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コラボから広がる可能性。京都の伝統工芸職人とクリエイターによる新たなものづくり【京都ものづくり紀行】
“千年の都”と呼ばれ、その長い歴史のなかで独特な文化を形成してきた街・京都。文化とともに育まれてきた多彩な伝統技術は、現代へと受け継がれ、京都の伝統工芸として今も息づいています。
そんな京都の美しい伝統工芸品「京もの」の魅力を、さらに多くの人に知ってもらうべく、京都府とCreemaがコラボレーション。伝統的な技術・技法を活かしながら、斬新でクリエイティビティ溢れるアイデアや、ともに作品をつくってくれるクリエイターを募集するコンテストを開催しました。
今回、Creemaクリエイターとコラボレーションしたのは「京焼」や「錦織」など、京都府の伝統工芸品「京もの」を手がける5名の伝統工芸の担い手たち。より幅広い人に京ものの魅力を知ってもらうため、新しいジャンルへの挑戦や、斬新な発想を求めて参加されています。
この「アイデア募集コンテスト」では、全国のCreemaクリエイターから、たくさんのコラボレーションのアイデアが寄せられました!伝統工芸を担う職人の皆さまとCreema事務局とで選考を行い、一緒に作品をつくる5名のクリエイターが決定しました!。コラボレーションが決まった5組は、京都での意見交換会や、個別のやりとりを通してコラボ作品を制作し、最終的にはCreemaのサイト内や、2024年1月に開催される「HandMade In Japan Fes' (HMJ)2024」にて販売をおこないます。
今回は、そのなかから2組をご紹介。京都府内でおこなわれた意見交換会にお邪魔し、作品づくりの裏側や、コラボレーションの面白さについて伺いました。
できることを掛け合わせるのではなく、お互いに新しい挑戦を|柴田窯さん × yokiさん
まずご紹介するのは、伝統的な技法を用いて独自の作風で陶磁器をつくる柴田窯さん。陶芸作家の柴田恭久さんが、同じく作家の妻・宮里絵美さんとともに、2012年に創業した「京焼」の窯元さんです。
京焼とは、茶の湯の流行を背景に、江戸時代初期頃から東山山麓地域を中心に広がった焼き物のこと。柴田窯さんは、京焼特有の繊細で品格のある器づくりにこだわりつつ、引き継がれてきた技術や思考に独自の感覚を加えた、今までにない新しい作品をつくる作家です。
そんな柴田さんが求めていたのは、京焼の特長である「技法の多彩さ」を活かしつつも、陶器の枠にとらわれない感性で、作品づくりをともにできるパートナー。選考の結果、多数の応募のなかから選ばれたのは、道具鍛冶職人の椎名巧さん(クリエイター名:yoki)です。
椎名さんは、茨城県在住。日本古来からの技法『鍛接・鍛造』による火造りで製作した手打ちの革包丁や、それを用いたレザークラフトの道具、革小物などを中心に製作しています。
丹精込めてつくられた一点物の作品たちは、その丁寧な手仕事ぶりと質感の良さから、コアなファンを増やし続けています。
そんな椎名さんをパートナーに選んだ理由を柴田さんに尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「拝見した椎名さんの作品の完成度が高くて、『すごいものをつくられているな』と。それが一番の理由です。見たときに存在感があって、細かい部分も含めて本当に丁寧に手が入っているんですよ。ジャンルは違ったとしても、もの自体の良さがわかるし、手間をかけてつくっていくという部分も僕と共通しているのかなと。そこでぜひ、椎名さんと一緒に製作をさせていただきたいなと思いました」
全くジャンルの異なる二人が話し合い、製作することなったのが、柴田さんが得意とする竹をモチーフにした「革工芸用ナイフ」と「ペーパーナイフ」の2点。ナイフの持ち手や鞘の部分を柴田さんが京焼でつくり、それに合わせた刃やナイフを収納する革袋の製作を、椎名さんが担います。
「革工芸用の道具は使う人が限られるニッチな製品であるぶん、ある程度決まったものしか世の中にないんですよね。僕自身もいろいろな素材を取り入れて、新しいものをつくってきましたが、ずっと焼き物で何かできないかという思いがあって。だから、写実的京焼の柴田さんとご一緒できるのはすごく良い機会でした」と椎名さん。
この日の意見交換会では、最新の試作品をお互いに確認。革工芸用ナイフの初回のサンプルでは、太めの竹をモチーフにした持ち手を合わせたものの、柴田さんが実際に茨城県の椎名さんの工房に足を運んだことで、少しずつ変化していったのだそう。
