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残すために、職人技術も数値化。小さな鍛冶屋が見据える「土佐打刃物」の未来【高知ものづくり紀行 vol.4】

2022.12.01
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残すために、職人技術も数値化。小さな鍛冶屋が見据える「土佐打刃物」の未来【高知ものづくり紀行 vol.4】

高知県には、「土佐和紙」や「土佐打刃物」をはじめ、数百年以上の時を経て受け継がれてきた個性豊かな伝統工芸品が存在しています。

 

Creemaでは、全5回にわたって高知のものづくりについてお届けする企画「Creema 高知ものづくり紀行」を開催中。職人の方々の技術や制作にかける想いをご紹介していきます。

Creema 高知ものづくり紀行 記事一覧

− 【高知ものづくり紀行 vol.1】石を見極め、形にする。「土佐硯」の持つ魅力とは 【もっと読む

− 【高知ものづくり紀行 vol.2】世界が認めた「宝石珊瑚」をもっと身近に。土佐発・お守りジュエリーに込められた願い【もっと読む

− 【高知ものづくり紀行 vol.3】子の成長を願う「フラフ」を未来に繋ぐ。120年の伝統を持つ染物屋の想いとは 【もっと読む

− 【高知ものづくり紀行 vol.4】残すために、職人技術も数値化。小さな鍛冶屋が見据える「土佐打刃物」の未来【もっと読む

− 【高知ものづくり紀行 vol.5】「土佐和紙」1000年の歴史を繋ぐために。強くしなやかに変化し続ける職人たちの想い。【もっと読む

土佐打刃物は、長い間地域の産業として根付いてきた、高知を代表する伝統品。数あるなかでも、「伝統的工芸品」として経済産業大臣に指定されているのが、土佐和紙と、この土佐打刃物です。

 

県内にはたくさんの歴史ある刃物製作所が存在していますが、今回ご紹介する「土佐打刃物 鍛冶屋トヨクニ」は親子4世代にわたって続く鍛冶屋。高知県南国市の山奥で、日々自然と闘いながら刃物作りに取り組んでいます。アメリカやドイツ、中国など世界中から注文が入るのだそう。

 

そんな鍛冶屋トヨクニさんは、伝統を守りながらも、積極的に最新技術を取り入れているのがユニークなポイント。4代目になる現在の代表・濱口誠(はまぐち・せい)さんに、土佐打刃物の魅力や今後の展望について、お話を伺いました。

形は自由自在。あらゆるニーズに寄り添う土佐打刃物

日本一の森林率を誇る高知県。温暖で雨が多いため良質な木材に恵まれ、古くから林業が発展してきました。その木を伐採するための農林用刃物が盛んにつくられ、その歴史は400年以上に及ぶと言われています。

 

豊臣秀吉が政権を握っていた時代に、土佐国主であった長宗我部(ちょうそかべ)氏が実施した地検帳によると、当時から399軒の鍛冶屋が存在していたことが記されています。

 

その後、江戸時代初期に入ると本格的に打刃物の需要が増え、それにともなって品質や技術が向上したのだそう。

▲ 研磨前の状態の打刃物たち。この時点で、すでに佇まいが美しい。

「もともとは、高知県南国市の久礼田(くれだ)という地域が土佐打刃物の発祥の地だと言われています。そこから香美市や土佐市、いの町、須崎市といった場所が一帯になって、土佐打刃物の産業地ができあがりました。日本中の山の仕事を支えてきた刃物なので、無骨な印象の刃物が多いんですよね」

 

土佐打刃物の特徴は、高温に熱した鉄と鋼を一つひとつ丹念にたたいてこねることによって自由自在に形をつくる「自由鍛造」です。用途や場所、背丈などに合わせて、寸法や柄の角度を自由な形でつくることができます。

たとえば鎌。平野部では全体的に短く、山間部では角度は大きく柄も長い、など地域に合わせてつくれるのです。つまり、今でいうオーダーメイドのようなもの。

 

「各都道府県ごとに型がばらばらだし、同じ県内でも西と東の地域で角度が違うんです。各農家によっても使う目的が違うので、土佐ではそういう希望を全部引き受けて作ってたんですよ。

 

注文で受けた原寸と形を全部カレンダーの裏紙とかに書いて(笑)。そこから一つひとつ型紙をつくって製造していました。昔から使われていた製造用の金具が今もたくさん存在しています」

▲ 昔使われていたという、さまざまな刃物の型たち。さびた様子から、時の流れを感じます。

通常、刃物づくりは分業制になっていることが多いそうですが、土佐打刃物は最初から最後の仕上げまで一貫して1人の職人が行うのだそう。職人の方々が一つひとつ丹精込めて打った刃物たちは、切れ味の良さはもちろんのこと、耐久性や手入れのしやすさも特徴のひとつです。

変わらない切れ味の秘密は、技術の数値化

「鍛冶屋 トヨクニ」を運営する有限会社トヨクニは、1946年に創業。家族で代々受け継いできた鍛冶屋です。新しい技術と融合させながら、さまざまなシーンで使える機能性とデザイン性を追求したナイフを多数取り扱っています。

 

「うちでは主に、山の仕事で使う鉈(なた)や鎌をはじめとした作業用刃物や、包丁をつくっています。コロナ禍に入ってからはアウトドア製品の需要が増えたので、キャンプや狩猟などで使えるナイフに力を入れていますね。

