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土佐和紙のあらたな魅力が花開く!伝統を次世代につなぐコラボレーション【高知ものづくり紀行】
緑広がる大きな山々と、青く澄んだ川。
豊かな自然に囲まれた高知県は、活気溢れるよさこい祭りや美しい海でとれた鰹のたたきなど、歴史と自然の魅力が詰まった場所です。
高知県といえば、かの有名な幕末の志士・坂本龍馬のゆかりの地としても知られていますが、豊かな自然ならではの、伝統工芸品や伝統的特産品が存在します。
古くから紡がれてきた「ものづくり文化」を大切に、そして伝統が次世代へと繋がりますように......
そんな想いを胸に、高知県の職人がCreemaクリエイターとコラボレーションする企画「土佐和紙×Creema アイディア募集コンテスト」。
数多くの応募の中から5名のクリエイターが選ばれ、土佐和紙の伝統を受け継ぐ職人たちとのコラボレーション作品を生み出す企画です。
この記事では、土佐和紙を手掛ける職人とCreemaのクリエイターが制作した、2組のコラボレーション作品をご紹介します。
色鮮やかに染められたものや植物を漉き込んだデザインなど、薄くて繊細な和紙は一体どんな姿になるのでしょうか。
歴史ある土佐和紙づくりに込められた想いや作品づくりのエピソード、コラボレーション作品を通して気付いたものづくりの面白さについて、お聞きしました。
高知県の伝統工芸品「土佐和紙」とは?
高知県には、「土佐打刃物」と「土佐和紙」、二つの伝統的工芸品があります。
福井県の「越前和紙」、岐阜県の「美濃和紙」と並んで、「土佐和紙」は日本三大和紙と呼ばれ、なんと千年以上もの歴史があります。
製紙業に必要な清らかな水に恵まれたことが、高知県で和紙が発展した理由ともいわれています。
土佐和紙は、楮(こうぞ=くわ科の落葉低木)、三椏(みつまた=ジンチョウゲ科ミツマタ属の落葉低木)、雁皮(がんぴ=ジンチョウゲ科の落葉低木)を主な原料としています。土佐の山でつくられる楮は繊維が長く絡みやすいため、薄くても破れにくい紙が漉けるのだそう。
また、製造方法としては「手漉き和紙」と「機械抄き和紙」の2つの方法があります。
手漉き和紙は、簾桁(すけた)という台に紙の原料を流し、水を抜いてから均等な厚さにして紙を漉く、歴史ある日本の伝統工芸です。機械抄き和紙は、明治以降に流し漉き製法を機械化し、生産量向上を実現した手法です。
実際に、私も手漉き和紙を体験しましたが、紙の原料を流した簾桁は重量があり、均等な厚さに綺麗に紙を漉くには熟練した技術が必要だということを身に染みて感じました。
高度な技術が必要とされる手漉き和紙ですが、環境の変化などにより、簾桁の原料の減少、職人の高齢化などの要因から年々生産量が下がってしまったのだそう。
そんな変化する環境の中で、和紙の現代的な価値を見つめ直し、新しい商品作りに意欲的な土佐和紙職人の方々がいらっしゃいます。
歴史と伝統を紡ぎ、新しいことに挑戦する土佐和紙職人たちの想いと、Creemaクリエイターのコラボレーション作品をさっそく見ていきましょう。
「型に捉われず、遊び心を」土佐和紙・夢幻染とグラスアート。異色のコラボから生まれた作品 |田村和紙工房さん × グラスアート作家 RayColorsさん
Creema クリエイター>>グラスアート作家・RayColorsさん
今回ご紹介するコラボレーション1組目は、まるで夢、幻のような色彩豊かな和紙を手掛ける「夢幻染」の田村和紙工房さんと、グラスアート作家・RayColorsさんです。
色彩心理研究家として27年間活動したRayColorsさんは、沖縄の太陽と、大自然を感じながらグラスアート作品を制作しています。
RayColorsさんの作品を見たとき、「海外でみるような、ステンドグラスみたい......」と、吸い込まれてしまいそうな綺麗なアートに心奪われました。