「初回のサンプルは強度テストを兼ねていたのもありますが、言ってしまえば普段僕がつくっているような竹モチーフの陶芸と、椎名さんの刃物をただ取って付けただけなんですよね。でもせっかくのコラボなので、作品の雰囲気を合わせたいなと思って茨城の工房まで行かせていただいたんです。
そこで椎名さんが普段つくられているものをはじめ、鍛造の現場や革を切るところを実際に見させていただいて、改めて野性味のある荒々しい雰囲気が魅力だなと。それを映えさせるためにも、あえて柄の部分はある程度控えめに、京焼らしい感じにしてみました。対比の妙ですね」(柴田さん)
「普段、僕の作品では木や角(つの)を使うことが多いので、この鮮やかなグリーンの色味は、自分一人では表現できないんですよ。それがすごく新鮮で嬉しいです」(椎名さん)
意見交換会の中では、グリップ部分にあたる陶器のざらざらの粒度や、素材の質感など、細かい部分までチェックするお二人。お互いの“らしさ”を守りながらも、ぎりぎりまで改良を重ねます。
アイデア募集の選考時から、椎名さんのものづくりにシンパシーを感じていた柴田さんでしたが、実際に製作に入ってみても「スタンスやつくりたいものが似ている」と感じたそう。コラボしてみての率直な思いを、お二人に聞いてみました。
「いつもは刃を先に作って、そこに合うように持ち手を削っていくのですが、今回は工程が逆。柴田さんにつくっていただいた持ち手に合わせて、刃をつくっているんですね。長さや幅を変えるだけで全然雰囲気が変わりますし、持ち手が陶器なので強度もクリアしなくちゃいけない。
自分でもやってみなきゃわからなかったので、かなりいろいろなパターンの刃をつくりました(笑)。でもおかげで、自分一人ではできない挑戦をさせてもらっていますし、柴田さんからもたくさん刺激をいただいて、めちゃくちゃ貴重な時間を過ごしているなと思います。革製品の本場であるヨーロッパをはじめ、海外の方々にも使ってほしいですね」(椎名さん)
「じつはコラボでものを作るときって、お互いに技術的に全力を出しきれない、不完全燃焼感が残ることが多いんです。どちらの強みも最大限に出す、というのはなかなか難しいことなので。でも今回椎名さんとお会いして、やっぱりそれぞれが全力を出したものづくりをしたいなと思ったので、できることの中から力を合わせるのではなく、お互いに新しい挑戦をしようと。かなり難しいことをご相談しているんですよ(笑)。
でもそれができれば、お互い技術的にも伸びるし、やりきったと感じられるだろうし、結果面白いものができると思うんです。先ほど椎名さんが実際に触っているのを見たときに、直感でこれは最終的にかなりいいものができるなと。今そこまで見えているので楽しみです」
コラボが、新たな魅力や可能性に気づくきっかけに|染工房正茂さん × Sextileさん
続いてご紹介するのは、手描友禅の染工房正茂さん。江戸時代から受け継がれてきた伝統的な技術や感性を取り入れ、人の心と日常に寄り添うさまざまな作品をつくる染工房です。手描友禅職人である上仲正茂さんが、すべての工程をお一人で担当しています。
加賀や江戸と並ぶ日本三大友禅である「京友禅」。花鳥風月など古典的な柄をデザインするものが多く、刺繍や金銀箔も積極的に用いられるその華やかさが特徴です。
そもそも「友禅」とは、着物に色をつける際に隣り合う色が混ざらないよう、糸目糊を用いて模様を描き染めていく伝統的な染色技法のこと。「手描友禅」は、その友禅加工のなかでも最も古い技法であり、模様の一つひとつに刷毛や筆を使って手作業で色を付けていきます。
上仲さんはそんな手描友禅の技術をさまざまな素材やアイテムに落とし込み、“絵画を纏う”ような作品を数多くつくってきました。
今回のコンテストでは、より「手描友禅」の魅力を身近に感じられて、かつ和洋問わず使える新しい作品をつくりたいという思いでアイデアを募集。選ばれたのは、クラフトジュエリー作家のリーヴン由香里さん(クリエイター名:Sextile)です。
神奈川県を拠点に、主に布と糸を使ったジュエリーを製作しているリーヴンさん。ご自身で仕入れた材料からつくるカラフルでモダンなジュエリーたちは、華やかかつ個性的で、身に着けると気分を上げてくれます。
多数の応募アイデアのなかからリーヴンさんを選んだのは、率直に手描友禅と掛け合わせるイメージが湧いたからなんだそう。
