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手作り腕時計作家 “GaTa” watch smithさん-時間を忘れさせる腕時計を_作り手インタビューvol.14

こんにちは。クリーマの宮崎です。

1つ1つの表情が異なり、個の魅力があふれる手作り腕時計。まるで、人の顔のようにも感じます。

携帯電話で時間を確認し、駅やお店に入ればかならずと言っていいほど時計がある現代。その中で、これほどにユニークな手作り腕時計が生まれたのは、もはや時間を確認するだけの理由ではないでしょう。

私が手作り腕時計の魅力を知ったのは、クリーマの中でのこと。

それまで腕時計と言えば、重厚感のあるヨーロッパのブランドや、機能的でシンプルな日本のブランドを思い浮かべていましたが、その時に出会ったのは、全く知らなかった「手作り腕時計」という世界でした。

 

今回お会いしたのは、そのきっかけを下さった、手作り腕時計作家 “GaTa” watch smithの潟口さん。

1996年から腕時計作りをスタート。腕時計作家としてのキャリアは20年を越え、およそ2万本の時計を作ってきた、日本の手作り時計を牽引するパイオニアのお一人です。

鋳造などは一切行わず、昔ながらのやり方で、すべての作業を自らの手で行い生み出されています。

 

今日もその手で腕時計を作り続ける信念と、手作り腕時計への思いについて。

銀や真鍮、銅を素材に、板、丸線、角線の状態の素材を切って丸めてたたいて、1つ1つのパーツを作り、組み合わせて形にしていきます。
同じように作っても2つとして同じものはありません。型を作り溶かした金属を流し込む鋳造やキャストなどは行わず、すべて手作業にこだわります。

自分の手の中で完結するものづくりがしたかった

- 作ることを仕事として意識したのはいつごろでしたか?

「中学生ぐらいから、何か作る仕事をしたいと思っていましたね。ビルとか家とかではなく、自分ひとりで、手の中で完結すること。自分で作ったものを自分でアピールできるようなものが良かったんです。

材料工学系のコースのある大学へ進み、金属やセラミックなどの勉強をしていましたが、今の時計作りに活きることも結構あるんですよ。

周りはメーカーに就職する人が多かったけど、車とかメーカーの仕事って、最初から最後まで一人で完成させるものではなく、役割分担が明確にされているでしょう。でも、僕はそういうものづくりがしたいわけではなかったんです」

 

- 「1人で完成」という思いは、腕時計作りに通じるところですね。では、"GaTa" watch smithさんの腕時計作りは、どのように始まったのでしょうか?

「実は、僕の手作り腕時計の師匠である篠原のことは、いつか雑誌の記事で見かけたことがあったんです。前職は彫金の仕事をしていたのですが、今後のことについて考えていた時に、ふと、その師匠の記事を思い出したんです。どこか心の中にあったんでしょうね。

直感的に、どういう仕事を選ぶにしても、まずこの人に話を聞いてみたいと思って、すぐに電話して会いに行きました。そして、そのまま働くことになったんです。前職の経験から、ろう付けの作業は覚えていたので、その技術を買われて次の週からはもう働き始めていました」

腕時計作りをはじめて、3か月で独立

「1か月くらいしたら、師匠の篠原から、アシスタントなんてやってないで独立したほうが良いよ、と言われたんです。ただ、まだ色々学びたいこともあったので、3か月で独立することにしました」

 

- 時計づくりを始めて3ヶ月で独立というのは、また早いスピードで環境が変わっていきますね。不安な気持ちはありませんでしたか?

「若いし、経験もないし、失敗談も聞かされてないし(笑)。そこまで不安を感じてはいなかったように思います。さすがに食べていけないので、お寿司屋さんでバイトしながらひたすら時計作りをしていました。夕方からバイト、深夜1時に帰ってきて朝まで時計作り、お昼に起きて夕方までまた時計作り、そんなサイクルを3年間続けていました」

きっかけは、「自分の手で作りたい」という思いと、たまたま目にした雑誌の記事。それが結びついた時、1つの道となって、すぐに行動を起こすほどの大きなパワーがわいてきたのかもしれません。

のちに腕時計づくりの師匠となる篠原氏との出会いから、飛び込んだ手作り腕時計の世界。「ひたすら」という言葉通り、寝る間をおしんで腕を磨く日々がつづいていきます。

真似しながら学んできた、真似できないものづくり

- 「手作り時計」をどのように「自分らしい時計」にされていったのでしょうか?

「作り始めた頃は、師匠の時計をコピーして改良して、という感じで作っていましたが、自分らしく独自性の高いものが作れるようになったと思えたのは、独立してから2年目ぐらいだったかな。

常々思っていますが、「真似しながら学ぶのは当然。真似するからにはただのコピーではなく、完全に自分のものにするんだ」と。

「真似できないものを作ればいいんだから」と師匠もよく言っていましたし、僕個人としてはコピーされないようなつくりを意識しています。でも僕のはコピーしようとしても逆に高くついたり、不完全になったりするみたいで長く続かないようです(笑)」

Jack メタル文字盤×ブラックベルト

盤面が立体的に見え、文字が浮き出ているような感覚に。"GaTa" watch smithさんの遊びごころとこだわりで、腕時計の中に不思議な奥行きを感じさせるのです。

 

「手作り時計というものは、時計を買ってきて、ベルトと合わせて、ありものを組み合わせて作っていると勘違いされることがあるんです。でもそうじゃない。最初から最後までほぼ手作りです。時計そのものを作っているんです」

RacoⅢ BRASS レッドベルト

今作りたいのは、完成度が高く、目立ちすぎずに主張する「普通の腕時計」

- 今まで2万本以上の腕時計を作られてきて、これからはどんな時計を作りたいと思いますか?

