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【今、私が会いたい人】マヨリカ焼きで知った、自由に表現する喜び|CERAMICHE SEPPIA325さん
こんにちは。クリーマでデザインを担当している八木です。
今回「今、私が会いたい人」で私がお会いしに行ったのは、マヨリカ焼きで作品を制作する CERAMICHE SEPPIA325 の西川さんです。
「マヨリカ焼き」とは、素焼きのテラコッタに錫釉(すずゆう)※ をかけ、顔料で絵付けするイタリアの伝統的な陶器のこと。
※ 赤味や淡黄褐色がかった土器に、白味や光沢などを与えるために使用される釉薬の一種
西川さんは、鮮やかな色合いが特徴的なこの焼き物を、オリジナリティ溢れるユニークな絵柄で制作しています。
なかでも私がひと目惚れしたのがこちらの作品。ドル($)を背負ったトナカイの絵柄に心を奪われてしまった私は、そのインスピレーションがどこから湧くのか気になって、お話を伺ってきました。
ものづくりとは無縁の生活だった
——マヨリカ焼きとの出会いを教えてください
「もともと、ものづくりに関わることはありませんでした。夫が音楽バーを経営していたので、自分が好きな音楽のレコードを集めたりするぐらい… 人が作ったものを聴いたり、使うことはあっても、自分で何かを作ろうと思ったことは一度もありませんでした。ものづくりも習い事もまったく興味がなかったんです」
「マヨリカ焼きとの出会いは、本当にたまたま。散歩中にイタリア陶器を扱っているお店で見かけたんです。その色鮮やかさに心惹かれて、思わず調べて、初めて『マヨリカ焼き』というものを知りました。
さらに調べていくうちに、スペインのマヨルカ焼き※(以降マヨリカ焼き)を教えてくれるところが都内にあると知り、通うことにしました。
それが30代の頃。なぜだか自分でも分かりませんが、人生で初めて “自分で作ってみたい” と思ったんです」
※ スペインでは「マヨルカ焼き」と呼ばれ、スペインのマヨルカ島を経由してイタリアに入ってきたときに「マヨリカ焼き」と呼ばれるようになったといわれています
思いが募り、本場イタリアへ
「マヨリカ焼きの教室に通っているうちに、ますますその魅力にはまり、どうしても本場のイタリアで学びたいという気持ちになりました。そこで、並行してイタリア語も学び始めたんです。
仕事を続けながら都内の工房に7年ほど通い基礎を学んだのち、イタリアで何度か数週間の滞在を繰り返し、現地の工房で学ばせていただきました」
「その後はインターネットでいろいろ調べながらほかの工房や教室に通い、伝統的なものをはじめ、さまざまな絵柄を学びました」
イタリアの素材にとことんこだわる
——イタリアでの学びから、今の制作活動に活かしていることやこだわりがあれば教えてください
「帰国後、イタリアで学んだ絵柄を日本で再現しようとしたら、上手くいかないんです。同じ顔料や釉薬を使っても、温度や湿度が違うからなのか、なぜか同じ色にならないんですね。はじめの数年間は理想の色が出せず、本当に苦労しました。
特に緑と赤は綺麗な発色を出すのが難しいんです。例えば緑は、単色で塗ると薄いのに、重ねて塗ると銀色っぽくなってしまったり… イタリアで見た鮮やかな色を出すために、絵の具の調合を工夫しています」
「素焼きのお皿も、イタリアから輸入したものにこだわっています。質感もデザインも日本のものとは異なります。陶芸材料は日本で購入することもできますが、燃焼温度も違いますし、日本の土や釉薬とヨーロッパの土や釉薬を組み合わせてもうまく仕上がりません。
だから、素材はすべてイタリア・ヨーロッパ製にこだわっています。日本でイタリア製の素焼きのお皿は手に入らないため、イタリア語で現地のお店とメールのやり取りをしています。カタログや写真もないので、全然違うものが届くこともよくあって(笑)
この輸入がいちばん大変かもしれないですね。毎回ちゃんと届くのかドキドキしています。輸入まで自分でやるとは思っていませんでしたが、今はそれも楽しんでいます」
マヨリカ焼きの制作工程
今回は特別に、マヨリカ焼きの制作工程を少しだけ見学させていただきました。
・素焼きのお皿に釉薬(錫釉)をかける
・トレーシングペーパーに描いた絵柄を転写する
新作の場合はトレーシングペーパーに絵柄を描くところから始まりますが、今回はすでに描かれているものを制作いただきました。
お皿に絵柄に沿って針で穴をあけたトレーシングペーパーを乗せ、木炭をはたいて絵柄を転写していきます。
顔料を水に溶いて絵の具にし、転写された絵柄に色を付けていきます。
・窯で焼く
日本の一般的な陶器は1,250度で作品を焼成するようですが、マヨリカ焼きは少し低めの約1,000度で燃焼するため、その特徴である鮮やかな色彩で焼き上がります。
・完成!
