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大人こそ自由研究を。クリエイターが本気で自由研究をやってみました!
こんにちは、クリーマの根津です。
暑さがじりじりと肌を刺す夏、昼間に公園で元気よく遊んでいる小学生たちを見ていると、「あぁ、今年も夏休みの時期がやってきたか」と思います。
夏休みというと海水浴や夏祭り、虫捕りなど色んな楽しいイベントが詰まっていますが、その中で小学生の夏休みの大きな課題になるのが「自由研究」。自分でテーマを決めなきゃいけないのが大変……気づけばもう夏休み最終日になっちゃった……など悩みが絶えないものでもありますが、大人になった今思い返すと、子どもだからこそがむしゃらに取り組めたあの時間は、とても尊いものだったのではないかと思います。
そんな風に小学生時代を回顧していた時、ふとこう思いました。
――本来なら子どもが取り組む自由研究に、ものづくりのプロ・大人たちが全力で取り組んだら、魅力的な作品が生まれるのではないか――
そんな思いをきっかけに生まれたのが今回の企画。その名も、
『クリエイターの私が挑む、本気の「自由研究」』!
クリエイターのみなさまから、クリーマが提示した3つのテーマに沿った自由研究の成果(=作品)を募り、そのアイデアを披露するという企画です。
今回Creemaから提示した課題は、以下の3種類。
近年注目が高まっているSDGs、その中でもアップサイクルに焦点を当てたもの・防災をテーマにしたものに加え、クリエイターのみなさんご自身に自由にテーマを設定いただく自由課題があります。
1. SDGs課題「大人が本気で取り組むアップサイクル」
2. 防災課題「クリエイターが提案する新しい防災グッズ」
3. 自由課題「クリエイター自身で設定した課題を解決する作品」
全国の子どもたちに自由研究のヒントを与えられる企画になれば……
大人のものづくりの力を多くの方に伝えられる機会になれば……
この企画をきっかけに、今まで誰も思いつかなかったような斬新なアイデアが生まれれば……
このような思いを胸にクリエイターのみなさんに作品・アイデアを募集したところ、作品ジャンルを問わず、多くのクリエイターさまからたくさんのご応募がありました。ご参加いただいたみなさん、本当にありがとうございます。
そして今回のこの読みものでは、それぞれ異なる課題に挑戦した3名のクリエイターに密着。自由研究に挑むことになってから、試行錯誤を経て作品が完成するまでを取材しました。
デニムを崩し、新たな命を吹き込む。かもめ工房さん
自由研究課題の1つ目は、SDGs課題「大人が本気で取り組むアップサイクル」。今回の3つの課題の中でも最もエントリー作品が多かった人気の課題です。
そもそも「SDGs」とは……
「Sustainable Development Goals」の略で、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。
17のゴール・169のターゲットで構成されており、その中には「つくる責任 つかう責任(持続可能な消費と生産のパターンを確保する)」といった、ものづくりに大きく関わる目標も含まれています。
アップサイクルやサスティナブルなど、持続可能で環境にやさしい物・行動に対する注目は日々高まっています。そこで「SDGs課題」では、本来ならば捨てられてしまう端材や廃材を有効活用した作品など、クリエイターの手で新たに命を吹き込んだアップサイクル作品を募集しました。
このSDGs課題に挑戦してくださったのは、かもめ工房さん。素材にこだわったシンプルなバッグやスマホケースなどの革小物を制作されています。
「最近は岡山地産に興味があり、児島のジーンズ・倉敷の帆布と皮のコラボレーションした作品も作っています」と語るかもめ工房さんが、自由研究として制作くださったSDGs作品がこちら!
