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「ただ、ひたすら、ものづくり。」職人の手が生きたものづくりを届けたい|木製家具職人・匠工芸さん

「ただ、ひたすら、ものづくり。」職人の手が生きたものづくりを届けたい|木製家具職人・匠工芸さん

「空気が冷たいー!」

空港へ降り立つと、東京との温度差にまず驚きました。

工房訪問に胸を躍らせていた私は、服装のことなど頭にもなくうっかり半袖で来てしまいました!

近くのお店でなんとか羽織るものを調達し、よしこれで一安心。

 

今回インタビューに伺うのは、北海道の真ん中、旭川市で木製家具を制作される匠工芸さん。

工房があるのは、中央部に位置する旭岳などの山々からなる大きな山塊「大雪山」が良く見える、見晴らしのよい丘の上。すぐ隣にはカラ松の林が広がり、豊かな自然に抱かれています。

 

家具職人の集まる土地で、職人たちの手仕事によって生み出される作品たち。アニマルスツールパロットチェアなど、オリジナリティ溢れるデザインの作品ばかりですが、その見た目以上に、使い心地にこだわって作られているんです。まずは工房での制作の様子を映像でお届けします!

 

機械と手作業を組み合わせた、本格的な工程ばかりですよね。

続けて、匠工芸さんがものづくりにおいて大切にされていることや制作アイデアのヒント、日々どのような思いで制作に打ち込まれているのか、インタビューをお届けします。ご協力いただいたのは、製造部の小林さんと企画開発部の業天(ぎょうてん)さんです。

ー 匠工芸さんの家具の特徴を教えてください

業天さん:私たちは地元北海道の木材を使用し、職人がひとつひとつ丁寧に手作業で制作しています。土地の魅力や制作に関わっている私たちの思いがデザインに反映されていることも多いんです。

 

私たちが工房をかまえる旭川市は、実は日本の5大家具産地のひとつに数えられています。その中にも産地それぞれに特徴がありますが、旭川は他の産地と比べると生産ロットは大きくありません。大量生産しているところもある一方、私たちの家具には職人の手が生きています。確かな技術を持つ職人が丁寧に手がける家具が多く、その影響から全国からものづくりをしたいという意識の高い人が集まってきています。

 

小林さん:僕ももとは新潟県の出身ですが、長野県の訓練校で木工の勉強をしているときに夏休みに北海道へ訪れる機会があり、旭川を通った時に「ここ家具の産地だったよな」と思い、そこから就職活動に切り替えて今ここにいます。

▲匠工芸さんが手がけるユニークなデザインの家具たち

ー ものづくりにおいて大切にされていることはなんですか

小林さん:うちの家具は、材料が細かく見た目や構造がシンプルなものが多いです。だからこそ、ひとつひとつの仕口(木と木の接合部分)を丁寧に作り、さらに綺麗に組んでいかなければ家具として弱い作りになってしまいます。そのため加工、組み立て、仕上げなど全ての工程を丁寧に進めながらきちんと作っていくということを日々心がけています。

 

有機的なフォルムの家具が多いので、触り心地には気が抜けないですね。見た目では分からない部分でも触れると違和感を感じられるように、手先の敏感な感覚を大切にしています。お客さまが触れた時に「おや?」と思われることがないよう、心地よく使っていただくことを考えて、仕上げの作業には十分に注意しています。優れた設備や機械など特別なことではなくて、とにかく手で触って、磨いての繰り返しを徹底していくのみですね。

 

業天さん:職人の感覚もすごく大事にしているわけですが、手作業といっても加工技術や精度がそのまま家具の強度や品質に繋がってきますので、そこは非常にシビアにしっかりと確認をしています。全ての工程において一切気は抜かず丁寧に、そして仕口のように見えない部分はより丁寧に、ですね。

▲木材を念入りに磨く製造部の小林さん

ー どのような工程を経てひとつの家具になるのでしょうか

小林さん:各家具は3〜4名のチームで製材から加工、組み上げなどの工程を経て完成します。チーム全員で工程を分担して機械加工に優れた人や勤続年数の長いメンバーを中心に、仕上げ作業には若い人にも入ってもらいながらひとつの家具を形にしていきます。

 

ここが面白いところで、普通たくさんの家具を作ろうと思うと、機械加工をする人は機械加工しかしません。ずっと持ち場を離れずそこにいて同じ作業を繰り返すことが多いですが、ここでは熟練者も新人も、誰かが一つの工程に特化するのではなく、色々な工程を経験できるようになっています。同じ作業ばかりしていれば当然上手くなりますが、たまには他のこともしたくなるんですよ。ものづくりがしたいという職人が全国から集まり、ここでも色々な作業がしたいという人ばかりですし、製材から完成までひととおりの工程ができるというのは作る側にとっては面白くてしょうがないですね。

