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子の成長を願う「フラフ」を未来に繋ぐ。120年の伝統を持つ染物屋の想いとは【高知ものづくり紀行 vol.3】

2022.12.01
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子の成長を願う「フラフ」を未来に繋ぐ。120年の伝統を持つ染物屋の想いとは【高知ものづくり紀行 vol.3】

高知県には、国指定の伝統的工芸品である「土佐和紙」や「土佐打刃物」をはじめ、数百年以上の時を経て受け継がれてきた個性豊かな伝統工芸品が存在しています。

 

Creemaでは、全5回にわたって高知のものづくりについてお届けする企画「Creema 高知ものづくり紀行」を開催中。職人の方々の技術や制作にかける想いをご紹介していきます。

Creema 高知ものづくり紀行 記事一覧

− 【高知ものづくり紀行 vol.1】石を見極め、形にする。「土佐硯」の持つ魅力とは 【もっと読む

− 【高知ものづくり紀行 vol.2】世界が認めた「宝石珊瑚」をもっと身近に。土佐発・お守りジュエリーに込められた願い【もっと読む

− 【高知ものづくり紀行 vol.3】子の成長を願う「フラフ」を未来に繋ぐ。120年の伝統を持つ染物屋の想いとは 【もっと読む

− 【高知ものづくり紀行 vol.4】残すために、職人技術も数値化。小さな鍛冶屋が見据える「土佐打刃物」の未来【もっと読む

− 【高知ものづくり紀行 vol.5】「土佐和紙」1000年の歴史を繋ぐために。強くしなやかに変化し続ける職人たちの想い。【もっと読む

 

「フラフ」とは、大漁旗をモチーフにした巨大な旗のこと。

高知県の中東部では、男の子誕生のお祝いとして、家紋や名前を入れたフラフが贈られることが多く、端午の節句になるとこいのぼりとともにこのフラフを立てて、子どもの健やかな成長を願ってきました。

 

今回ご紹介する三谷染工場(Creemaショップ名:marusanzome)は、高知県の香美(かみ)市土佐山田町で明治35年から4代続く老舗の染物屋さんです。代々受け継がれてきた伝統の色や図柄を守りながら、お客さん一人ひとりに寄り添ったフラフをつくり続けています。

 

「高知県内だけでなく、全国の人にフラフを知ってほしい」と語る4代目の三谷泰清(みたに・やすきよ)さんに、フラフづくりの魅力やこだわり、そして今後の展望についてお話を伺いました。

水源の豊かな土地に根付いてきた、染物の文化

高知県の中東部に位置する香美市。土佐山田町、香北町、物部村が合併して誕生し、町と山と里の3つのライフスタイルが共存している特徴的なまちです。『アンパンマン』の作者でおなじみの漫画家・やなせたかしさんの出身地としても知られています。

 

この地でフラフ染めが始まったのは、明治の初期ごろ。白髪山(しらがやま)を水源とし、34の支流によってなる物部川の恵みを生かして、当時から染物が盛んに行われてきました。

▲ 三谷さんが作業をする工場には、さまざまなサイズと図柄のフラフが並びます。

「もともと香美市だけでフラフづくりを行っていたのではなく、昔は室戸岬から足摺岬まで全部で100軒くらいの染物屋さんがあったと聞いています。水を大量に使うものなので、やはり水源の豊かな土地に根付いてきたんでしょうね。

 

今はうちを入れて20軒ほど。各地域で皆さん頑張っていらっしゃいますが、その中でも香美市は、フラフのまちとして認知されている方だと思います。市としても力を入れていて、最近は『土佐山田フラフ』という名前で打ち出したり、『フラフのある風景フォトコンテスト』なども開催したりしているようですね」

 

あまり耳馴染みのない「フラフ」という言葉は、諸説ありますが、英語・オランダ語の「フラッグ(旗)」が土佐流になまって呼ばれるようになったといわれています。

 

90cmまたは110cm巾の生地を繋いで一枚のキャンバスに仕立てており、大きなものでは畳16帖分(!)になることも。制作はすべて手描きで、綿100%の生地でできた真っ白なキャンバスを、染料と顔料で鮮やかに染め上げます。

