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【“気になる” に寄り道。】糸を重ねて光を描く。本物以上に “リアル” な刺繍のブローチ
いま編集部が “気になる” 作品にフォーカスを当て、編集部目線でその魅力をお伝えする「“気になる” に寄り道」シリーズ。読みものをきっかけに、皆さんにもちょっとした “寄り道” を楽しんでいただけるとうれしいです。
今回は、本物のようなみずみずしさを刺繍で表現した、刺繍作家・Amiさんの「フレッシュ果実のブローチ」をご紹介します。
そのリアルさは「えっ、これが刺繍?」と思わず二度見してしまうほど。不透明で毛羽立ちのある刺繍糸という素材から、どうしてこんなにも果汁が滴るような質感が生まれるのでしょうか。
「横振りミシン」と呼ばれる、まるで手描きのように自由な表現ができるミシン刺繍の技法や、リアルな質感を縫い描くこだわりに触れながら、その魅力に寄り道してみましょう。
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「陰影」で描き出すリアルさ
トマトのブローチには、ゼリー部分のみずみずしさ。キウイフルーツには皮のざらつきまで。
思わずかぶりつきたくなるような果実の断面には、それぞれの質感が丁寧に縫い描かれています。
そのリアルさを支えているのは、「陰影」への徹底したこだわり。
複数の色を重ねて奥行きを生み出し、まるで絵画のように果物の個性を鮮やかに浮かび上がらせていきます。
たとえばトマトの果肉部分には、白からピンクへと移ろう繊細なグラデーションを。種のまわりには複数の赤を重ね、その上からスパンコールをあしらうことで、光が透けるような透明感が生まれます。
素材選びにもこだわりが。Amiさんが用いるのは、光沢がある刺繍糸。光を反射して陰影がより際立ち、まるで今にも果汁が滴るかのようなみずみずしさを与えています。
この「陰影」による奥行きある質感は、Amiさんがどのモチーフでも大切にしている表現です。
花のモチーフにもその技は生かされています。紫陽花の刺繍リースは、ふわりと丸く咲く姿を、平面でありながら立体的に表現。丸まった葉先や花の重なりまでも、糸の色と方向だけで陰影を生み出しながら描かれています。
艶のある椿の葉も、重ねた糸と光沢を巧みに使い、自然光のもとでは光と影が揺らぎ、本物の葉のような表情を見せてくれます。
「横振りミシン」で描く、即興の刺繍
服飾の仕事をしていた祖母の影響で、幼い頃から針と糸に慣れ親しんできたAmiさん。学生時代には趣味で手刺繍を楽しみ、細かな表現ができる刺繍は性に合っていたといいます。やがて、「もっと大きい作品を作ってみたい」という思いが芽生え、ミシン刺繍に挑戦することに。
選んだのは、ヴィンテージの横振りミシン。ジグザグミシンの幅を調整しながら、自らの手で刺繍枠を動かして描くように縫うタイプのミシンで、着物や帯などの和装品や、スカジャンの背中など、大きな柄の刺繍に使われてきた道具です。
あらかじめデータ化された柄を自動で縫っていくコンピューターミシンとは異なり、自分の手で生地を動かしながら刺繍していく横振りミシン。
まるで絵筆を握って絵を描くような感覚で、「ここはこうしたほうがいいかも」というひらめきを、その場で形にできる。Amiさんは、そんな即興性のある表現が、自分にいちばん馴染むスタイルだと感じているそうです。
そうして仕上げられる作品は、どれも少しずつ異なる表情を持ち、それぞれに個性が宿ります。
一色ごとに糸を替え、色を幾重にも重ねていく刺繍は、時間も手間もかかる工程。
それでも、機械的ではない、手しごとならではのぬくもりを大切にしながら、ひとつずつ丁寧にかたちにしていきます。
本物よりも魅力的な “リアルさ” を
果実のみずみずしさや、植物の柔らかな光沢。そのモチーフが持つ魅力を、刺繍糸で「本物以上に」表現するAmiさん。
そこには、陰影の重なりや色彩の繊細さに向き合う姿勢がありました。
この秋には、新作のリースもお披露目予定とのこと。次はどんな情景が描かれるのでしょうか。
—— そろそろ寄り道の時間もおしまいのようです。
どうぞ次回もお楽しみに。
<文=庄司彩>