 

海外からの人気も高く、以前は年に20回以上海外出張に行っていましたが、今はネットさえあればどこでも仕事ができるので、日本にいながらオンラインで海外の顧客とやりとりしています」

▲ 小枝の伐採や木工細工、魚の解体、キノコ狩りなど、さまざまなアウトドアシーンで活躍する「土佐アウトドア剣鉈」。ヨーロッパ全域からカスタムナイフメーカーが集結するアウトドアナイフショーで切れ味の良さを認められ、名誉ある大賞を2年連続受賞したのだそう。

時代に合わせた新商品の開発にも積極的に取り組む鍛冶屋トヨクニさんですが、切れ味の良さと耐久性には変わらないこだわりが。加工方法においても、ある独自の取り組みをしているのだとか。

 

「料理って、材料に対してどう熱をかけて料理するかでおいしさが変わるじゃないですか。刃物もそれと同じで、どんな加工方法でどう熱入れるかによって切れ味が変わる。

 

だから今は業者に依頼して、こうしたらこんな刃物になる、というのを科学的に計算してデータを出しています。定期的に抜き打ちチェックしてもらうことで、年間の数値データをすべて把握できるようにしています。職人の勘ももちろん大事だけど、数字は揺らがないものですからね」

▲ 野菜を切り分けるのに適した薄刃包丁。刃幅が広いため、大きな野菜の切り分けから皮むきまでスムーズに調理を楽しめます。表面はステンレス材で、サビにくいのも特徴。この刃の模様は、野菜などの材料を切った際に身離れをしやすくするためのものなんだそう。

通常それらの検査は大手企業が採用しているもので、鍛冶屋トヨクニさんのように事業者規模でやっているのは珍しいのだそう。そうした緻密なデータを積み重ねていくことで、今まで3年の寿命だったものが5年使えるようになることもあるのだと言います。

 

さらに、数値にすることは品質を保つための目安になるだけでなく、若い後継者たちに技術を伝えていくうえでの目に見えた指標にもなります。品質へのこだわりが、土佐打刃物を未来へと残すことに繋がっていくのです。

伝統と最新技術を融合させて、未来に繋ぐ

たたいてこねて、のばす。そうした土佐打刃物の根幹となる工程は守りながら、現代の機械と生産システムに合った形で残していくことが重要、と濱口さん。

 

「時代の流れとともに、伝統工芸に携わる仕事をしている方たちがどんどん廃業しています。それによって、材料や機械の部品の生産が止まり、再現したものをつくりたくてもできなくなっていく。

 

そういったことも踏まえ、今はある程度コンピューターを使って仕事できるように仕込んでいます。最近では、昔使っていた刃物の型なども3Dプリンタで全部スキャンして、残すようにしているんですよ」

 

技術の数値化に、3Dプリンタでスキャン……。想像以上に現代的で、頭の中でイメージしていた “鍛冶屋” との違いに少々戸惑いつつ、そこには伝統を後世に繋いでいくことの覚悟のようなものを感じます。

▲ 計17層ものステンレスを重ねた三徳包丁。表面の美しい波紋は「ダマスカス」と呼ばれ、水分の多い野菜も包丁に張りつかないのだそう。

そうした先進的な取り組みを行ってきた濱口さんですが、今もご自身で刃物を鍛える時間がとても好きなんだそう。そこで最後に、火や鉄と向き合う面白さや魅力について伺ってみました。

 

「何でしょうね。単純にその時間は無心になれるので、いちばん気持ちがいいんですよ。何も考えず、姿勢を正して力を抜いていると、勝手に身体が次の動きに導かれていくというか。

 

たとえば、熟練の料理人の方がバターを切ると、何度やってもすべて200gぴったりになったりするじゃないですか。それと同じで、30年以上やってると自ずと鉄の動きが伝わって身体が動くんです。これがたぶん、職人の技なんでしょうね。だから、工場に入って仕事しているとあんまり疲れないんですよ(笑)」

逆に少しでも力が入ると、すべての動きが狂ってきてしまうのだそう。繊細な手仕事は常に気が張りつめそうなものですが、「むしろリラックスできるし、好きなものがつくれるから楽しい」のだとか。そう語る姿からは、ものづくりへの深い愛情を感じました。

 

さらに、このコロナ禍が落ち着いたら、また世界中に出向いて調査をしつつ、各地の職人たちからパワーをもらいたいと話す濱口さん。ジャンルの違う世界の職人たちとの出会いも、ものづくりへの大きな刺激になっているようです。

 

日々変化する時代に寄り添いながら、“人のためになる刃物” を探求し続ける鍛冶屋トヨクニさんのものづくりが今後どう進化していくのか、これからがより楽しみになる取材でした。

「高知ものづくり紀行」では、魅力的な高知の工芸作品を通して、伝統と新しさを兼ね備えた作品づくりに邁進する職人の方々の想いをご紹介しています。

 

ぜひ、皆さんのお気に入りの作品を見つけていただけたら嬉しいです。素敵な作品との出会いがありますように。

※ 本記事は高知県の伝統工芸品・地場産品に係る販路拡大の取組の一環として、 株式会社クリーマが制作しています

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