~かもめ工房さんの自由研究~
・作品テーマ
捨てられる物や地産素材でのアップサイクル
・そのテーマにした理由
長く作り続けられる作品を作りたかったから。
服装が多様化しデニムが衰退化する中でデニムの良さを改めて伝えたいと思ったから。
・使ったもの
リサイクルデニム、トコ皮、皮端材
・つくりかた
1. 皮端材のサイズでの選別、その後スキ加工
2. リサイクルデニムとトコ皮の貼り合わせ
3. 縫製及びカシメによる組み立て加工
・かかった時間
40時間
デニムの産地・岡山で誕生した、アップサイクルデニムのスマホケースです。デニム部分はもちろんのこと、それ以外の素材や工法も地球にやさしい作品となっています。
インタビューの中で、「SDGsは、継続出来る事に意味がある」とおっしゃっていたかもめ工房さん。デザインや使い勝手など、様々な部分で素材へのこだわりやSDGsを意識した配慮がなされています。
例えばデニム地の部分。端材をただそのままリサイクルするのではなく、ジーンズを一度崩して綿状にほぐす→糸にして紡糸→これらを織り上げる、ことによって新たな価値が生まれ、見事にアップサイクルが実現されているんです。
また、このアップサイクルデニムは脱色・染色をしていないので水・染料・燃料が抑えられ、地球にやさしいというのも特徴です。
また、ケース内側のポケットの設計は一枚皮から三枚皮に。この工夫によって、サイズ不足による廃棄待ちの端材を使うことが可能になっています。
ちなみに、かもめ工房さん的注目ポイントは「色使い」とのこと。
表地の色を引き締める為にあえて革を使用したベルトや3色の革を使ったポケットなど、デニムやトコ皮の色と対照的にした事でカラーを楽しめる作品を目指されたそうです。
実際に多くの方に興味を持っていただき購入してもらえるような作品、量産化ができる作品、今後スマホケース以外のアイテムでもシリーズ化できる作品、など、SDGsを一過性のものではなくより長い目で考えられていることに、私も驚かされました。
捨ててしまわれたり、価値の低い部分で使われたりする端材や素材を使って作るだけではなく、あくまでも普通に作られた物と勝負する作品を作りました。
かもめ工房さん
使い手のもとに届いてはじめて意味があると思っているので、シリーズの追加や名入れでのワンメーク化などでもっとアップサイクルしていく様子を見て頂けると嬉しいです。
……そして早速、地球にやさしいスマホケースの新作として、姫路シュリンクレザーの端材を張り合わせた作品を作ってくださいました!パッチワークデザインと絶妙な色合わせが魅力的な作品です。
アップサイクルやサスティナブルなど、意識したいとは思っていてもなかなか具体的なアクションにまで至らなかったり、一時的なもので終わってしまったり……そういったことも多いのではないかと思います。
そんな中でもかもめ工房さんは、SDGsをより長期的な視点で考え、細部までこだわりぬかれた作品を作ってくださいました。このスマホケースをきっかけに、SDGsについて改めて考えを深める方が増えてくださるといいなと思っています。
木工作家だから作れる防災キャビネットを。工房黒坂製作所さん
続いて自由研究に取り組んでくださったのは、工房黒坂製作所さん。普段の暮らしを便利に・明るくしてくれる木工作品を制作されています。足の裏復活器や機動性抜群パソコンワゴンなど、「ちょうどそういうものが欲しかったんだよね……!」と思うようなアイデア作品もたくさん。今回は「本気で取り組む自由研究」というテーマに共感くださり、ご参加いただきました。
その工房黒坂製作所さんが開発された注目の防災作品が、こちら!
~工房黒坂製作所さんの自由研究~
・作品テーマ
地震の初動を生き抜き救助までの72時間を耐えられる、備蓄を保管できるキャビネット
・そのテーマにした理由
ライフラインの「水・火・電気」がしっかり確保できる+前面カバーを取り外して大盾にできる、という点が頑丈な木の特性を活かすのに最適で、木工屋ならではの防災キャビネットになるのではと考えました。
・使ったもの
ラジアタパイン集成材、針葉樹無垢材、その他木工用加工器材各種
・つくりかた
1. 材料加工
2. 組立
3. 研磨
・かかった時間
約10日(うち構想及び設計に8日、製作に2日)
この作品のアイデアが浮かんだきっかけは、「どの災害であっても共通して不足するのは、止まったライフライン。つまり“水・火・電気”だ」という気づきからだったそう。
一口に防災用の備蓄物資といっても、あれもこれも必要ということになると膨大な量になってしまい、とてもキャビネット一つで収まるようなものではないことに気が付きました。
工房黒坂製作所さん
