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【"気になる" に寄り道。】ひと結び、ひと色に想いを込めて——動物たちのご祝儀袋ができた理由

いま編集部が “気になる” 作品にフォーカスを当て、編集部目線でその魅力をお伝えする「“気になる” に寄り道。」シリーズ。読みものをきっかけに、皆さんにもちょっとした “寄り道” を楽しんでいただけるとうれしいです。
今回は、水引工作所さんが手がける、動物モチーフのご祝儀袋をご紹介します。
結婚式や入学祝いなど、人生の節目に贈るご祝儀袋に、思わず笑みがこぼれるようなサプライズを添えたい——。その想いから、一枚の紙と一本の水引で、愛らしい動物たちが形になりました。
動物のデザインや色使いへのこだわりに触れながら、心あたたまるご祝儀袋の世界に寄り道してみましょう。
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水引で描く動物たちと、祝う気持ちを届けたい
出産を機に「家でもできるものづくりを」と探していたときにふと手に取った一冊の本。それが、水引との出会いでした。なぜ数ある水引のなかでも 「ご祝儀袋」 にこだわったのか。
そこには、20代の頃 “妥協して選ぶもの” だったご祝儀袋に、自分なりの価値を加えたいという想いが根底にありました。
友人の結婚式に参列するときに、ご祝儀袋選びに悩んでいた水引工作所さん。
文具店の棚に並ぶのは、どこか味気ないご祝儀袋ばかり。バリエーションの少なさから、「これでいいか」 と妥協してしまう——。そんな記憶が、心に残っていたのだそう。
贈る人・贈られる人のわくわくを大切にしたい。そんな気持ちから、ご祝儀袋づくりは始まりました。
本を頼りに独学で結びを覚え、何千と繰り返すうちに、水引はまるでカゴ編みのように「上に行ったら次は下へ」と通る、“立体的な迷路” のような構造だと気づいたといいます。
少しずつ水引の道筋を自分のなかで組み立て、やがてオリジナルの結び方へと挑戦するようになりました。
こだわりは、「誰が見てもその動物だとわかる」再現性
伝統的な結びをただ真似するのではなく、「自分が本当に作りたいもの」を形にしたいという考えから、学生時代から好きだった動物をモチーフにしたご祝儀袋の制作をはじめた水引工作所さん。
デザインのこだわりは、「動物のリアルなフォルム」。キャラクターのようにデフォルメせず、誰が見てもその動物だとわかるように意識しているのだそう。
たとえば顔が丸い動物には「梅結び」を使うなど、動物の輪郭に近い形の結び方を選ぶ。その上に、「耳や口元はどう表現しようかな?」と、まるでパズルのようにさまざまな水引を組み合わせていきます。
水引の本数や締め具合でサイズ感を調整したり、パーツ同士を重ねて立体感を出したり。ときには意外な色を混ぜても、ひとつの結びにすると不思議とまとまりが出て、思いがけない美しさに出会えることも。
そうした瞬間に楽しさや喜びを感じるといいます。
たくさんの動物のなかでも、特に思い入れがあるのが「ユキヒョウ」。
水引だけではそのヒョウ柄を表現できても、再現ができない。頭を抱えて悩む日が続きました。

解決策を求めて立ち寄ったビーズショップで、ヒョウの柄のような形のビーズを発見し、その場で採用を決意。
「水引だけで作らなければ負け」という思い込みを乗り越えた瞬間でした。
水引とビーズの組み合わせを見つけてからは、これまで避けていたアザラシなどの模様のある動物にも挑戦するようになったのだそう。
目をつけない。それも、こだわりのひとつ。
わずか0.5mmの違いで表情が大きく変わってしまうからこそ、あえて目をつけずに、作品の再現性を高めています。
さらに、水引工作所さんが大切にしているのは「動物は、自分で完成かどうかを決めない」という視点。作品が仕上がったかどうかの判断は、子どもたちの素直な目にゆだねています。「できた!」と自信満々でサンプルを我が子に見せても、別の動物の名前が飛び出すことも。
子どもたちの純粋な視点が、作品づくりの大切な仕上げになっています。
学びを重ねて育まれた、記憶に残る色づかい
水引という伝統技法と、ユニークな動物モチーフ。その融合を印象づけているのが、ぱっと目を惹く色づかいです。その鮮やかな配色には、学び続けてきた色彩理論が活かされています。
きっかけは、大学時代に色彩検定に関わる教授と出会ったこと。その教授の影響で、色はセンスだけではなく、勉強して深められる世界だと気づいたのだそう。
色相環やイメージチャートといった理論を学び、配色による表現の幅を広げました。
“晴れの日のサプライズ” を、水引に込めて。
かつては、「これでいいか」と妥協して選ぶことも多かったご祝儀袋。
そんな小さな違和感から生まれたのが動物モチーフのご祝儀でした。
水引工作所さんのコンセプト「晴れの日にサプライズを。」には、大切な相手を想って選んだ特別な一枚で、お祝いの気持ちを伝えるという願いが込められています。
大切な人のために心を込めて選んだことが、贈る瞬間にしっかりと伝わるように——
だからこそ、新郎新婦の好きな動物や飼っているペット、好きな色を思い浮かべながら選ぶご祝儀袋は、贈る側にとっても受け取る側にとっても、お互いの絆をあらためて感じられる特別な存在になります。
今では「ダックスを飼っている友人へ」「名前に “虎” がつく子への入学祝いに」など、贈る相手にちなんだエピソードがたくさん寄せられています。どれも贈る人の想いが感じられる、あたたかなストーリーばかり。
「あの人のために」と選ばれるご祝儀袋だからこそ、一つひとつに心を込めて仕上げる—— そんなものづくりの姿勢が、作品にも表れていました。
これからも、動物モチーフのご祝儀袋は、“晴れの日のサプライズ” をそっと届けてくれることでしょう。
—— そろそろ寄り道の時間もおしまいのようです。
どうぞ次回もお楽しみに。
<文=阿部愛理菜>