BLOG
【"気になる" に寄り道。】記憶をすくい、描く。やさしい情景が広がる雨傘
いま編集部が “気になる” 作品にフォーカスを当て、編集部目線でその魅力をお伝えする「“気になる” に寄り道。」シリーズ。読みものをきっかけに、皆さんにもちょっとした “寄り道” を楽しんでいただけるとうれしいです。
今回は、スケッチ画からテキスタイルのデザインを手がける、mumeaさんの傘。
描かれているのは、植物や動物たちがそっと息づく、静かな風景です。傘を開くと、緻密に描き込まれた世界が雨空に広がります。
空気感や光の移ろいまでも丁寧に描き出す、mumeaさんの表現のこだわりに触れながら、やさしい情景が広がる傘の世界へ、寄り道してみましょう。
\感想、お待ちしています/
記事のご感想やリクエストをぜひ!(記事の最後にリンクがあります)
mumeaという名前に重ねた、世界観
ブランド名「mumea(ムメア)」は、スワヒリ語で「植物」を意味する “mmea” が由来です。
有機的でやわらかな美しさを大切にするこのブランドに、その響きや形がぴったり重なったことが、名づけの決め手になりました。
自然や植物が持つ、やわらかく包み込むような空気感を、テキスタイルとして形にすること。そして、布という日常に近い存在を通して、身につけた人の心にそっと寄り添うこと。
それらを通じて、優しい気分や心地よさを感じられるデザインを届けたいという想いが、mumeaさんの創作の核となっています。
「言葉にできないけれど、忘れたくない」を絵にして
瑞々しく茂る草花の間を、小さな動物たちが駆け回る——
描かれているのは、どこか懐かしさを感じる “記憶の中の風景” です。
それは、mumeaさんが「言葉にできないけれど、忘れたくない」という感情と向き合って生まれるもの。
絵にしなければ消えてしまいそうな、繊細な記憶や気配をとどめておきたい。そんな想いが、筆を動かす原動力になっています。
星座と天体をモチーフにした「1, 23.4°」では、時間が止まったような静けさを描きたかったのだそう。その静けさを表現するため、天の川や月といった要素を加えて調整を重ねていきました。
「雪月風花」は、mumeaさんが「自分らしい思想を表現できた」と語る作品。相反するものを、ひとつの画面に共存させた作品です。
この絵は、白黒の線画の上から水彩を重ねて描かれたもの。そうすることで、やわらかな奥行きが生まれ、春と冬、光と影—— ふたつの世界が重なるような構図に仕上がっています。
対立するものが、調和する。そこに宿る静かな世界観が、「雪月風花」の魅力です。
春が来ると冬を忘れてしまうように、私たちは時に、一面しか見えなくなる。だからこそ、表面だけでなく、その奥にある本質を見つめていたい。そんな想いを込めています。
空気を纏うようなデザインへのこだわり
作品づくりは、思いつくままにスケッチを重ねるところから始まります。浮かんだイメージをひとつずつ描きとめながら、手を動かし、思考を深めていく。
そうして描き溜めた膨大なスケッチのなかから、テーマや世界観を支えるモチーフを選び抜きます。それらを傘という “画面” のなかにどう配置するか。どんな画材やタッチで描くか。本画に移るまでには、静かで長い、思索の時間が流れます。
大切にしているのは、「わずかな起伏をすくいとる」ような、繊細なタッチです。生き物たちの持つ存在感や、言葉にできない気配を思い出しながら、一つひとつ描いていきます。
心に浮かんだ抽象的な情景は、やがて動きや透明感をまとい、少しずつ形になっていきます。
そして、色づかい。mumeaさんにとって、色は感情や記憶と深く結びついたものです。その記憶を手繰り寄せるようにして、もっともふさわしい色を探し、丁寧に重ねていきます。
心にふれる、絵柄を暮らしのなかに
「描くよりも考える時間の方が長いかもしれない」、mumeaさんはそう話します。
日々のなかでふと過ぎていく一瞬をすくいとり、そこにそっと意味を与えるようにして生まれた絵たち。
自然のモチーフと、感情のゆらぎが織り交ぜられたその表現には、mumeaさんらしいやさしさと思索の深さがにじんでいます。
作品を通して、自分らしさや、本質的な幸せをふと思い出してもらえたら——。
傘をひらくたび、物語のような情景が広がり、日々の暮らしに静かな彩りを添えてくれることでしょう。
—— そろそろ寄り道の時間もおしまいのようです。
どうぞ次回もお楽しみに。
<文=阿部愛理菜>