そこで、「自宅避難」という考え方から自宅で普段使っているものをそのまま使えるという前提で初めから考え直してみたところこの作品が生まれたというわけです。
一般的に災害時に生存者への本格支援が始まるのは72時間後とされています。そのため、3日間家族4人で生き抜くのに必要とされる水・ガス・電気をしっかり確保できるもの、そして正面のカバーもまさに地震が発生しているときの大盾になるのではないかと気が付き、単なる観音開き式のキャビネットではなくカバーは簡単に取り外して使えるものとしました。
防災キャビネットを制作する中で特に苦労したというのが、災害時に盾となるキャビネットのカバー部分の設計。盾部分はこの作品の大きな特徴でもありますが、斬新なアイデアである反面、試行錯誤が必要だったようです。
カバーはいざというときにすぐ取り外せる必要がありますので、普段はしっかり固定されていてもワンタッチで取り外せるものにすることが重要でした。
工房黒坂製作所さん
そのためにどのようなはめ込み方にするかはいろいろ試行錯誤を行ったのですが、最終的に網戸を取り外すように上に少し持ち上げて手前にずらす構造とすることで解決しました。図面で検討したものが本当にちゃんと取り外しできるのか不安だったのですが、現物が出来上がった時に想像通りに取り付け取り外しができたときはうれしかったです。
また、カバー自体厚み18ミリ、重量4.3キロとそれなりの重さがあるので、女性でも軽い力で取り扱えるよう持ちやすいハンドルの形状にもこだわりました。
また、「防災グッズ」と聞くと災害時だけ取り出して使う=いざという時しか役に立ちにくいもの、というイメージが強いですが、この防災キャビネットは木の温もりがインテリアにもなじみやすく、また備蓄をしまっておくだけではなくスタンディングテーブルとして使うこともできます。
木工作家ならではの工夫が光る防災キャビネット。ここまでアイデアや配慮が詰まった作品が生み出された背景には、「良い商品ではなく良い道具を作る」という、黒坂さんのモットーがありました。
もともと長年メーカーに勤務していて製造から企画営業まで様々なことを担当していたのですが、「よい商品」と「よい道具」は違うなということを常々考えておりました。
工房黒坂製作所さん
「よい商品」とは売る側にとって利益を出しやすい商材のこと。他社製品と比べてカタログ上優れていたりキャッチコピーで唄える要素が多いほど売りやすいのですが、肝心の使い手にとってそれが使いやすく役に立つとは限りません。
一方で「よい道具」とは、それまでのストレスを解消し省力化や利便性の実現によって使う人にさまざまな恩恵をもたらすことができるものだと考えております。
工房黒坂製作所では、日々のくらしの中で「不便さ」や「使いにくさ」「面倒」といったことに目を向け、それらを木工の手段で解決することで日々のくらしを楽しくすることがものづくりの基本的な考え方としています。
この防災キャビネットを初めて拝見した時、使い手が本当に便利だと思うものを生み出す“工房黒坂製作所さんらしさ”を強く感じました。私たちが生活の中で「不便さ」「使いにくさ」「面倒」に感じることを、木工によって新たなアイデアとともに解決してくださったこの作品は、まさに使う人に便利さや快適さをもたらす“よい道具”。あったらいいなを形にされた作品だと思います。
このキャビネットを通じてみなさんもご自宅の災害グッズを改めて点検したり、食材をローリングストック(=日頃から少しずつ非常食を食べ、買い足していくことで常に新しい非常食を備蓄する方法)する習慣をつけたりと、防災を改めて見直してみてはいかがでしょうか。
「夏に合う素材って何だろう」オーガンジーを使った作品に初挑戦!オカノ・ナオさん
自身が設定した何らかの課題に対して、自由な発想で課題解決していただく「自由課題」。テーマを自分で決められる自由はありますが、それが必ずしも楽ということではないはず。ある意味小学生たちと同じ自由な環境で課題に取り組んでくださったのが、刺繍クリエイターのオカノ・ナオさんです。
実は今年の母の日、私はオカノ・ナオさんのカーネーション刺繍のお人形を母にプレゼントしました。母への贈り物だったとはいえ、私自身もそのお人形の愛らしさや丁寧で繊細な刺繍の虜になっていたので、今回自由研究に取り組んでいただけることになった時は「どんな新しい一面が見れるんだろう……」とワクワクが止まりませんでした。
「季節の訪れを楽しむ」をテーマに、季節を感じさせる刺繍雑貨を作られているオカノ・ナオさん。自由研究に取りかかる前、「実はずっとやってみたかったことが……」と語られていました。そしてついに完成した作品が……こちら!