窓アートの仕事もされているRayColorsさんの作品は、一つあるだけでお部屋をぱっと明るくしてくれる時計やティッシュケースなど、暮らしに溶け込むアイテムがずらり。
そんな色使いを得意とするRayColorsさんは、夢幻染の和紙をどう作品に活かすのか。わくわくした気持ちで今回のインタビューの日を迎えました。
土佐和紙「夢幻染」の職人>> 田村和紙工房 田村 晴彦(たむら・はるひこ)さん
百年以上続く手漉き和紙づくりの一家に育ち、土佐和紙職人の道へと進んだ田村さん。
色彩豊かな和紙を手掛ける田村さんですが、図引き紙や美術紙など、白を中心とした単色の紙ばかりを制作していた時代もあったのだそう。
また、土佐ではかつて、柿色・黄・紫・桃色・萌黄(薄緑)・浅黄(薄青)・青の七色に染め上げられた「土佐七色紙」が特産品として有名でしたが、色紙の歴史が途絶えてしまった時代も。
そんななか、「変化をとらえなさい」という父の教えと、好きだった草花・生け花の自然の色彩から着想を得て、グラデーションの和紙を作るようになりました。
—— 最初はまさに、夢幻だった。
40年ほど前、京都の方との取り組みで多色染めの作品づくりを始めた田村さん。
新しい技法を考えていたときに、染料のにじみを防ぐために紙に塗る「ドウサ」を使うことで、様々な色を塗り重ねていく技法をやってみたのだそう。
面白いものができると思い、さまざまな色を足して生まれたのが「夢幻染」でした。
天気や気温、季節によって色の明るさやにじみ方など、雰囲気が異なる夢幻染。暑い夏は短期間で乾くため明るい色がそのまま和紙に乗りますが、寒い冬はその反対で、乾くのに時間がかかるため、夏に比較すると暗めに色が出るそうです。
目の前で夢幻染を描いてくださったこの日は、しとしとと雨が振るどんよりとした天気。
緑や黒、青などの色が暗めに落ち着いて見える中、かえって黄色や赤などが陽だまりのように柔らかく映えて、そのコントラストが印象的でした。
意外性のある素材との出会い。コラボレーションで広がる和紙の可能性
これまで、竹かごに和紙を貼る一閑張りのポストカード、ちぎり絵など和紙の素材をそのまま活かした作品を作り手とともに制作してきた田村和紙工房さん。
今回、グラスアート作家のRayColorsさんとのコラボレーションを選んだ理由を聞いてみました。
田村和紙工房さん:これまで一閑張りや書道の方などとの出会いはありましたが、一見「和」のイメージからは遠い、“グラスアート”との出会いは初めてでした。一体どんな作品にしてくれるのか興味もあったし、そのような人たちがコラボレーション企画に応募してくれることが嬉しかったです。
RayColorsさんから初めて試作品の写真が送られたとき、色々な人に写真を送ってしまうほど嬉しかったという田村さん。ご自宅ではRayColorsさんのティッシュケースを愛用していることを、笑顔で教えてくれました。
「きらきらとしたチェーンタイプがいいかな?」「特別感のあるレザーコードをかけてみるとかっこいいかも」と、タペストリーアートの紐の部分について意見交換。
これまで、細かいアクリルパーツを組み合わせて作品を作ることが多かったRayColorsさんですが、夢幻染の柄を綺麗に見せ、土佐和紙の魅力を最大限に活かせるように大きなフレームを初めて作ったそうです。
和紙とのコラボレーション作品制作で難しかったこと、印象的だったことをお聞きしました。
RayColorsさん:普段はカラーフィルムを使っているけれど、和紙は繊細で、扱いに気を付けないと破れてしまうところが難しかったです。
元々色の専門家をしていたため、良いも悪いも自分の好きなように色を組み合わせました。すべて感覚です。
まずは大きなパーツにのせる主役を決めて、それから周りに和紙をどんどん貼っていく......これもまた、感覚と経験を頼っています。
「今回土佐和紙(夢幻染)を使ったことで、透き通る感じや色の柔らかさがガラスとは異なり、制作していて新鮮だった」とお話されていました。
完成!夢幻染のあたたかみ溢れるグラスアート作品