7時間、窯で焼いたら完成です。
絵皿20cm CRC018 マヨリカ焼き イタリア陶器 コウイカ
マヨリカ焼きの自由なスタイルが魅力
——独創的な絵柄が可愛くて大好きなのですが、どんなところからインスピレーションを受けているのでしょうか?
「マヨリカ焼きを始めるまで絵を描いたことはなかったんですが、アルバイトをしていたイタリア食材店で作品を販売したところ、好きに描いてみたものが売れて驚きました。
それがきっかけで、自分の好きな絵柄を自由に描いてみようと思えたんです。以前から好きだったコウイカを描いたり、鳥や魚など、シチリアの伝統的なモチーフを自分好みの顔に変えてみたり。
アイデアは美術館に行ったときや、レコードジャケットから生まれることもあります。色の組み合わせの着想を得たり、ミュージシャンのポーズを真似て描いたり、さまざまな趣味を混ぜ込んで、思いついたら描いています」
「子どもの頃にピアノを習っていましたが、『こうじゃなきゃいけない』ってあるじゃないですか。マヨリカ焼きにはそういうものがないんです。線が一本あっても、なくてもいい。自由でいいスタイルが楽しくて、つい夢中になってしまうから続けているんだと思います。
自分で好きに描きながら『誰が買うんだろう?』と思っていたものが意外と売れたりして… 不思議だなと思っています(笑)」
——CERAMICHE SEPPIA325・西川さんが生み出す、個性溢れる作品の数々。ほんの一部ですがご紹介いただきました
「このお皿はナポリのシンボルとも言われているキャラクター、プルチネッラ※をモチーフにしました。 レコードジャケットやミュージシャンの写真で、思わず笑っちゃうようなポーズをしてるものがよくあるんですが、プルチネッラにそのポージングをさせてみました(笑)
私の中でのタイトルは『プルチネッラ、ROCK に目覚めるシリーズ』です」
※ イタリアの伝統的な風刺劇コメディア・デラルテ(仮面を使用する即興劇)に登場する道化師で、ナポリでは土産物店やレストランなど、街のあちこちで見かけるキャラクター
オーバル皿 26cm OVL040 コウイカ
「水族館で初めて出会ったときから大好きなコウイカ。
コウイカはつがいで行動するんです。メスのコウイカが出産中、オスのコウイカはほかのコウイカが邪魔しに来ないか見張ってたりするんですよ。そんなラブラブのコウイカを描いてみました」
「あるイタリア料理店さんから『店名入りの絵皿を作ってほしい』とご依頼をいただいたことがあります。『動物をモチーフに』とのことだったので、ヒツジを描いてみたのがこちらのボウルです。
動物は好きなので、さまざまなシリーズを描いています」
作っているときがいちばん楽しい!
——マヨリカ焼きのやりがいや、今後の夢があれば教えてください
「ご購入いただいた方に『使っていると、心が豊かになる』と言ってもらえたことがあってすごく嬉しかったんです。『こんな料理を乗せたらすごく素敵だった』とか、そういう言葉にも励まされています。
ものづくりを生業にされている方々の多くは、子どもの頃から作ることが好きだったと聞きますが、私はそんなことはなく、無縁の人生でした。だから、これでいいのかな? と思うこともあります。でも、今は毎日がすごく楽しいんです。
年齢は関係ありません。何歳からでも、みんな始めてください! って言いたいです。
もしマヨリカ焼きに出会えていなかったら、私の人生はつまらないものになっていたと思います。今後の夢は、これから先も今と同じくマヨリカ焼きを続けていたい、ということ。ずっと、作ることを楽しみ続けたいと思っています」
インタビューを終えて
いくつになっても、やりたいことを躊躇せずに楽しむ。言葉の壁も飛び越えてしまう。そんな、好奇心に溢れ、やりたいことに積極的な西川さんは、ご自身の作品のようにとても素敵な方でした。とっても嬉しそうに、そして楽しそうに紹介してくださる西川さんが印象的で、ますますファンになりました。
あるだけで暮らしが色鮮やかになるような、CERAMICHE SEPPIA325さんのマヨリカ焼きを、ぜひたくさんの方々に知っていただきたいです。
Creemaの存在が、新しくものづくりを始める誰かの支えになれたら嬉しいなと思いました。自分の仕事が、作ることを楽しみ続ける方々の力になれるよう、今まで以上に心を込めて取り組みます!
<文=Creemaスタッフ>