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布立体作家・fabric trophy(ファブリックトロフィー)さん-両義性が潜む立体_作り手インタビューvol.3 

第3回の作り手インタビューは、布立体作家「fabric trophy(ファブリックトロフィー)」 都築まゆ美さんです。イラストレーターとして活躍していた中で生まれた、シカのはく製(ハンティングトロフィー)を模した壁掛けのオブジェ、fabric trophy。作品に込められた想いを伺い、私が初めてfabric trophyを見た時に感じた「美しいだけではない何か」の存在に触れることができました。

自然と触れてきたものづくり

「ものづくりは子供の頃から好きでした。母が洋裁の講師を、父がメーカーのインダストリアルデザインを仕事にしていたので、洋裁の道具や紙のサンプルなど素材は山のようにありました。そのおかげか、図工や美術は得意でしたね」

 

「作ることについては、ちょっとオタクなところがあったりして」と、ふふっと笑う都築さん。高校でデッサンを習得した後、美大に進学します。

 

「美大では工芸工業デザイン科で、木工や陶芸、金工、テキスタイル、インダストリアルデザインにインテリアデザインなど、一通り経験して、最終的にインテリアデザインを専攻しました。卒業後は父の仕事を手伝っていましたが、ふと『何か新しく取り組めることを見つけたい』と思ったのです。それが、イラストレーションでした。

 

ちょっとした挿絵の仕事をしながら、オリジナルの絵を描く日々の中、HBギャラリーのファイルコンペという、イラストレーターの登竜門的なコンペで賞をいただきました。自分の独特の絵柄が評価され、フリーイラストレーターとして仕事の依頼が来るようになったのもその頃です」

 

こうしてイラストレーターとしてのキャリアを積んでいった都築さんですが、それまでfabric trophyの構想は全くなく、縫うことは趣味でしかなかったそう。

 

そしてついに、fabric trophy誕生の時が訪れます。

空間演出のぬいぐるみが、いつしか主役に

「2009年に、30人くらいのイラストレーターがぬいぐるみを作って販売するというグループ展があったのですが、その時に、今のfabric trophyの原型になるような小さい作品を作りました。そうしたら、とても評判が良かったんです。次の個展の時にも、メインは自分の絵なのですが、空間演出のためにシカの頭をいくつか出したら、またしても評判が良くて。『これが欲しい』と言って下さる方もいて、あれっ?と驚いてしまいました。そのうち、グループ展や企画展の際も『fabric trophyを出してください』と言われるようになり、大型のアート作品も作るようになりました」

 

予想以上の反応に新鮮な驚きの連続。海外のアートフェアに出展した際も、大きなリアクションで迎えられ、とても良い反応があったそうです。ただ、本音では『私はずっと絵をやりたい』と思っていた都築さん。ジレンマを感じたり、悩んでいたりした時期のことを、ゆっくりと語ってくれました。

葛藤の先にたどり着いた「私ならではの作品」

「イラストレーターとしての仕事の他に、一点物のアート作品として平面作品を販売していて、そちらの方をもっと制作したいし、買っていただくことで評価されたいと思っていました。でも、出展の打ち合わせではfabric trophyのシカも作ってと言われて、むしろシカの方が売れたりして、葛藤がありましたね。それでも、どちらも作り続けるうちに、立体も平面も表現の幅が広がって、今は、どちらも私ならではの作品として同じ空間に違和感なく存在するようになっているのではないかと思います。

 

私は自分で絵を描いているにも関わらず、白いギャラリーに絵を飾るだけだと、どこかつまらないと感じてしまうのです。かつて、インテリアデザインに取り組んでいたせいか、立体にすごくひかれる部分があるのだと思います」

どこか不思議な「両義性」をテーマに

作品のテーマにしてきたのは『両義性』です。明るいけれどどこか暗いとか、可愛いけれどちょっと怖いとか、平面なのに立体とか。ありふれた状況の中に、どこか不思議な感じがある、両義性があるものを意識しています。

 

私の作品の中で、シカの口がジッパーになっているシリーズがあるのですが、一作目は口を開けた時と閉めた時の印象を変えたいと、表は真っ白で中だけ赤いという作品を作りました。そのインパクトの違いに、両義性のテーマを込めています。

 

fabric trophyは、不気味な感じと可愛らしさを合わせ持っていると思っています。仮に『きれい』だけの作品があったとしたら、私は魅力を感じないし、買わないし、飾らないと思います。だからこそ、両義性を込めたくなるのです

都築さんの柔らかい空気から静かに語られる「両義性」の鋭さに引き込まれました。そして、なぜ「両義性」に行き着いたのか。そのルーツは子供の頃にさかのぼります。

 

「小説でも映画でも何でも『結局、何が言いたかったのか?』という感覚が残るタッチのものが好きで、何か両方を合わせて持っていて、考えさせられるものにひかれるんです。子供の頃は、何不自由なく育って生活の中に何ら暗い面はなかったのに、思い出すのはなぜか、じめじめした裏庭や、誰も使っていない物置部屋を気に入って自分の部屋にしたりしたこと。具体的な理由は分からないのですが、きっと、ごく普通の家庭だったからこそ、普段は見ないような、暗い面を求めていたのかもしれません。昔から、勧善懲悪の話に違和感を感じていて、どこか『こんなにうまくいくのかな?』と思ったりしていましたね 笑 また、『人は、人前の自分と本当の自分は違う』とも感じていていたのですが、本当にそうなのかなと、今なお確認したいというのもあるのかもしれません」

 

初めてfabric trophyを見た時に感じた「美しいだけではない何か」の存在。あの、心地よく裏切られたような爽快さ。表面的な美しさにとらわれていた自分に気づきはっとする瞬間の痛快さ。それはきっと、都築さんが作品にこめた両義性が見せてくれた世界なのだと思いました。

自分の作りたいものを人にも受け入れてほしい

「好きなものだけを好きに作っていくのではなく、制作することできちんと収入を得たいと思っています。それは、自分の作りたいものを人にも受け入れてほしいと思っているから。それには、商品として買ってもらうというのが、一番実感できることです。お金を払ってでも欲しいと思ってくれているということですから、うれしいですよね。もしも自分の作品が売れなかったら、売れるように作品を変えていくのではなく、まずはこういう作品が好きだと思ってくれる人に広く届くように努力したいと思っています。

 

クリーマさんは圧倒的に見る人も多く、宣伝力があるので、国内のポップアップショップやイベントはクリーマさんの企画でのみで出展させていただいています。海外向けアート作品以外のインテリア雑貨の分野はお任せしたいと思い、一本化しています。

 

fabric trophyはこれまで通りですが、さらに平面作品のショップ「Mayumi Tsuzuki」を新しくクリーマさんにオープンしました。アートの分野でも積極的に販売に繋げていきたいと思います」

インタビューを終えて

イラストレーションから立体アートへと表現の世界を広げたfabric tropyさん。オブジェとして目で鑑賞するだけではなく、見た人自身が何かに気づき、考えるきっかけになるようなアートの形に引き込まれました。

 

「仮に『きれい』だけの作品があったとしたら、私は魅力を感じないし、買わないし、飾らないと思います」という、美しいものの表現の先を見据えた力強い言葉がとても印象的でした。

 

fabric trophyさん、どうもありがとうございました!第4回のインタビューも、どうぞお楽しみに!

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