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「今、私が会いたい人」 可愛さのなかにある『強さ』と『存在感』に魅了される|フェルティング作家・あかころさん

「今、私が会いたい人」 可愛さのなかにある『強さ』と『存在感』に魅了される|フェルティング作家・あかころさん

こんにちは、クリーマの伊藤と申します。クリーマで経営管理部門の執行役員をしております。

今回の作り手インタビューは、羊毛フェルトを使った「もこもこバッチ」と「立体造形物」を中心に手掛けていらっしゃるフェルティング作家のあかころさんにお話を伺いました。Creemaではもちろんのこと、様々な展覧会で入賞されるなど、多方面でご活躍される日本を代表するフェルティング作家の一人です。

 

見ているだけで、手にとるだけで、なぜだか心がほっこりする。そんな作品を生み出し続けるあかころさん。僕自身がこの方の大ファンで、僕の身の回りには、あかころさんが生み出した愛らしいキャラクターたちで溢れています。

 

今回のインタビューでは、あかころさんがなぜフェルティング作家として活動するに至ったのか、あの愛らしい作品をどのようにして生み出しているのか、その秘密についてお話を伺ってきました。

(左:あかころ 北崎さん、右:クリーマ 伊藤)

ー あかころさんはフェルトを使ったもこもこバッチ・立体造形物の作家として現在ご活躍されています。学生の頃から作家の道に進もうと考えていたのですか?

正直、子どもの頃は自分が将来クリエイティブな世界で仕事をするとは考えていませんでした。両親が二人とも美術に携わっていましたが、だからと言って、美術の特別な教育を受けたわけではありません。ただその環境のおかげで私にとって、画を描いたり表現に触れたりすることは、習ったり勉強したりするものではなく、あくまで日常の一コマ、自然なことだったんです。

 

当時、私はどちらかと言えば内省的な性格で、時間があればいつも何かに想い悩んでいました。将来に対する漠とした不安も尽きません。それでも、なんとなくではありますが、いつかは「自分が生きる意味を見いだせる仕事」に就きたい。そういう想いがあったのだと思います。

 

そんな自分を応援してくれた祖父が医者であったということと関係があるのかもしれません。高校生になる迄は「将来はお医者さんになろう」と考えていた。それで、高校は進学校に進むことにしたんです。

 

ところが高校生になると、ある英語の先生との出会いがきっかけで、「自分にしかできないこと、自分がやるべきことは何だろう」と改めて深く考え直すことになりました。そのとき、自分が素敵だと思えるものや悩みなど思索をそのままカタチにし、それを人に伝えること。これこそが自分にしかできないことだということに気付いた。作り手として活動することが自分のあるべき姿だと思ったんです。それで、お医者さんになる道は考え直し、美大への進学を目指すことにしたのです。

ー 経歴を拝見しましたが、東京藝術大学の彫刻科を卒業されていますよね

そうなんです。美大に行くまでにも紆余曲折ありまして…。私、実は4回浪人しているんです。

美術予備校の雰囲気に馴染めなくて。個人の先生について浪人時代を過ごしていましたが、私の生まれつきの頑固さと良くない意味での一途さで周囲が見えなくなっていた時期でもありました。

 

そんな暗澹たる浪人生活を送っていたある日、私はバイクを運転していて交通事故に遭ってしまいました。その事故で腕を折り、休まざるを得なくなってできた時間の中でふと周りが見えてきたんです。それをきっかけに恋をしたり、アパレルに就職したりで周囲の環境や付き合う人たちもガラッと変わった。

 

そうした変化の中で「自分はこのままでは駄目だ」という想いが段々強くなっていったんです。最後は先生の元を離れ、改めて試験直前に美術受験予備校に通い直して東京藝術大学の彫刻科に入学することができました。

ー 大学時代は彫刻を学ばれていたとのことですが、当時からフェルトを使った制作活動をしていたのですか?

フェルトを使うようになるまでにも紆余曲折ありました。「彫刻」と聞いてイメージされる通り、大学時代は石を使った彫刻を作っていたんです。卒業制作の作品も、高さ2m、重さ2トンくらいの大きな石造彫刻だったんですよ。

(東京藝術大学 彫刻科時代)

ですが、卒業後に石の彫刻だけで食べていくのは難しい。石造彫刻って重いので、運ぶのも一苦労なんです。石で作ると作品の値段も高くなりがち。じゃあ粘土を使って作ろうかとも思いましたが、制作の過程でたくさんゴミが出る。それが嫌で粘土も断念。レジン等の化学素材も試してみたのですが、肌に合わず、とてもつらい。現在のフェルティングに行き着くまでは試行錯誤の連続でした。

(あかころさんの制作の様子)
(可愛い表情を作るときは、作りながら思わず笑顔になっているそうです)

フェルティングへの移行のきっかけとなったのは、好きなタレントの光浦(靖子)さんが出演していたテレビ番組でした。番組内で光浦さんが「夜な夜なブツブツ言いながら作品を作っている」という話をされていて、それを聞いたときに「これは内省的な自分にも合っているかも」と感じ、すぐにフェルトを使って小さなブローチを作ってみたんです。

 

私の母は以前からビーズで作った作品をフリーマーケットで売っていたのですが、私の作ったブローチも、その母の作品と一緒に置いてもらったんです。それがなんと売れてしまった。

 

苦労して作った彫刻は全然売れないのに、気軽に作ったフェルトのブローチは簡単に売れる。早速もっと作ってまた売ってみたらやっぱり売れる。「これはすごいぞ」ということになり、自分のホームページも立ち上げました。

