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【今、私が会いたい人】ひとりでは見えなかった景色を、ふたりでガラスに。|ガラス作家・Yu-tenさん
こんにちは。クリーマで経理を担当している寺尾です。
普段は数字と向き合う仕事をしている私ですが、Creemaの作品を眺めていると、ふと「どんな人が作っているんだろう」と気になることがあります。
先日、目に留まったのは、ガラス作家・Yu-tenさんの一輪挿しでした。
母の仏壇に花を供えるための花器を探して出会った、透明なガラスでありながら、どこかあたたかさを感じるその作品に心を惹かれました。
決して主張しすぎることなく、凛とした佇まいで光をたたえる姿。それでいて、不思議と空間にやさしく溶け込み、眺めているだけで心がふっとほぐれていくような感覚がありました。
ガラスという素材が、作り手の手を経て、こうもあたたかく、あるいは静かに寄り添うものへと変わるのかと驚かされ、今回Yu-tenさんが制作している工房を訪ねました。
作品にしたいのは、特別な景色より、ささやかな記憶
—— 作品のモチーフは、どのように生まれるのでしょうか。
Yu-ten・高橋真彩さん(以下:真彩さん)「私たちの作品は、景色をモチーフにしているものが多いんです。
でも、それは旅行先で出会ったような特別な景色じゃなくて、子どもの頃に見た風景だったり、散歩をしていてふと目に留まったものだったり。そういう日常のなかにある、ささやかな記憶から生まれることが多いですね。
例えば、雨上がりの葉っぱに残るしずくや、空へふわりと浮かぶシャボン玉。誰もがどこかで目にしたことのある、そんな何気ない景色です。
だから作品名も、『雨上がり』『しゃぼん玉』『春風』と、とてもシンプルにしています。
見てくださる方それぞれが、自分の思い出を重ねられるように。あえて説明しすぎない名前を付けています」
雨上がりのグラス 朝
春風のグラス
異なるふたりだからこそ、形にできる景色がある
—— おふたりは、同じ景色を見て、同じように作品を思い描くのですか?
Yu-ten・高橋尚吾さん(以下:尚吾さん)「実は、全然違うんです。彼女が心を動かされるのは、その景色から受けた空気感や感情。僕が目を向けるのは、光の入り方や、それをガラスでどう表現できるかという技術的な視点です。
例えば、同じ雨上がりを見ても、彼女は『どんなふうにきれいだったか』という印象を心に残し、僕は『どうやったらあの透明感をガラスで表現できるだろう』と考えます。
見ている景色は同じでも、持ち帰るものはまったく違います。
だからこそ、ひとりでは思いつかない作品を生み出せるんだと思います」
真彩さん「新しい作品を作るときは、いつも私の『こんな作品を作りたい』というイメージから始まります。
細かな設計図があるわけではなく、スケッチをベースに『もう少し雨粒が残っている感じだったかな』『光はもっとやわらかかった気がする』と話しながら、ふたりで少しずつ思い描いた景色に近づけていきます」
尚吾さん「彼女のイメージに、僕が技法の視点を重ねます。『こういう透明感なら、泡の大きさを変えた方が近いかもしれない』『色を少し薄くした方が空気感が出るかもしれない』、そんなことを話しながら、ひとつずつ形にしていくんです」
思い描いた景色を、何度も追いかけて
—— 思い描いた景色を作品にするまでに、苦労することはありますか?
尚吾さん「ガラスは、一度形になってしまえば簡単にはやり直せません。
温度や時間、吹き込む息の強さ。ほんの少し条件が変わるだけで、まったく違う表情になります。だから、何度も試作を繰り返します」
真彩さん「完成までに一年くらいかかった作品もあります(笑)
例えば、『桜』シリーズもそうです。新しい一歩を踏み出すときに背中を押してくれた、やさしくて、力強くて、華やかな景色。毎年桜を見ると、そのときのことを思い出します。
表現したかったのは、桜そのものの形ではなく、満開の桜を見渡したときの、あの広がりや奥行きでした」
尚吾さん「色の選び方はもちろん、粒の細かさやバランス、どうやって色を付けるかまで、二人でたくさん話し合いました。色のパウダーをふるう茶こしを自分たちで作ったりもしましたね」
尚吾さん「思い描いた景色にならなかったら、また最初からですね。もう少し近づけるんじゃないか、って」
真彩さん「今もまさに、新作に取り組んでいるところなんです。紫陽花をテーマに、来年の紫陽花の季節には、皆さんにお届けできたらと思っています」
ガラスで届けたい、 “使うための美しさ”
—— ガラスの魅力はどんなところにありますか?
真彩さん「透明なのに、触れて使えるところですね。それってすごく不思議で、魅力的だと思うんです。
ガラスは、光や景色を映し、季節によって表情を変える、眺める楽しさもある素材です。それでいて、暮らしの道具でもある。その両方を持ち合わせているところに惹かれます」
ガラスそのものの魅力を語る真彩さんの隣で、尚吾さんは少し違う視点から話してくださいました。
尚吾さん「ガラスは繊細なイメージを持たれることが多いですが、できれば毎日使っていただきたいと思っています。割れやすいからこそ、普段使いしやすい丈夫さや口当たりの良さも大切にしたいんです。
見た目の美しさだけでなく、持ちやすさや重さ、実際に使ったときの心地良さも大切にしながら制作しています」
美しさだけではなく、毎日の暮らしの中で自然と手が伸びること。
Yu-tenさんのガラスには、そんな “使うための美しさ” が大切にされていました。
インタビューを終えて
工房を後にする頃、最初に感じたあたたかさの理由が、少し分かった気がしました。Yu-tenさんが作っているのは、ガラスそのものではなく、誰かの記憶と重なる景色です。
雨上がりの空気。空へ浮かぶシャボン玉。ふわっと香る春風。
作品に、見る人それぞれの思い出がそっと重なっていくからこそ、どこか心があたたかくなるのかもしれません。
そして、その景色は、おふたり一緒でなければ生まれません。ガラスへのアプローチが異なるおふたりが、お互いの視点や感性を少しずつ重ね合わせることで、ひとつの作品が生まれていく。今回の取材を通して最も印象に残った光景でした。
ブランド名の「Yu-ten」は、「融点(=固体が熱によって溶け、液体へと変わる温度)」に由来しているそうです。自分たちの作るガラスが、誰かの心がほぐれるきっかけになれば—— そんな願いが込められています。
インタビューを終えた今、私には「融ける」という言葉は、ガラスだけではなく、ふたつの感性が重なり合う瞬間そのものを表しているようにも思えました。
ぜひ皆さんもYu-tenさんの作品を手に取り、自分だけの思い出や景色を重ねながら、その魅力を感じてみてください。
<文=Creemaスタッフ>
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