▲工房の様子

ー シンプルさの中にも特徴的なデザインが多いですが、どのようにアイデアがかたちになっていくのでしょう

業天さん:今では多種多様な家具が世界中にあふれて、既に存在しないものはないのではないかと言われています。機械や技術もものすごいスピードで発達して、人がいなくても家具が作れる時代です。でも、新しい機械や技術に頼らずとも、長年人が手をかけて作ってきた匠工芸の歴史を生かして、匠工芸らしいものづくりを続けています。

 

新しいものを作ろうと思った時には、私たちの持つ技術で、どれだけ使い心地のいいものができるだろうか、と考えるところがアイデアの源になっています。その部分的な閃めきを広げていくようにして家具に落とし込んでいき、ある程度全体が見えてきたら1度、原寸大の模型を試作品として作ってみます。家具は実際に使ってみてどうかが肝心で、椅子に座ってみたらやっぱり違うということも形にして初めて分かるので、作っては設計し直してを繰り返し、最終的な形にしていきます。

▲制作中の椅子について意見を交わされる様子

ー チームで制作する中で、大変だったことはありますか

業天さん:ヤマナミというシリーズの椅子たちは、シンプルに見えてすごく難しいんです。部材が直角や平行で構成されておらず、正面からも、上から、横から見ても全て角度がついています。設計をはじめた時点では「これはできない」と思っていたくらい難しくて、実際に手を動かしてみてもやっぱり上手くいかず、すごく苦しいんですよ。でもここには、設計図がなくても作れてしまうような人たちが揃っているので、職人にも頼りながら試作を繰り返して、なんとかできあがったという思い入れのあるシリーズです。

 

小林さん:作る側の立場からするとどうしても作りやすさを考えてしまうので、私が設計したらこういう形にはならないんですよ。もっと作りやすい形はあるのに、いつもすごく難しいことを要求されるので私たちも悩むことが多いのですが、チームとなり工程が分業になっていることで有機的なデザインの家具が生まれているのかもしれませんね。「この形、本当にやるんですか?」と作る側も驚かされるような設計がくることがあるので、最後にはなんとか形にしますが、私たちが思いつかないデザインをどのようにして実際の家具に落とし込んでいくかを考えることが製造部の仕事でもあり、とにかく考えて形にもっていく過程もまた面白いですよね。

▲ヤマナミシリーズのひとつ、ヤマナミ YC1 チェア【ウォルナット】

ー 日々、どのような思いで制作を続けられていますか

業天さん:何のために私たちが家具を作っているのかということにも繋がりますが、当然使ってくださるお客さまのために日々ものづくりをしています。家具に限らず、ものを使う喜びや、その人を豊かにするものづくりを常に目指してます。「この椅子座り心地がいいな」とか「毎日座りたくなる」、「この椅子で美味しいご飯を食べたいな」と思ってもらえることを目指して制作を続けています。

 

家具は「高い」と思われることもあって、なかには安いものでいいやという考えもあると思うのですが、椅子には毎日座りますよね、テーブルはご飯を食べる度に必要じゃないですか。私は、毎日一緒に暮らす家具がいいものだときっと、その人の生活もより豊かになるはずだと思っています。でも、そのことに気づく機会ってなかなかないと思うので、これからはもっとそういった方に対して私たちの手がける家具をお届けできればいいなと思っています。

 

小林さん:まずはとにかく、これからも作り続けたいと思っています。そして、丁寧な思いを込めて制作した匠工芸の家具をより多くの人に伝え、理解していただき、長く大切に使っていただけたら嬉しいですね。絶対に満足していただけると思うので、家具を通して私たちの思いも一緒に感じていただけたらと思っています。

▲大きな機械を使って木材を切り出す工程

見た目だけでなく、手触り、フィット感、使い心地を追求したものづくりを目指して

私自身、家具製作の工房に伺ったのは今回が初めて。

大きな機がいくつも並ぶ大きな工房で各チームに分かれ、職人さんたちが自分の持ち場で最高のパフォーマンスを発揮する。そしてひとりずつの技術と思いがいくつも繋がり、ひとつの家具が形になっていました。

 

触って、磨いて、また手で確かめる……。多くの工程で見られた、職人さんたちが経験と感覚を頼りにただひたすらに磨き続けるその姿がとても印象的でした。身体に触れて、毎日使うものだからこそお客さまに気持ちよく愛用していただきたい。家具づくりのその先にある「心地」をつくりたい。そんな、匠工芸さんの温かくも強い思いを感じました。

 

どれだけ時代が進んで、技術が発展しても、決して人の手には代えられないものがあることを身をもって教えていただいたような気がします。

 

素敵なお話を伺っていたら、匠工芸さんの椅子とテーブルで、美味しいご飯が食べたくなってきました〜!

▲左:企画開発部 業天さん 右:製造部 小林さん

匠工芸さんのギャラリーをチェック!

これまでの作り手インタビューはこちらから!

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