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「今、私が会いたい人」模型の表現を追求する、“空間”の飽くなき探究者|建築模型作家・okamoto barba namiさん
こんにちは、クリーマの竹中です。
今年の5月にクリーマに入社してから、広報担当としてCreemaや作品の魅力を伝えるべく奮闘する日々を送っている私ですが、嬉しいことに、その中でたくさんの素晴らしい作品やクリエイターの方と出会う機会に恵まれています。
そんな中、とても心に残る作品との出会いがありました。
建築模型・製図の技法を応用して、空間をテーマにした作品を制作されているokamoto barba namiさん。家具の模型や植物を透明なつみきやティーポットなどに閉じ込めた作品は、どれも洗練されていてどこか無機質な印象でありつつ、住空間の温かみを感じられるアートになっています。じっくり眺めていると、その空間の中だけ澄んだ空気が流れているようです。
一目見た瞬間から、その不思議な空間の虜になってしまった私は、「どんな方なんだろう?」「この作品たちはどうやって生まれたんだろう?」と気になって気になって、今回ついにokamoto barba nami・岡本さんから直接お話を伺わせていただくことになりました。
引き寄せられるように、ものづくりの道へ。
ー プロフィールを拝見したところ、デザイン系の学校を卒業されたそうですが、デザインやものづくりの世界に足を踏み入れたきっかけは何だったのでしょうか?
もともと芸術やものづくりへの興味はあったのですが、高校卒業までは美術の授業が得意だったくらいで、個人で作品を作るようなことはしていませんでした。
進路選択の際も、クリエイティブ方面への憧れはあったのですが…美大を目指すのはちょっとハードルが高いな、と。そこで、学芸員資格の取得を目指し、私大の文学部芸術学科へ進学することにしました。
ですがやはり勉強をしているうちに「やっぱりものづくりがしたい!」という思いがどんどん強くなってきて、デザイン系の専門学校へ入り直したんです。そこで1年生のときにスペースデザインに惹かれ、建築や建築模型の世界に足を踏み入れたのが、今の作品づくりのきっかけですね。
専門学校で見つけた、立体の魅力
ー 建築を専攻しようと思った理由を教えてください。
実は、当初はイラストを学ぶつもりで専門学校に入学したんです。もともと絵を描くことが好きだったので、そのスキルを伸ばしたいなぁ、と。
ですが専門の1年目では、ビジュアルデザインのほかにファッションデザイン、プロダクトデザイン、スペースデザインなど各分野の基礎を学ぶ「基礎造形」と呼ばれるカリキュラムがありました。そこで様々なデザイン課題に取り組む中で、「自分は立体が向いているかもしれない」と思ったのが一番の理由ですね。周囲からの評価という意味でも、純粋に「面白い!」と感じたという意味でも、自分は立体に強いのだと気づきました。
スペースデザインを選んでからも、さらにインテリア・家具・建築などの専攻に分かれていくのですが、私はその中でも建築模型に惹かれ、建築の方面に進みました。
建築の世界では実現できない、自分だけの表現
ー 卒業後に建築家ではなく、作家というキャリアを選ばれたのはなぜですか?
建築を学ぶことはとても楽しかったのですが、自分がやりたいものづくりと「建築家」という職業は、あまり相性が良くないと感じていました。
建築は、もちろんデザインも大切ですが、予算や納期、工期、人が暮らすための機能など、盛り込まなくてはいけない要素が非常に多い分野です。あらゆる条件を満たしながらデザインしていくということが醍醐味でもあるのですが、やりたいと思っていたデザインが色んな事情で修正されていくことが、個人的には少しさびしく感じてしまって。
自分の作りたいものを、自分のペースで作っていくことの方が向いているなと思いました。
専門学校を卒業した後は、建築家の道には進まず、しばらくは大手の建築事務所で模型を制作するアルバイトをしていました。そこでは建物自体の模型ではなく、添景(てんけい)と呼ばれる家具や植栽(庭木や芝生など)、人物などの模型制作を担当することが多かったです。
とてもいい環境だったのですが、並行して個人で作家活動もスタートしていて、ある程度受注が入るようになったタイミングで作家としての活動に専念することを決めました。
ー 今の作品の形には、どういったテーマがあるのでしょうか?