 

自分の作ったものを喜んで購入してもらえるということが新鮮で嬉しかったんですね。その後、クリーマの方が私のページを見つけてくださり、お声がけいただいてCreemaでの販売を始めました。

【受注制作作品】フェルティングピアス・柴犬(赤)

【受注制作作品】☆Creema限定☆もこもこマスコット・赤柴のあかころマリンバージョン

ー 作品を制作する際には、どのようなことを意識されて制作されているのですか

もこもこバッチのモチーフは、お客さんからのリクエストがきっかけになる場合が多いんです。いただいたたリクエストの中で、自分が作りたいと思えるものを作る。

 

実際に作る際は、ひとつひとつ、性格や個性を決めてからカタチを作っていきます。「このブルドック、顔は怖いんだけど、親分肌」みたいに。「親分肌なら眉の形はこうだな」とか、性格や個性を決めてしまうと、それらが本来あるべきカタチに導いてくれるんです。

【受注制作作品】フェルティングバッチ・ブルドッグ

https://www.creema.jp/item/309980/detail

立体造形の場合は、リクエストではなく、その作品を通じて表現したい「物語」を自分の中で構築することから始まります。バッチ制作の際の性格や個性の設定と同じく、物語が決まれば、あるべき姿が必然的に定まってくるんですね。

フェルティング彫刻・海渡龍

私は、作品には「強さ」が必要だと考えています。そして強さを持った作品を生み出すには、その強さを支える背骨が必要です。私の作品にとってその背骨は、キャラクターの性格や個性であり、物語なんです。背骨を作り、その背骨に沿って考える。そうすると、自然と本来あるべき姿が浮かび上がってくる。嘘ではないカタチ、本物のカタチができあがる。奇をてらって変なカタチにしたり、カタチ先行で作ることももちろんできます。でもそれは本物ではないと思いますし、強さを持った作品にはならないと思います。

 

「強さ」に近い概念ですが、「存在感」も意識しています。私の作品は一匹一匹が独立した存在です。「モノ」ではなく、「存在」なんです。一匹一匹性格も違うし、表情も違う。持ってくれる人それぞれの仲間になれる存在。そんな独立した存在になれるように意識して作り上げています。

ー 今後はどのように作家活動を続けていくおつもりですか?

目標として「作業人数を増やして量産したい」とか「売上を上げる」とか足し算的に大きくなっていくことを掲げる作家さんも多いかなと思うのですが、私にはそういう働き方は合わないのかなと感じています。

 

それよりも、楽しいこと、新しいことに色々とチャレンジしていきたい。もちろん、失敗することも、悔しいこともたくさん経験するかもしれない。それでも、失敗することや後悔することを恐れずに、より良い作品を作り続けていけるよう挑戦していく。そんな風に活動していきたいと考えています。

 

私は、自分の人生自体が作品だと考えているんです。「人からみたらちょっとハチャメチャだけど、なんだかすごくいい人生」と言えるような、「作品として面白い」と胸を張って言えるような人生にしていきたい。だから私は、これからも色々なことにチャレンジして、面白い失敗もたくさんして、素敵な作品を作り続けていきたいんです。

ー この記事を読まれる方の中には、作家として活動していきたいと思いつつ、悩まれている方もいらっしゃるかと思います。そうした方々に何かアドバイスがあればお願いします。

実は私、今年大きな病気をしてしまいまして。その際に「自分は死ぬまでに何をしたいのか」と本気で考えました。ですが、考えても考えても、特別なことは何も出てこなかったんですね。唯一あったのは「昨日までと同じように、一個でも多く作品を創り出したい」という感情だけでした。

 

造形物は作ったら終わりではありません。造形物と届けた人との関係性が生まれたときに初めて完成すると思っています。私が創り出した作品と、それを手にする人との間に関係性が生まれる瞬間。その瞬間を死ぬまでにひとつでも多く見ていたい。そう思ったんです。

 

ここまで来るのに、私自身、恥と失敗の連続でした。ですが、それに見合うだけの価値がある仕事だと自信を持って言うことができます。これから作家活動に入ろうかと考えていらっしゃる方は、色々と不安に思うことがあるかもしれません。決して楽な道だとは言えません。挫折も苦労も失敗も、きっとたくさん経験することになるかと思います。それでも、死ぬ日までやっていたいと思える仕事、それが作家としての仕事だと思います。

取材を終えて

ひとつひとつの作品ごとに、物語や性格を考え、その設定に沿って考えることで、嘘のない、本来あるべきカタチが浮かび上がっていく。物語や性格が作品の背骨となり、背骨を持った作品には、人を魅了する力強さ、存在感が備わり、唯一無二のものとなる。

 

僕自身、あかころさんの作品をいくつも持っていますが、どれも可愛さの中に力強さ・存在感があり、身に着けたりデスクに置いたりすると、まるで自分のパートナーがそっと自分の傍に佇んでいるような不思議な感じを覚えます。

(実際の伊藤デスク)

あかころさんは「人からみたらちょっとハチャメチャだけど、なんだかすごくいい人生」と言えるような、「作品として面白い」と思える人生にしたいとおっしゃっています。そして、そんな人生の核をなす作家活動のことを「死ぬ日までやっていたいと思える仕事」と表現されています。

 

創作を愛し、人生を愛している。そんなあかころさんのまっすぐな人柄や人生観がその作風に出ている気がします。嘘のない、本当の気持ちが作品に現れている。だからこそ、あかころさんの作品には力があり、多くの人を魅了しているのだと思います。

あかころ(akatin)さんのギャラリーページ

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