陽だまりのような柔らかな色合いが魅力の田村和紙工房さんの夢幻染と、色彩感覚豊かなRayColorsさんのグラスアートのコラボレーションから生まれた、インテリア作品。
暖かな春の光や穏やかな風、時折しとしと降る優しい雨......この一枚のタペストリーアートから自然の音が聞こえそうなほど、色鮮やかで表現力に満ちた作品です。
夢幻染ならではのダイナミックな躍動や柔らかなグラデーションの模様と、グラスアートの鉛線が組み合わさることでより動きのある一品に。
お部屋に光を取り込み美しい色彩をもたらす、夢幻染の円形時計も。
光を通すことで輝きが増すカラーフィルムのグラスアートと、ふんわりとした柔らかな彩りの和紙の風合いが融合することで、それぞれの素材の魅力がより引き立ちます。
60代を境に、個性的な作品との出会いが増えたという田村さん。
「和紙の製造を生活の基盤にしていた時代があったけれど、“色作り”だけでなく、“遊び”としての楽しみ方があることに気付きました。年齢と比例して、作る枚数は減ったけれど、個性的な染色を作ることができて、それを活かしてくれる作り手さんに出会えること。そんな方々とものづくりができる今は、私にとって、願ったり、叶ったりです。」とお話してくださいました。
「和紙の可能性を広げたい」土佐の特産品を掛け合わせた“ハレの日”アクセサリー |鹿敷製紙株式会社さん × 宝石珊瑚製造直売 米沢サンゴ店さん
コラボレーション2組目は、高知産100%の素材にこだわった和紙を製造する鹿敷製紙株式会社さんと、同じく高知で宝石珊瑚専門店を百年以上営み、伝統的な珊瑚のアクセサリーを手掛ける米沢サンゴさんです。
米沢サンゴさんは、鹿敷製紙株式会社さんが作る様々な和紙の特性を活かし、ジャンル問わず「和紙の可能性を広げてくれるような作品を創りたい」との想いで、今回の企画に応募してくださいました。
高知県産の素材にこだわった和紙工房>>鹿敷製紙株式会社 濵田さん
二百年以上にわたり、ときには手漉き、ときには機械抄きと製法を使い分け、幅広い用途に対応できる土佐和紙作りに専念してきた鹿敷製紙株式会社さん。
年々手漉きの職人が減っていくなかで、品質と原料は保ちながら土佐和紙を次世代につなぐため、昭和49年に機械抄きを導入しました。
機械抄きの場合、国産楮を使うところが少ないなか、山や楮畑を保っていくために、地域の人やボランティアの協力を得ながら、国産にこだわった和紙づくりを続ける鹿敷製紙株式会社さん。
自ら山に出向き、収穫作業をしながら国産の楮を守っているのが、鹿敷製紙株式会社の特徴だとお話してくださいました。
鹿敷製紙株式会社 濵田さん:祖父は、「国産の楮を使えなくなったら、会社をたため」と言うくらい、“山の人たちと共に生きていきたい”という気持ちがとても強かったです。その意志を何とか継続して、色々な人たちの手を借りて国産の楮を使った和紙づくりを続けています。
Creemaクリエイター>>珊瑚アクセサリー作家・米沢サンゴ店さん
日々挑戦することをものづくりのモットーとしている米沢サンゴさん。
同じ高知県の特産品として、身近に感じていた土佐和紙とのコラボレーションができるチャンス!ということで、今回の企画にご応募いただきました。
創業百年を超える、宝石珊瑚専門店の米沢サンゴさん。サンゴの鮮やかな色味が映えるネックレスから世の中のトレンドを取り入れた揺れるピアスまで......普段使いからオケージョンシーンまで活躍しそうなサンゴのアクセサリーを手掛けています。
サンゴは高知県の特産品の中でも評価が高く、なかでも真っ赤なカラーが印象的な「血赤珊瑚」は、ずばり“トサ”という呼び名で世界中から注目されているそう。
米沢サンゴさん:高知の特産品同士だからこそ、相性の良い、最強のものをつくるぞ......!という強い気持ちで今回のコラボレーション企画に臨みました。