「僕は今「普通の腕時計」が作りたいんです。手作り時計です、と主張するものものではなく、メーカー製の時計のように見える普通の腕時計です」

 

- とても意外でした...。手作り腕時計作家の方は、自分らしさや個性をどう表現するかを意識して、常に「普通じゃない」を目指されているのかと思っていました。

「メーカー製の時計のような「普通の時計」に見えるって、完成度が高いということでもあると思うんです。だから私は褒め言葉だととらえています。10年は壊れない、目立ちすぎず、でも主張する、メーカー製の時計のように見えるけどちょっと違うと伝わる、といったようなこと。

もちろん、手作り感を完全に排除してしまうと、時計マニアみたいな人からするとチープに見えてしまうので、手作り感とキレイさを取り入れたバランス感は大切に、しっかりとしたものを作っていきたいですね」

BRASS BEN PILOT ダークブラウンベルト

手作り腕時計と一言で言っても、実に個性はさまざま。

文字盤、数字、ケース、ベルトと、手作りですから、「作り手らしさ」がいっぱいに表現されています。

個性が集まる世界の中で「普通の腕時計を」という言葉は、あまりに意外すぎるものでした。しかしその真意は、”GaTa” watch smithさんが20年のキャリアの中で到達した、「もっと手作り腕時計を進化させよう、より多くの人に愛されるものにしよう」という強い思い。

手作り腕時計作家としての使命感や自信のあらわれだと感じました。

Robert Impasto ホワイトベルト(受注生産品)

時間を忘れさせる腕時計を

- 今腕時計を着けている人は、時間を見るだけでなく、いろいろな楽しみ方をしているように思います。”GaTa” watch smithさんの時計は、着ける方のどんな存在になってほしいと思いますか?

「僕の時計は「時間を忘れさせる腕時計」になってほしいですね。時間なんて分からなくてもいい。ただ美しくて見とれてしまって、後になって「あ、時間を見るのを忘れた」とかね。そうなったらうれしいですね」

どの世代の誰にとっても良い相棒に

「今年で丸20年、今までに2万本は作ってきたので、お店に立っていたり、イベントに出ていたりすると、「あなたの時計使ってるよ」「10年以上前に買っていまだに持ってるよ」と言っていただくこともあるんです。

買った人にとって一番いいのは、自分が使っている時計を作った人が今も続けていて、もっといいものを作っていたり有名になっていたりすることだと思っています。だから、今の自分の時計を見て「いい時計」と思ってもらえるよう、自分の中でも超えなきゃいけないですね」

クリーマのイベントの模様。さまざまな表情の時計がずらりと並びます。

クリーマのイベントの模様。さまざまな表情の時計がずらりと並びます。

Jack レッド文字盤×レッドベルト

「僕の場合、一見メンズ向けと思われるような大きめの腕時計を女性が購入されたりすることも多いので、ある時からターゲットだったり、テーマだったりを設けることをやめました。自分の中では「しっかりしたものを作りたい」という軸が1つだけですし、こちらの考えで一方的に分けるのは意味がないなと。

どの世代の方にもお使いいただける、良い相棒であってほしいと思いますね。どこ行くにも必ず着ける、お風呂に入る時以外着けていたい、そんな腕時計を目指しています」

 

- "GaTa" watch smithさんの腕時計のデザインは、とてもバリエーションが豊富ですが、そういう思いから生まれたのですね。確かに、どんな方がどんな時計を気に入って身につけるのか、実際の愛用者を見つめることはとても大切だなと思いました。

クリーマでのうれしかった出会い

- 今まで、クリーマのサイトはもちろん、イベントにもご出展いただいていますが、クリーマで思い出に残る出会いはありましたか?

クリーマ主催のイベント「ハンドメイドインジャパンフェス」の話になりますが、特に前回の2015年では、10年以上も前からのお付き合いになる、僕の時計を5〜8本も所有されている方々との出会いが多かったです。

また皆さん、初めてお会いする方々ばかりで、新作を見て大変喜んでくれて、購入もしていただきました。昔の作品を付けて来ていただいた方もいて、逆に刺激を受けたことが印象深いです。

昔作っていた作品の中には、製作がとても困難で、以来使ってない技法もあります。ですが「昔の方がいい仕事していた」箇所も多く、失いつつあった熱意が復活してきました。

クリーマでは、今後も、販売により力を入れるための努力をしていきたいと思います。

ハンドメイドインジャパンフェス2015での模様

ハンドメイドインジャパンフェス2015での模様

インタビューを終えて

時計のお話をしているのに、私は時間を忘れてお話に夢中になってしまいました。

「手作り腕時計」業界のパイオニアとして、20年以上活動されてきた"GaTa" watch smithさん。手作り腕時計がどんなものなのかも全く知られていない時代から、その存在を伝え、魅力を伝え、そして今では、多くの方々が手作り腕時計を愛するようになりました。

しかし、"GaTa" watch smithさんは、常に先を見据えています。

さらにその価値を高め、より多くの方に知ってもらいたい。ゆっくりと静かに語られる言葉とは対照的に、熱く強い思いが伝わって来ました。

 

"GaTa" watch smithさんから、「時間を忘れさせる腕時計を作りたい」という一言を聞いた時、私は今日、この一言を聞くために伺ったんだろうな、と思いました。

強い言葉は強い人の思いから生み出されます。腕時計も同じことなのだと学びました。

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