「友禅というと和のイメージが強いと思いますが、僕自身は和装に限らず、日常に幅広く取り入れられるものをつくりたくて。そのなかで、アクセサリー系は今まであまりつくれていなかったので、豊富なアイデアと経験を持つリーヴンさんとご一緒できたら、良いものができるのではないかと思ったんです」
そこで今回お二人が一緒に製作することになったのは、リーヴンさんの作品の型をベースにした「バックチャーム」「イヤリング」「シューズクリップ」の3点。上仲さんが手描友禅の技法で布に柄をつけ、それをリーヴンさんがアクセサリーに仕立てるという分業制で製作しています。
アクセサリーの顔となるデザインは、上仲さんが2つのパターンを考案。
「京友禅らしい花鳥風月の柄は僕自身も好きなんですが、いつもとはちょっと違うモチーフにも挑戦したい気持ちがあり……。日本らしい桜の柄をつくったあとに、リーヴンさんに相談したところ、孔雀柄もいいのでは?とお話いただいたので、もう一つパターンをつくってみました」(上仲さん)
バッグチャームにする際には、細い生地を円状に並べて巻くため、くるくると巻いたときに布の柄がどのように出るのかを記した、リーヴンさんお手製の「雛形シート」が活躍。きれいに柄が出るように、モチーフを描く位置も緻密に計算されています。
「巻いたときにも柄が途切れずに、きちんと繋がって一枚絵になるように意識して描いています。途切れるようにしてしまうと、すでに柄がある生地を仕入れて裁断したのと変わらないですよね。柄が繋がるということは、この作品のために一つひとつ手で描いたということ。そうした手仕事がきちんと伝わるというのは、大切なことだと思っています」(上仲さん)
また、この日の意見交換会で一番の論点となったのは、使用する生地について。
「色の定着や描きやすさを探るために、何種類かの生地サンプルを上仲さんに送って試し描きをしていただいたんです。その結果、オックスフォードとブロードの2種類で実際に作ってみようかということで、今回最終試作品を持ってきました」(リーヴンさん)
友禅では、糊や生地に残った余分な染料を落とすために生地を水で洗う工程があるため、その後の色味や毛羽立ちなどを含めて、慎重に議論を重ねるお二人。じっくり話し合った結果、意見はまとまったようです。
完成に向け、いよいよラストスパート。ともにものづくりをしてみてどうだったのか、思いを聞いてみました。
「アクセサリーという、僕としても新しいカテゴリにチャレンジできたので、今は完成が楽しみですし、今後もっと広げていきたいです。このコラボ作品の調子が良ければ、どんどん手描友禅のデザインを増やして、リーヴンさんに発注できるのが一番理想ですよね(笑)」(上仲さん)
「私自身はずっと市販の生地を使うのが一つのコンセプトでもあったので、手で描いてもらったものを仕立てるというのは、もちろん初の試みでした。そのぶん、仕立てるときに上仲さんの絵の雰囲気を壊さないようにしなくちゃとか、そもそも失敗したら責任重大だなとか、プレッシャーは結構ありましたね(笑)。でもとにかく新鮮でした」(リーヴンさん)
リーヴンさんはもともと着物にも関心があったそうですが、上仲さんとのコラボを経て、着物への見方にも変化があったとのこと。
「手描友禅も、ただ絵を描くだけじゃないんだなって。友禅ならではの糸目糊の縁取りとか、金彩によってこんなに雰囲気が変わるというのも知らなかったし、初めて知ることだらけでしたが、面白かったですね。もともと着物は好きだったけれど、今後は柄一つひとつにまじまじと見入ってしまいそうです」
取材を終えて
伝統工芸を担う職人と、Creemaクリエイターとのコラボレーション。お一人お一人に異なる作品の個性や歴史、培ってきた技術があるからこそ、お互いに納得のいくものづくりを突き詰めるのはとても難易度の高いことなのでは……?と想像しながら臨んだ今回の取材。
いざお話を聞いてみると、扱うジャンルは違えど、同じ”ものづくり”に携わる者同士だからこそ、お互いのものづくりを心からリスペクトし、より良いものをつくるためには妥協しないという思いで繋がることができるのだと、ひしひしと感じました。
一人じゃできないことも、心強いパートナーがいれば新しい挑戦ができる。そして、より多くの人に届けられるチャンスになる。ものづくりの新しい可能性に触れた取材でした。
「京もの」職人さんとCreemaクリエイターさんの熱意と技術が生み出す唯一無二のコラボレーション作品を、ぜひお楽しみに!
※ 本記事は京都府の伝統工芸品・地場産品に係る販路拡大の取組の一環として、 株式会社クリーマが制作しています
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