建築を専攻すると、勉強や課題制作の一環として模型制作は全員通る道なのですが、学校で学ぶ模型というのはあくまで建築デザインのためのツールであって、模型の実力を上げるための環境はあまりないんです。
建築事務所でも、添景というのは建物のデザインがすべて固まった後、よりプレゼンテーションを良くするために添えるものとして、後回しに、ないがしろにされがちです。よってどうしても質よりスピード重視で、「ここまでやればいい」という線引きをされてしまう存在でもあります。
でも、私は家具模型などの添景にはエネルギーのようなものがあると思っていて、作りこんでその力が増す気がするのがとても好きでした。
そして今は、その力を中心に模型を作っています。例えば何かにリボンをかけると、どんなものでもたちまち「贈りもの」になっちゃいますよね。またはある場所に家具を置いたら、そこは人が暮らす空間になります。そういう、「意味を持たせる力」をものはそれぞれ持っていて、その力と力が掛け合わさったとき、何が起きるか、どんな風に見えるかを模型を作って実験している感じです。
家具模型から始まることが多いので、「家具模型を入れると、問答無用で住空間になる!」が作品のキャッチコピーのようになってきたな、と最近思っています。
「空間」への飽くなき探究心が、アイデアの源
ー つみきやティーポットの建築模型など、岡本さんの作品はどれも「そうきたか!」とアイデアに驚かされることが多いと感じています。普段、どのようにしてアイデアが生まれるのでしょうか?
なにかヒントを見つけて「これと家具模型が組み合わさった空間ってどうなるかな?」と考えることがとても好きで、そこから実際にやってみるという「実験」に近いことをやっています。
例えばティーポットの模型だったら、ある時「ティーポットの中が住空間になったらどうなるかな?」と思って、ノートに描いてみました。ティーポット自体が持っている、温かみのあるイメージや、魔法瓶のように時間や空間が閉じ込められて保持されるようなイメージが、住空間と合わさったら面白そうだな、と。
そうやってノートにまずは描いてみて、良さそうだったら実際に模型で試してみたり、イマイチだったらやめてしまったりすることもあります。あとは、ガラスの素材屋さんに足を運んだ際、色んな形のガラスを見て「これを使ってみたいな」と思えるものを見つけた時にアイデアが浮かぶこともあります。最近はそういったモチーフ先行で考えていくパターンが多いですね。
つみきの作品は、つみきという存在がもともと建物を単純化したものなので、「そこに家具模型を入れてみたら逆輸入みたいで面白いな」と思ったのがきっかけです。だから「つみき(ちょっと大人向け)」シリーズの英題は「Reimport(逆輸入)」にしました。
ー そういったヒントを得るために、意識的にインプットしていることはありますか?