▲ 黒の染料で縁取ることで、地の白がアウトラインとなって浮き出る。この作業にもかなりの時間がかかるのだそう。

描かれるのは、おとぎ話の金太郎や桃太郎など元気でたくましい少年から、七福神や恵比寿大国宝船などのおめでたいものまでさまざま。同じモチーフでも染物屋さんによって絵柄のタッチや雰囲気が違うのだそう。

一番緊張するのは、目を入れる瞬間

三谷染工場ができたのは、明治35年のこと。当時、同じ町にあった大きな紺屋(=染物屋)に弟子入りしていた、三谷さんの曾祖父にあたる初代・三谷義章さんが独立して始めたのが、この三谷染工場です。

「曾祖父はもともと豊永(とよなが)という山奥の地域に住んでいて、16歳のときに丁稚奉公(でっちぼうこう)で山を降りて、紺屋に弟子入りしたと聞いています。

 

当時からこの辺りには紺屋がたくさんあったようですね。その後20代前半で独立したので、三谷染工場の歴史ということでいえば、約120年くらいになります」

 

端午の節句にあわせて子の誕生を祝うフラフの出番は、4〜5月。夏は湿度が高いため、糊置き作業は秋から行うのが一般的。三谷染工場でも、普段はかせ糸や着物の反物を染めつつ、その合間の季節仕事としてフラフを制作していたのだそう。

 

それから約120年にわたって、フラフをつくり続ける三谷染工場。大きなサイズのフラフのほかに、現代の様式に合わせて室内で飾れるミニフラフやタペストリーなども取り扱っています。

 

初代によってつくられた独自の色や図柄は4代にわたって受け継がれており、今も変わっていません。

▲ 昔から使われている図柄の見本帳。バリエーションが豊富で、つい迷ってしまいそうです。

「当時いらっしゃった絵師さんを招いて、いろんな図柄をつくったと聞いてます。モチーフになるのは、戦国時代の名将をはじめとした武者ものや、桃太郎や金太郎といったおとぎ話系がメインですね。フラフの成り立ち自体が男の子の成長を願うものなので、男性のモチーフが多いですが、神功皇后など女性を描いたものもあります。

 

それらを描いた生地を受け継いで、今もベースにしているのですが、生地も経年劣化で朽ちてきたり破れたりしていくので、古くなったらそこにまた新しい生地を張ってリメイクしつつ、今に繋げてきているんです」

▲ Creemaでも販売している室内用ミニフラフ。絵柄は14種類から好きなものを選べるほか、プレゼントするお子さんの名前を入れられます。三谷さんが持っているのは、ご自身のお子さんのためにつくったフラフ。

3代目のお父さまと協力しながら、現在はほぼ一人で絵作りをする三谷さん。そのこだわりを聞いてみました。

 

「人形ってよく、『顔が命』というじゃないですか。僕はフラフも同じだと思っていて、人物や動物の眼光であったり、凛々しさをすごく大切にしているんです。

だから、目を入れる瞬間が一番緊張しますね。最後にとっておいて失敗するとすべてがやり直しになってしまうので、一番最初にやるのですが、いまだに毎回手に汗を握っています」

子の健康を願う、一人ひとりの思いに寄り添う

伝統的な図柄を引き継ぎつつも、最近では特注でオリジナルのフラフを希望する人も増えていると言います。

 

「たとえば、オートバイの『ハーレーダビットソン』がお好きなお父さんからの依頼で、自分のお子さんができたときに、ぜひバイクに乗せた絵を描いてほしいと。そこでオーダーメイドという形で、桃太郎をバイクに載せたものをつくりました」

▲ お客さんの希望でバイクに乗せられた桃太郎。ちゃんとお供のサルやキジ、犬もそばにいるのがなんとも可愛らしい......。

「ほかにも、農家の方でトラクターに乗せた絵を描いてほしいとか、サーファーの方だったらサーフィンをしている絵にしてほしいとか。金太郎の顔を生まれた赤ちゃんの顔に似せてほしいと、写真を持ってくる方もいらっしゃいます。本当にいろんなオーダーがありますね」

