BLOG
【今、私が会いたい人】日々の試作も、独立も。毎日が挑戦。|花宵ガラス工房さん

こんにちは。クラウドファンディングサービス「Creema SPRINGS」を担当している遠藤です。
今回「今、私が会いたい人」でご紹介させていただくのは、ガラスアーティストの花宵ガラス工房・須藤珠美さんです。
幼いころ、家族に連れられてガラス工房を訪れてからというもの、ガラスの美しさに引き込まれてしまった私。光を通して輝く透明感と、繊細さに魅了されています。そして、数あるガラス作品のなかでも、花や空をイメージした花宵ガラス工房さんの作品にすっかり心を奪われました。
色彩豊かなガラス作品制作の裏にはどんなクリエイターの思いが存在しているのか、直接お話をお伺いしたく、工房へ足を運びました。
そこには、ガラス作家としてのあり方から、制作の細やかな工程に至るまで、常に挑戦し続ける姿がありました。

ステンドグラスから始め、吹きガラスでプロを目指す
—— ガラス作品づくりを始めたきっかけを教えてください
「もともとは会社員で、社内システムを開発するチームの事務を9年ぐらいやっていました。手で何かを作ることは好きだったので、趣味でステンドグラスのワークショップなんかに参加していましたね。
ステンドグラスはさまざまな種類の色ガラス板を、デザイン画に合わせて一枚一枚カットして繋げて完成させます。そのうちに、板ガラス自体に興味を持ちました。どうやって作っているのだろう?という興味が湧いて『最初からガラスを作ってみたい』と思うようになったのです。
そんなときにたまたま、テレビで吹きガラス※の工程を見て、これだ! と思いました。当時はまだ工房もほとんどなかったので、あるガラス工場へ体験しに行ってみました。
体験では、ふーっと吹くだけで、あとは職人さんが仕上げてくるのですが、これだと物足りなくて(笑)。ちゃんと学びたいと思い、教室に通うことにしたんです。それから3年間ぐらい通いましたが、なかなか上手くならなくて、何が正解かも分からない状態が続きました」
※ 吹きガラス:ステンレス製などの吹き竿に溶かしたガラスを巻き付けて、ストローの要領で口から息を吹き込んでガラスを成形する技法。

「そんななか、ずっと素敵だなと思っていたガラス作家、彩グラススタジオ主宰・伊藤賢治氏のスタジオに遊びにいった際、『教室やるからおいでよ』とお声がけいただいて。先生が基礎から教えてくださり、上達する兆しが見えてどんどん楽しくなっていきました。
その頃には、前の会社を辞めて派遣のアルバイトをしながら、使える時間とお金のすべてを吹きガラス教室に注ぎ込んでいましたね」

世界中からガラスアーティストが集まるシアトルでの研修
—— アメリカでのワークショップにも参加されていますが、その経緯を教えてください
「『新島国際ガラスアートフェスティバル』に参加したのがきっかけです。そこでは、毎年海外から作家を招いてワークショップやオープンデモンストレーション、レクチャーを行っているんです。
そのワークショップで熱心だった受講生に、アメリカでのガラスの研修を提供する新島スカラーシップという制度があるのですが、私も選出いただけることになって。シアトルで3週間ほど、世界中から集まるハイレベルな講師から教わりながらワークショップに取り組み、作品づくりを学びました。
アメリカ・ワシントン州シアトルは世界の有名なガラスアーティストが集まる街として知られています。最先端のガラス工芸を知り、さまざまなスタイルや技術があることを知りましたし、自分の立ち位置やレベルを感じ、世界を体感することができました。このシアトルでの経験はとても貴重ないい機会になりました」

より自由度の高い環境を求めて、自分の工房を持つことに
—— 2017年に独立して工房を立ち上げたときのことを教えてください
「最初は先生の工房の一部をお借りしたレンタルスペースで制作していました。
もともと自分の工房を持ちたいとは思っていたのですが、ガラスに深く携わるにつれて大変だという現実を知り... 工房スタッフとして働いた経験もなかったので、基本であるガラスの溶かし方すら知らず、自分には無理だと考えていました。
でも、より自由度の高い環境で作品を作ることを諦めきれなくて、最終的には先生に後押ししていただいて独立したのが40代はじめの頃。あのとき、無理してでも独立して、本当に良かったと思っています。
何事も自分の責任、というのは大変ですが、その分自由だということを実感しています」