~オカノ・ナオさんの自由研究~
・作品テーマ
オーガンジー刺繍で作る。吊るす涼やかなインテリア
・そのテーマにした理由
夏に合う素材・オーガンジーに刺繍を施し、大好きなインテリアを組み合わせて立体にしてみたいと思ったから。
・使ったもの
刺繍糸、オーガンジー布、ワイヤー、カピスシェル、ガラスビーズ、ガラスペイント、アクリルビーズ、パールビーズ、テグス、キーリング
・つくりかた
1. ワイヤーで身体の骨格を作る
2. オーガンジー布に刺繍をする
3. スタンプワークという技法でヒレを作る。
4. 糸で組み立てる
5. カピスシェルに色を塗る
6. テグスに材料を通す
・かかった時間
8日間
今まで、オカノ・ナオさん=フェルト作品というイメージが強かったので、最初この作品を見た時は私もびっくり。
フェルトとは全く違う「オーガンジー」から生まれた金魚は、今までのフェルト作品のかわいらしい雰囲気はそのままに、よりリアリティやファンタジーな要素が感じられる作品で、新たな扉が開いた……と思わず感動しました。
でもなぜ、フェルトではなくオーガンジーを使った作品に挑戦しようと思ったのか、そこには大好きなフェルトが抱えるちょっとした問題が関係していました。
今までフェルトやリネン、綿布などを中心に刺繍してきました。特にフェルトに刺繍した雰囲気が好きで好んで使っていましたが、夏になりフェルトという素材感が季節に合わないなと思うようになりました。
オカノ・ナオさん
夏に合う素材とはなんだろう?そう考えた時すぐに浮かんだのがオーガンジーでした。透け感、軽やかな感じが夏にぴったりで……。
今まで挑戦したことのなかったオーガンジー刺繍と大好きなインテリアを組み合わせて立体にすることができないか、とにかく研究してみようとこのテーマにしました。
たしかにフェルトの作品はその素材感や雰囲気がほっこりしているものが多く、どちらかというと秋冬のイメージが強い気がします。素材の魅力が、逆に障壁になることもあり得るということなのでしょうか。
この作品を完成させるにあたって、特に難しかったというのが「形づくり」だったそう。美しく空間に漂う金魚が誕生するまでには、様々な試行錯誤が重ねられていたようです。
オーガンジーとワイヤーをどうやって一体化させるか···ここの試作に時間がかかりました。
オカノ・ナオさん
最初はワイヤーに布を直接縫い付ければ良いと軽く考えていましたが、仕上がりが全く美しくなくてボツに。次に身体を袋状にして被せればいいんじゃないかと思いつきやってみましたが、立体なので布の形をどうすれば骨格にぴったりしたものにできるのかまた悩んで、何度も布の型を作り直しました。
結局形が理想に近づくまで4回やり直しています。ワイヤーの骨格にぴったりオーガンジーを被せることができた時はとても嬉しかったです。
骨格が完成したら、次はオーガンジーに刺繍をする工程です。この刺繍部分、特にヒレは、作品の中でも特に注目してほしいポイントとのこと。
オーガンジーの透明感と虹色の糸で魚の繊細なヒレを表現できたと思います。スタンプワークという技法で、ワイヤーがヒレにも入っているのでご自分の好きな角度にして楽しんでいただけるのもおすすめポイントです。
オカノ・ナオさん
全体的な色は綿菓子のような優しい色合いにしました。夏のお家で一息ついた時にゆったりとリラックスした気持ちで見ていただけたら嬉しいです。
これらのパーツを組み合わせていくわけですが、オーガンジーを立体に仕立てる上で参考にしたというのが、提灯。提灯は紙の素材感を活かしつつ中の骨組みのおかげで立体になっていることから、オーガンジーの透け感を維持しつつ立体に仕上げることができたそうです。
自身が今まで親しんでいた素材から少し離れ、あえて扱ったことのない素材にチャレンジされたオカノ・ナオさん。この企画に参加した感想を伺いました。
新たな素材・技法に挑戦してみたことは自分にとって本当に良い経験になりました。刺繍の可能性・表現方法という世界が広がったような気がします。何よりも試行錯誤を繰り返すことで、どんどん作品が良いものになっていく、その過程が本当に楽しかったです。
オカノ・ナオさん
今年の夏も暑くなりそうなので、お家でのリラックスタイムにこの金魚のモビールが少しでも涼と癒しをお届けできたらうれしいです。
クリエイターのみなさんの中には、「いつかこういう作品も作ってみたいな……」「新しいジャンルに進出してみたいな……」とまだ小さくても熱い想いを胸に秘めている方も少なくないのではないでしょうか。
今回の自由研究企画が、今まではなかなか重い腰を上げられなかったものに向き合ってみるきっかけを少しでも与えられていたら、私も嬉しいです。
大人だって、いや、大人こそ自由研究を。
クリエイター・ものづくりの力は計り知れず、我々がまだ気づいていない未知の可能性を秘めていると感じています。それが今回の企画を通して、確信に変わりました。
また、クリエイターのみなさんからも、
「自分のものづくりを見つめ直す良い機会になりました」
「今回の経験を糧にこれからも色々なものに挑戦していこうという意欲にもつながりました」
という温かいお声をいただいています。
今回はクリエイターが主役でしたが、もちろん、この記事をご覧いただいているみなさんにもぜひこの機会に自由研究に取り組んでみていただきたいです。日頃気になっていたことを童心に帰って取り組むもよし、ご自身が得意としている何かをこの夏突き詰めてみるもよし。大人になった今だからこそ、自由研究を通して気づけることもきっとあるはずです。
たまにはふと立ち止まって、みなさんの中にあるなにか“熱い想い”と向き合ってみる時間を作ってみてはいかがでしょうか。
今回の記事で密着した3名のクリエイターをはじめ、自由研究企画にご参加いただいたみなさんの作品は下記の特設ページにて公開中。「まだ自由研究何するか決まってない……」という小学生のみなさんにもおすすめのキット特集などもご用意しております。
ぜひご覧ください!