うまく説明できないのですが、「空間的だな」と思ったものを留めておく癖はあると思います。「あ、この花空間的だな」とか。出かけたときに気になったものをスケッチしたりもしますし、子どもの頃の記憶や、昔に読んだ本からヒントを得ることもあります。この「空間的」ということを、もっとちゃんと言語化したいと思っているのですが、なかなか難しいですね…(苦笑)。
ですが、インプットをするために積極的に出かけたり、意識的にリサーチしたりすることは、あまりないですね。日常の中で気になったことを留めておいて、後で実験してみるということが多いです。美術館や展示、絵本、食器、植物、ゲームやアニメなど、本当に様々なものからインスピレーションを得ています。今では、その「思いつき」が溜まっていて、なかなか実験に至れてないものもあります。
「できることをすべてやる」。妥協のない細部へのこだわり
ー 制作の工程におけるこだわりを教えてください。
一番大切にしているのは、「できることをすべてやる」ということです。例えばカッターで紙を切る時、どうしても力のかかり具合で切り口の形が左右で変わってしまいます。そのまま切り続けていくと形が偏ってしまうので、私は一回切るごとに向きを反転させて切っています。
このように一つひとつの工程の中で、「こうしたほうがいい」という小さなポイントが探せばいくらでも出てくるんですよね。それらをできるだけやるという積み重ねが、最終的に作品全体の質に繋がっていくと思っています。個人制作だからこそ、そこまでこだわって制作できるという喜びもあります。
また、家具模型を作るときは、モチーフの再現度をきちんと保ちつつも、かっこいいデザインとして仕上げるという塩梅を意識しています。実際の家具のパーツや線をそっくりそのまま再現するだけでは、模型としてかっこよくならないんですよね。なのであえて部分的に単純化するのですが、やりすぎると今度は現実味がなくなってしまうので、その線引きがとても難しいです。
似顔絵に例えると分かりやすいかもしれません。手描きなのにまるで写真のように写実的に描くことも技術的には素晴らしいですが、それよりも「ここまで描いたらこの人だとわかる」というラインにとどめて、なんならそのままその絵をTシャツにしてもかっこいい服になるというような、グラフィカルなものを目指しているイメージですね。
「空間」に思いをはせながら、楽しんでほしい。
ー お客様との思い出や、嬉しかった言葉などはありますか?
以前クラフト系のイベントに出展したときの話ですが、小学4年生くらいの女の子が、つみきシリーズの「ベッドルーム」という作品を買いにきてくれたんです。しかも、ネットで見ていてずっと欲しいと思っていて、その日のために1年間お金をためてくれていたみたいで。
残念なことにちょうどベッドルームが売れてしまっていたのですが、2日間のイベントだったので、翌日までに用意して、無事お渡しできました。イベント初日の夜にあわてて作らなければなりませんでしたが、喜んで!という気持ちでしたね。小さい子がそんなに熱い気持ちで買いにきてくれたのが、純粋に嬉しかったです。
今年は、初めてハンドメイドインジャパンフェスに出展させていただくので、とても楽しみにしています。今はちょうど、イベントに向けて作品をコツコツと作っているところです。作っているうちに色々試したくなって、おそらく新作も出来上がってしまうと思うので…(笑)、ぜひ遊びにいらしてください。
ー 最後に、「皆さんに作品をこんな風に楽しんでほしい」というメッセージはありますか?
できたら、空間のことをちょっとでも考えてみながら、眺めてみていただきたいですね。空間のことを考えるのは、きっととても楽しいので。
これが家のどこかにあった時に、見てなにかを考えてくれたらいいなと願って日々制作しています。
取材を終えて
温かみがありながらも、どこか洗練された空気感をもつ岡本さんの作品。岡本さんご自身も、柔らかいお人柄と、ものづくりへの真摯なこだわりを兼ね備えた素敵な作家さんでした。
空間や建築模型について目を輝かせながらお話される姿は、「作家」や「アーティスト」以上に、「研究者」や「探究者」という言葉がしっくりくるよう。私がなんとなく眺めているだけの景色も、岡本さんの目から見ると、新たな空間を生み出す可能性に満ちているのかもしれません。そんな岡本さんの視点で見る世界を切り取ったのが、あの作品たちだと考えるとまた素敵です。
おうちの中に、ちょっとした「空間」のエッセンスをお届けする岡本さんの作品たち。ぜひ、Creemaやハンドメイドインジャパンフェスでお手に取ってみてください。
【okamoto barba nami さんの出展情報】
出展日: 両日
ブース番号: H-102
※岡本さんの出展ページはこちら
【ハンドメイドインジャパンフェス2019(HMJ)について】
会期: 2019年7月20日(土),21(日) 11:00~19:00
会場: 東京ビッグサイト西1・2ホール