春の色ぐい呑「金彩」ができるまで
今回は特別に、花宵ガラス工房・須藤さんの代表作のひとつでもある、春の色ぐい呑「金彩」の制作風景を見学させていただきました。
溶解したガラスを巻きつけて形を整える
1,200度以上に熱してドロドロになっているガラスを吹き竿に巻き取り、窯口に入れます。加熱しやわらかくしながら繰り返し形を整えていきます。




この、窯でガラスを熱して柔らかくし、息を吹き込んでガラスを膨らませ、紙リンで形を整える作業を繰り返し、ベースを作ります。
絵柄を付ける
ベースができあがったら、そこに絵柄をつけていきます。
春の色ぐい呑「金彩」の特徴でもある華やかな絵柄のベースには、金澄(きんずみ:金箔より厚手のもの)が使われており、まずはそれを巻きつけるところから。




高台作り
ここに至るまでもアシスタントの梶川さんがずっとサポートしていましたが、ここからは完全な共同作業になります。須藤さんがぐい呑みの本体となる部分を作り、梶川さんが高台部分を作り、それらを結合させます。


成形したものを、吹き竿から穴の空いていないポンテ竿※に移します。その後、ポンテ竿から切り離し、飲み口部分になる穴を成形していきます。
※ポンテとはイタリア語で「橋」を意味し、吹きガラスでは吹き竿から別の竿に受け渡す作業のことを指します。
飲み口を作る

形の完成


磨く


想像以上の工程の多さと、複雑な絵柄を描くための高度な技術の数々に、本当に驚きました。
コロナ禍にCreemaでの販売をスタート。2022年には初のクラウドファンディングも
——現在私が担当しているCreemaSPRINGSのクラウドファンディングに、プロジェクトを公開いただいたきっかけを教えてください
「以前は個展を頻繁に開催していましたが、コロナ禍でそれが難しくなり、ネットでも作品を見ていただけるようCreemaに登録してみました。
オンラインでは対面とはまた違う出会いもあり、『コロナで気分が落ち込んでいましたが、花宵ガラス工房さんの作品から元気をもらいました』というコメントをいただいて、とても嬉しかったことを覚えています。
当時『ランプを作ってみたい』という構想があったので、この機会に新しく作ってみようと思ったのがクラウドファンディング「CreemaSPRINGS」でプロジェクトを立ち上げた理由です。
ランプはグラスよりかなり大きいので、その分制作は大変です。気泡が入ってしまうと全体のバランスが良くないので、制作はより慎重さが求められます。また、一度試してみないとどのような発色になるのか分からないので、何通りもの組み合わせを試しました」

「光を通すとガラリと変わる表情、この照明を見て思い出されるいつか見た空。『あ、あの時の空にそっくり!』そんな、ご自身の心情風景の空を思い出していただけたら… という思いで作ったのがこちらのペンダントランプです」


「クラウドファンディングはたくさん反響をいただき、目標も達成することができました。いい経験になったと感じています。『それぞれの空』シリーズとしてほかのデザインも制作していますので、ご覧いただけると嬉しいです」
花宵ガラス工房・須藤さんにとって「挑戦は日常」
—— 須藤さんが今後、挑戦したいと思っていることがあれば教えてください
「私は常に挑戦していると思っているので、毎日が挑戦になります。新しい作品を生み出すために、日々試作品づくりを行っているんです。
アイデアを絵に起こすことはしません。頭にあるイメージをそのまま、色を重ねたり、形を整えたり、手を動かしながら少しずつイメージ通りの作品に仕上がるまで繰り返します。
これからも毎日の挑戦を積み重ねて、ガラスの魅力を最大限に引き出した、より良い作品を作っていきたいと思います」
インタビューを終えて

初めて工房での作品づくりを見学し、その工程の多さに心の底から驚きました。何度も色を重ねることでようやくあの絵柄になること、アシスタントさんとの息のあった連携、それらを目の当たりにして、いかにものづくりが繊細で感動的かを体感できたとても貴重な経験でした。
そして、須藤さんの「常に挑戦している」という言葉が私のなかで強く印象に残っています。私自身も立ち止まらず常に挑戦や学び続けていくこと、さらにCreemaSPRINGSを通して “ものづくりをする方が挑戦し続けられる環境をより良いものにしていくこと” に対する思いが一層強くなりました。
花宵ガラス工房さんでは、一つひとつ色合いにこだわったグラスシリーズが展開されています。繊細な質感と鮮やかな色合いのガラスの魅力に皆さんも酔いしれていただきたいです。ぜひギャラリーページを訪れてみてください!
<文=Creemaスタッフ>