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“気になる”に寄り道。|積み重なった想いと技術。経木を使った木のノート
いま編集部が “気になる” 作品にフォーカスを当て、編集部目線でその魅力をお伝えする「“気になる”に寄り道。」シリーズ。読みものをきっかけに、みなさんにもちょっとした “寄り道” を楽しんでいただけると嬉しいです。
今回は、長野県伊那谷地域の地域材を使ったものづくりをしている、やまとわさんをご紹介します。木を薄く削った経木(きょうぎ)を使ったノートを手掛ける、やまとわさん。一枚一枚模様も質感も異なる木を一冊のノートにするまでには、自然を愛するやまとわさんと職人たちの想いと日々の努力がありました。経木の歴史や特徴にも注目しながら、木のノートの魅力に寄り道しましょう。
やまとわさんの、森の香りが漂う経木を使ったノート
国内で使用する木材の大半を輸入に頼っているなか、日本では手入れされず荒廃していく森林が多いのだそう。そんな現状を知ったやまとはさんは、「日本や世界の森を豊かに残したい」という想いで地域の森林資源を使うことにこだわって、木工職人として家具などをつくってきました。
一方でものづくりを続けるうちに、ひとりでつくる量では木材の活用に限りがあり、長く使える家具だけでなく、もっと日常的に消費される木材の製品をつくることが必要だ、と考えるように。
そんななか出会ったのが「経木(きょうぎ)」。経木とは木を薄く削って作る、主に食品の包装などに使われるものです。
やまとわさんの拠点である長野県伊那谷は、日本でも珍しくアカマツが多い地域。アカマツはくねくねと曲がって育ちやすく、家具などに使いにくいといわれていますが、アカマツのヤニには抗菌作用があるといわれ、生木を薄く削った経木として多く利用されていた歴史があったのです。
経木なら、日常的に消費される木製品で、脱プラスチックなどの環境問題にアプローチをしながら地域の木を適切な量を使用して活用することができる。また、アカマツが「松枯れ病」でどんどん枯れていき処分されているという問題にも対処することができる。
そのことに気付き、1年半もの月日をかけて経木づくりに取り組んできました。
木材一つひとつの特性を見極める力と鉋(カンナ)の技術の両方が必要な経木づくりに、制作当初は多くの苦労があったのだそう。
長野県でただ一人、約80年以上に渡って経木を生産し続けている職人を訪ねて生産機械を譲り受けたものの、半世紀前につくられた機械には説明書もなく、まずは構造を理解することからスタートしました。
年季の入った機械を分解して汚れも落としていざ削ってみると、なぜかくるくると丸まり、職人さんのようにきれいな経木にならない。刃の角度や丸太を切って整える木取りの仕方など、微調整をひたすら繰り返しながら、試行錯誤の日々が続きました。
機械のボタンを押せばつくれるというものではなく、季節によって水分量が異なる木の状態を見極める必要がある経木。だからこそ、ピンと真っすぐできれいな経木が削れるようになったときには、喜びは大きかったそうです。
経木は、おにぎりや食材を包んだり、料理の盛り付けに使ったり、落し蓋として使ったりと食関連で使うのがメイン。もっと暮らしのさまざまなシーンで使われるものをつくりたい、と考えるなかで浮かんだアイデアが、「木のノート」をはじめとした文房具でした。紙がなかった時代に木にお経を書いていたから「経木」という名前になったーー という歴史の背景を知り、文房具にしてみたら面白いのでは? と考えたのだそう。
紙ではなく木を製本できる会社を探し出し、同じ長野県伊那地域で手製本を行う製本会社美篶堂(みすずどう)さんと協力して「木のノート」は生まれました。
湿度によって反ってきたり、繊維方向に割れやすかったり、例え同じ枚数でも厚みが異なったりと、扱いが大変な経木を使った木のノートは、一冊ずつ手製本する美篶堂さんの手しごとがあるからこそできる努力の賜物。
紙とは異なり、生きている木で丁寧につくられたノートは経木一枚一枚に個性があり、同じものはひとつとしてありません。めくるたびに木目、大きさ、節目が異なります。
ボールペンや万年筆でさらりと書きたくなる書き心地で、御朱印帳としてもおすすめなのだとか。販売開始から2年が経ち、「木でできているとは思えない、柔らかなめくり心地でびっくり」といった声もたくさん寄せられています。
なによりの魅力は、手元にあるだけで癒されるところ。ページをめくるとふわりと木の香りがする「木のノート」は、気分が安らぎます。
信州伊那谷のアカマツ100%を使用した経木でつくられた「木のノート」。一冊のノートには、「日本の森の現状を変えたい。豊かな森を未来へ残したい」というやまとわさんの想いと並々ならぬつくり手の技術とこだわりが込められていました。
—— そろそろ寄り道の時間もおしまいのようです。
どうぞ次回もお楽しみに。