 

キャラクターやロゴなど、版権があるもの以外であれば、基本的にオーダーに応じているという三谷さん。お客さんが手描きで持ってきたイラストをベースにして、図柄に起こすこともあるのだとか。

 

ただでさえ一枚仕上げるのに、相当な時間と胆力が必要なフラフづくり。さらに一人ひとりの思いに丁寧に寄り添うとなると、途方もないことのように思えますが、これからもできるだけ要望には応えたい、と三谷さんは言います。

「フラフ自体決して安いものではないので、きちんと金額に見合っていると感じてもらえるものは当然つくらなければいけないですし、その上で喜んでもらいたい気持ちがあるのでやっています。

お子さんに対してとにかく健康にたくましく育ってほしいということ、そしてフラフには魔除けの意味もあるので、その子を取り巻く家族にも災いが起きませんように、という気持ちを込めてつくっていますね。

 

お客さんの喜ぶ声や表情に触れたり、感想のお手紙で『ありがとう』と言ってもらえたりしたときは嬉しいですし、やっていてよかったなと思います」

受け継いできたバトンを、未来に繋いでいくために

職人としてフラフづくりに携わって20年余り。「高知県内だけでなく、フラフをもっと全国的に広げていきたい」と三谷さんは語ります。

「どこの染物屋もこの30年ぐらいずっと、フラフを全国に根付かせるために動いてると思うのですが、僕の感覚としてはまだなかなか高知から出ていないんですよね。もちろん、まったく高知にゆかりのない他県の方から注文をいただくこともちらほらあるけれど、『フラフ』という名前すら知られていないことがほとんど。

 

今のようにすべて手作業だとかなりの時間を要してしまい、つくれる枚数にも限界があります。全国的に認知を広げていくためには、生産性を上げていく必要がありますし、お客さんが飾るシーンを考えて生地や染料、大きさの規格なども見直していかなければいけないと思っています」

 

三谷染工場のフラフで使用してきたのは、ブロードという綿100%の生地。ある程度の強度と薄さを兼ね備えていて、屋外の高い位置で風にたなびかせるのには適しているものの、近くで見るとシワが目立ちやすいのが難点。

 

室内用のフラフの需要が増えていることに合わせて、よりしなやかで柔らかい、重厚感のある生地を検討しているのだそう。

「120年続いてきたフラフづくりの仕事を、ここで途絶えさせてしまうのはやっぱりできないなって。フラフを次の世代に繋いでいくためにも、いちばん深いところでは、商売として稼がなければいけないという気持ちがあります。

 

伝統工芸の職人は稼げないというイメージから、きちんと稼げる仕事にしていきたいですし、より多くの人にフラフを届けられるように柔軟に変化していこうと思っています」

取材を終えて

なぜフラフの仕事を途絶えさせたくないのか、と理由を尋ねると「あいつで辞めたなって言われたくないだけです」と少し照れながら笑っていた三谷さん。

 

しかし、受け継いできたバトンを未来に繋いでいくためにもきちんと稼ぎ、生業として継続させていくというスタンスは、伝統工芸の作り手としての誠実さを感じました。

 

子の健やかな成長を願う思いとやさしさの詰まったフラフが、高知を飛び出し、日本中の家庭に飾られる日が来ることを、筆者自身祈っています。


 

自分のお子さんへはもちろんのこと、親戚や大切な友人のお子さんの誕生を祝う特別な贈りものとして、フラフをプレゼントしてみてはいかがでしょうか。年に一度、飾る季節がやってくるたびに、家族みんなで成長を喜び合うきっかけになるはずです。

「高知ものづくり紀行」では、個性豊かな高知の工芸作品と、それを手がける魅力的な職人の方々の想いをご紹介しています。

ぜひ、皆さんのお気に入りの作品を見つけていただけたら嬉しいです。新たな発見と、素敵な作品との出会いがありますように。

※ 本記事は高知県の伝統工芸品・地場産品に係る販路拡大の取組の一環として、 株式会社クリーマが制作しています

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