを感じます。

杜氏の仕事は、縁を形にすること

杜氏の仕事というのは、一般的には酒造りの責任者とされていますが、私は、蔵元をはじめ農家の皆さんや応援くださる方々の思いを、飲んで味わえる形に変換することだと思っています。

 

“縁を形にする”と言い換えられるかもしれません。当酒蔵は、長い年月造りを休んでいたのを多くの人が何年も奔走し、ようやく再開できる運びになりました。地元の方々から「楽しみにしているよ」と声を掛けていただけることはとても嬉しく、飲む人の喜びとなるような酒を造り、皆さんの声に応えられるように頑張って参りたいと思います。

▲「好きなことを仕事にできている。それが一番幸せです。」と語る小林杜氏の言葉が印象的でした

最後に

一からお酒を造るにあたり、長い時間とたくさんの愛情、そして大勢の人の手をかけ、やっと仕上がります。こだわり抜かれたお酒を、多くは語らないデザインと言葉で包む控えめな出で立ちに、古き良き奥ゆかしさを感じました。

 

森社長と小林杜氏のお話を伺った後、帰り際に「セトイチ 月が綺麗ですね」と「あしがり郷 零号2019」、「セトイチ かくかくしかじか」を購入しました。「月が綺麗ですね」は、大事な先輩の結婚祝いに、ご夫婦ペアのお猪口と共にプレゼントしました。旅立ちの日に相応しい「あしがり郷 零号2019」は新卒入社の可愛い後輩へ。「かくかくしかじか」は高校時代からの友人に。

込められたメッセージ性があるからこそ、大切な人と一緒に飲みたいお酒であり、大切な人に飲んでほしいお酒だと感じました。

 

インタビューの夜、いきつけの居酒屋に飲みに行きました。酒蔵見学をした後ということもあってか、いつも飲んでいるお酒のストーリーがやけに気になります。そのせいか、ついつい飲みすぎてしまいました。

 

お酒を飲んだ夜は、なぜこんなにも気持ちが満たされるのでしょう。幸福に満ちた不思議な世界は、いつもより月が綺麗に見える気がします。

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