最初は、繊細に見える和紙をどんな風に扱えばいいのか分からなかったけれど、鹿敷製紙株式会社さんから、「和紙には耐久性もあるから、紙をくしゃくしゃっとして使用しても大丈夫」と伺い、アイデアが一層広がりました。
米沢サンゴさん:天然の純白や生成り色とサンゴを合わせたとき、柔らかで自然な和紙の色と、ぱっと鮮やかなサンゴとの相性がとても良いと思いました。黄色や青など、他の和紙の色も迷いましたが、実際にあわせてみると“白”が一番サンゴの赤に映えるなと感じたので、紅白のアクセサリーを作りました。
鹿敷製紙株式会社 濵田さん:今回のコラボレーション企画で、山で作られているものと海で作られているものが混ざるのがとても面白いなと感じました。
堅く、鋭くとがった角のあるサンゴの形に、素材の全く違うふんわりとした和紙を選んでもらったり、加工してもらったことで、全く違うものが一緒になったときの面白さに気付くことができました。
「“ハレの日”にいいものを」。1回目の打ち合わせから、成人式や卒業式などフォーマルなシーンで使えるようにと話が挙がったそうです。
米沢サンゴさん:鹿敷製紙株式会社さんから和紙をたくさん頂き、「もっと和紙と遊んで、対話してください」といわれて、ちぎったり切ったりする中で、試作品として半紙を四角く切って重ねてみたとき、重ねれば重ねるほどふんわりした花ができあがったんです。
「洋服に合わせるとしたら、白×白(サンゴ)の組み合わせがいいかも」「よさこい祭りの飾りみたいだね」と、実際に髪飾りやブローチを合わせてみたり......いろいろな組み合わせを楽しみながら、順調に打ち合わせが進みました。
完成! “ハレの日”の一生の宝物。土佐和紙×サンゴのアクセサリー
高知の自然がいっぱい詰まった和紙とサンゴ。高知県の特産品がコラボレーションし、伝統を次世代へと繋ぐ特別なハレの日アクセサリーが誕生しました。
世界が注目する、血赤珊瑚の形をそのまま活かした大胆で華やかなアクセサリー。
土佐和紙でつくった花びら部分にはワイヤーが入っているので形が崩れることなく、髪やフォーマルコーデに身に着けることができます。
自然が創り出した、珊瑚のパーツはふたつと同じものがなく、まさに自分だけの特別なアクセサリー。一生に一度しかない特別なハレの日だからこそ、大切に身に着けたい一品です。
装いにそっと馴染む、柔らかなコーラルピンクのサンゴがついたアクセサリー。よくみると、薔薇のような切り込みが入れられていて職人技がきらりと光ります。
ピンクのサンゴには白い天然の模様が。和紙の繊維や質感、サンゴの色模様など、自然ならではのアートを楽しむことができますよ。
高知県の山と海の恵みから生まれた、“高知産100%”のコラボレーション作品。
従来の「書く」ためのものではなく、装いに彩りを添えるアクセサリーとして。「和紙の可能性を広げたい」という想いに繋がる一品が出来上がりました。
日常をそっと彩る。思い出に溶け込む伝統工芸を目指して
今回、高知の伝統工芸品のなかでも長い歴史ある「土佐和紙」を手掛ける職人と、Creemaクリエイターとのコラボレーション作品をご紹介しました。
時代の変化に合わせ発展した土佐和紙が、グラスやアクセサリーなど意外な素材と組み合わさることで、魅力を再発見できた今回のコラボレーション企画。
「インテリアとしてお部屋に置いたら、きっと素敵だろうな」「着物を子へ譲るように、特別な日のアクセサリーとして受け継がれたらいいな」と、自然と利用シーンが思い浮かぶほど、生活のなかに馴染む作品が生まれました。
「高知ものづくり紀行」では、土佐和紙の素材を活かした和紙の小物入れや時計、お祝いの日に嬉しいポップアップカードなど、クリエイターのアイディア溢れる作品が集まっています。
長い歴史を受け継ぐ職人と日々想像力を巡らすクリエイター、ものづくりに熱い想いを馳せるもの同士が組み合わさることで生まれた、唯一無二の作品をご紹介しているので、ぜひ素敵な作品をお楽しみください。
※ 本記事は高知県の伝統工芸品・地場産品に係る販路拡大の取組の一環として、 株式会社クリーマが制作しています