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【今、私が会いたい人】2cmの中に広がる、ジオラマの世界|ミリプラネットさん
こんにちは。Creemaでクリエイター活動のサポートを担当している藤井です。
今回「今、私が会いたい人」でご紹介するのは、季節の風景を地面ごと小さく切り取ったような、わずか2cmほどの「テラリウムブロック」を制作するミリプラネット・森田さんです。
私がミリプラネットさんに初めてお会いしたのは、「HandMade In Japan Fes'」でした。
まるで宝石のように整然と並べられた小さな「テラリウムブロック」をみた瞬間、思わず足を止めてしまいました。悩みに悩んで、真っ白な雪景色が表現された作品をひとつ選び、購入したことをよく覚えています。
今回はアトリエにお邪魔し、その小さくて美しい世界がどのように生まれているのか、じっくりとお話を伺いました。
特撮との出会いが火をつけた、 “つくることへの情熱”
—— ものづくりに目覚めたきっかけは何だったのでしょうか?
「ものづくりの原点は、幼稚園のときに粘土で船を作ったことです。手すりを指先で丁寧に形づくったら、先生に『細かいところまですごく上手だね』と褒めてもらって。いまでもはっきり覚えているくらい嬉しくて、そこから夢中になっていきました。
その後も、厚紙細工や段ボール、プラモデルなど、素材は変われど “つくること” はいつも身近にありました。なかでも衝撃的だったのは、実写では表現できない映像を工夫で生み出す、特撮(特殊撮影)との出会いです。
『ウルトラマン』や『スター・ウォーズ』を観て、それらが “作り物” だと知った瞬間、大興奮しました。こんな造形物で画面が埋め尽くされているなんて! あれでさらに火がついて、のめり込んでいきました」
小さな大世界、2cmのミクロワールド
—— なぜ2cmなのでしょうか?
「植物を育てる時間や環境がなかったり、雑貨を飾るスペースが限られていたり…そんな現代を生きる方々に、日常の暮らしを邪魔することなく、最小のサイズで最大限の “緑の癒し” をお届けしたいと考え、研究を重ねた結果、たどり着いたのが2cmというサイズでした。
何より、チョコレートのような “ひとくちサイズ” として、一番かわいいのが2cmだと思っています。不思議なもので、1cm違うだけで雰囲気ががらりと変わるんです。1cmだと小さすぎて、3cmになると “ひとくちサイズ” とは呼べず、少し大きすぎるんですよね」
—— 作品のモチーフは、どんなところから生まれるのでしょう?
「僕、すぐ何にでも感動してしまうんです(笑) 映画の予告編でも泣くし、素敵なイラストを見ても涙が出てくる。その感動を形にしたくて、再現したくて、テラリウムブロックという形で表現しているんだと思います。
具体的な風景というよりは、心を動かされた 瞬間やイメージから着想を得ることが多いですね。だから縮尺が変だったり、現実には存在しない景色もあります。
たとえばこの作品、自転車や船のバランスが、サイズ感的にはおかしいですよね。でも絵になるから、そのまま作ってしまう。リアルさよりも、印象に残ることを大事にしているんです」
—— 本物の木の枝や模型用パウダーなど、さまざまな素材が使われていますよね?
「素材は、海外から輸入して使っているものも多いです。木は枝ぶりのかっこいいものが国内では見つけられず、細さと力強さを兼ね備えたこちらの品種をずっと使っています」
「特に木々の表現にはこだわりがあって、色を加えたり、切って接ぎ木したり。全部ワイヤーで作るとどうしても人工的になってしまうので、自然素材と人工物をうまく組み合わせて、よりリアルに見えるよう工夫しています。
接ぎ木のように組み合わせて1本の木を仕立てる。さらに模型用パウダーで着色し、四季折々の風景に合わせて繊細な表現を施していきます」
「秋葉原や中野の専門店を巡って、実際に見て、手に取って素材を選ぶことも大切にしています。新しい素材を見たときに『これで面白い景色が作れるかも!』って閃く瞬間が最高に楽しいですね!」
大切にしているのは、「見る人の記憶に寄り添うこと」
—— 作品づくりでのこだわりを教えてください。
「僕の作品には、懐かしさを呼び起こすモチーフや生まれ育った町を思い出すような風景が多く登場します。写真資料をもとにリアルさを追求する一方で、見る人の記憶に寄り添うことも大切にしたいなと思うんです。2㎝の小さな世界で、ストーリーを感じてもらえるよう意識しています」
「好きな風景を所有できる嬉しさや、ふと見た瞬間に違う世界にトリップ出来るのも、ミニチュア作品の魅力の一つだと思うんです」
ジオラマの魅力をもっと広めたい
—— 今後、取り組んでみたいことはありますか?
「特撮に夢中だったあの頃の “作られた世界” への憧れが、今思えば、手のひらサイズのジオラマ「テラリウムブロック」として形になっているんだと思います。
これからは、ジオラマの敷居を下げて、もっとたくさんの方々にジオラマの魅力を届けたい。
ジオラマって本来はもっと大きくて、高価で、飾る場所も必要。でも僕の作品は手のひらサイズなので、もっと気軽に手に取ってもらえると思うんです。『これなら飾ってみたい』『買ってみたい』と思ってもらえるきっかけになれたらうれしいです」
インタビューを終えて
お話を伺って感じたのは、ミリプラネットさんのなかに宿る “つくることへの情熱” の深さと、揺るぎない探求心でした。
素材選びひとつをとっても、「よりリアルに」「もっと印象的に」と、細部へのこだわりと遊び心が常に共存しています。その姿勢は、作品のサイズの小ささとは対照的に、ものづくりへの大きな愛に溢れていました。
そして何より心に残ったのは、「見る人の記憶に寄り添いたい」という想い。
ミリプラネットさんの作品が放つあたたかさや懐かしさは、技巧や造形美を超えて、誰かの記憶にそっと触れるような、優しい力を感じさせてくれます。
それは、学生時代から今も通勤で通っている道。満開の桜が咲き誇る、私の大好きな季節のワンシーンです。いつも乗っている自転車も加えていただき、眺めるたびに “あの日の春” に戻るような、特別な作品になりました。
2cmの小さな世界に詰まった、懐かしい風景や、誰かの物語。
日々新しい作品を生み出し続けているミリプラネットさんのギャラリーには、癒されたり、心がふわっと軽くなったりする、あなただけの特別な景色がきっとみつかるはずです。ぜひ、のぞいてみてください。
<文=Creemaスタッフ>