BLOG
りんごからできたレザー? 廃棄されるはずの食材で、環境破壊を救うことができる|LOVST TOKYO 唐沢海斗さん
SDGsが世界中で浸透するようになって、環境に配慮したファッションアイテムが増えてきました。そんななか、いま気になるのが「ヴィーガンレザー」です。
「ヴィーガンレザー」とは、動物の皮を使わずにその見た目や質感を再現した素材のこと。「本皮」に対して、「フェイクレザー」「合成皮革」とも呼ばれています。
そのヴィーガンレザーのなかでも今回紹介するのは、”植物由来” のヴィーガンレザー。廃棄りんごから生まれた「アップルレザー」です。
りんごでできたヴィーガンレザー。手にしてみても、まるで普段からよく見る革と全く変わらない......? りんごの色や香りは全然しないのに、これが廃棄されたりんごをもとにつくられたレザーだというのだから驚きです。
この作品を制作しているのは、ライフスタイルブランドのLOVIST_TOKYOさん。りんご由来のレザーを用いて、バッグやお財布、キーケースなどを制作販売しています。
——植物由来のヴィーガンレザーを用いたブランドは日本でまだ珍しい存在。まだまだ分からないことや気になることがたくさん。
そもそも植物由来のヴィーガンレザーって何? 動物由来のレザーとどんなところが違うの? という疑問や、なぜこのようなブランドを立ち上げたのか。代表の唐沢海斗さんにブランドの立ち上げや、アップサイクルな作品への思い、背景についてお話を伺ってきました。
「生き方も、暮らし方も、いろんな選択肢があっていい」徐々に変化した「ヴィーガン」への考え方
東京・目黒にあるインダストリアルなシェアオフィスで、私たちを出迎えてくれた唐沢さん。ここでは「スタートアップや起業したばかりの人が集い、日々クリエイティブな作業をしている」のだそう。
大学時代はアメリカの大学で勉強をしていた唐沢さん。ヴィーガンとの出会いは、そのときにお付き合いしていた人がヴィーガン志向だったからだと言います。
「最初は、なんだか徹底的に食べ物にこだわっていてしんどいなという印象でした」とその当時のことを振り返ります。
ヴィーガンに対してより興味を持ち、熱心に研究をしていくようになったのは、その後社会人になり働きはじめてから。
「当時暮らしていた北カリフォルニアでは、ヴィーガン食を扱う店が多く、普段からヴィーガンに触れる機会が当たり前にあったんです。そのおかげで、昔抱いていたヴィーガンへの印象は変わりましたね。
当たり前のようにヴィーガンが選択肢のひとつとしてあると、食べ物も生き方も、暮らし方もいろんな選択肢があっていいんだな、と感じることができたんです。しかもその選択が社会課題解決にもつながっているんだなと。それがヴィーガンへの考えを深めたきっかけです」
アメリカでも特に西海岸で暮らす人々は思考が柔軟で、そういった価値観に触れているうちにもっとこの価値観や思考を伝えたいと感じ始めます。
「保守的な思考を持っていた僕自身ができることってなんだろうって考えた際に、行き着いた答えが、実はみんなが思っているよりもワクワクするような世界感なんだって伝える、ということだったんです」
そんななか、最初はヴィーガンファッションのブティック事業を立ち上げたのだそう。
「ブティック事業をするなかで、海外から買い付けをするのですが、そのときに植物由来のレザーを扱っているブランドがあることを知ったんです」
唐沢さんは、洋服よりも手にしやすく、身近で手に取る機会が多く、自分たちでよりたくさんつくり上げることができるファッション小物に魅力を感じます。そして、植物由来のヴィーガンレザーの作品づくりを始めるに至ります。
りんごの香りがするの? 質感は? 見て触って感じる
ところで植物由来のヴィーガンレザーって実物はどんなものなのでしょう。
植物由来のヴィーガンレザーには、素材にサボテンなどの植物を使うこともありますが、りんごやブドウ、マンゴーなどの廃棄素材や搾りかすを使うこともあるのだとか。イタリアやオランダなど、海外を中心にしてさまざまな素材でつくられ始めているそうです。
「これらの素材を用いて、植物由来のヴィーガンレザーは『合成皮革』という形でつくられています。従来の合成皮革は、ウレタンなどの石油系樹脂にコットンを貼り合わせているものですが、植物由来のヴィーガンレザーは、石油系樹脂の部分に30%ほど廃棄素材を混ぜています。廃棄素材を混ぜることで、ウレタンなどの石油系樹脂の使用量が減らせるので、環境に配慮ができているんです」
そして、多くの人が関心を持つのは、きっと香りや質感。触れてみると、意外とりんごを感じません。触っても普通のレザーと変わりがないみたい。
「不思議ですよね。よく、りんごの皮からできているのか? とか皮を貼り合わせてつくったのか? と質問されます。りんごからできているとはいえ、きちんと加工しているので、においも質感も分からないんです。
レザー素材はイタリアの果樹園のりんごを元にしてつくられています。りんごの収穫後、工場でジュースを作ると搾りかすが出て、これらを廃棄するととてつもない量になってしまい、これらはイタリアでは異臭の問題にもなっていたらしいんですよ。
そこでその搾りかすを乾燥させ、パウダー状にして、樹脂に混ぜ込むことでレザーにするんです。乾燥した状態だと全然分からなくなります」
そして触ってみたからこそ感じた魅力はその軽さ! 人気のリュックは600gほど。同じものを動物由来のレザーでつくると、1.2kgくらいだとか。この軽さは心地良くてくせになりそうです。ちょっとしたお出かけ、通勤など、日常使いには最適そうです。
環境問題を真剣に考えたい
ヴィーガン志向を取り入れている人たちには多くのきっかけがあるそうです。動物をなるべく増産したり殺さないようにするため、環境破壊を防ぐため、動物の食肉を摂取しない形で心身の健康をを保つためなど、人によって大切にするポイントはさまざまです。
その根底には、私たちが暮らしている地球の環境問題を気にしているという思いがあるのです。
「環境問題って実はみなさんが思っている以上に深刻です」と話す唐沢さん。
その原因のひとつとなっている、動物の食肉の大量消費という問題は、私たちの生活から直接想像しづらく、実感があまりないものかもしれません。
人口増加に伴って、どんどん成長する畜産業。そのなかでもウシのげっぷ(メタンなどの温室効果ガス)は地球温暖化の原因とされています。
工業的畜産が大量に消費され、副産物として生まれてくる天然レザーですが、その大元である畜産業を見直していくべき必要があるといわれています。
「私たちの商品やブランドの世界観を通して、少しでもこれまでの自分の消費行動やライフスタイルを見直すきっかけを届けていくこと。これが私たちができることだと考えています」
「この1年で販売したアップルレザーの量は、CFP(カーボンフットプリント:製品がつくられるまでに排出される二酸化炭素の量)で比較してみると、ほかのレザー商品と比較して、約6割ほどCO2排出量が少なく済んでいます」と話す唐沢さん。
そう考えると、結構な量。私たち一人ひとりが環境問題のことを知って、すべての行動を変化させるのは難しいことかもしれません。でも、こうして「植物由来のヴィーガンレザー」の存在を知り、興味を持ち、手に取り使うことで、知らず知らずのうちにCO2が減り、環境負荷が減るのであれば、それは未来につながる選択肢がひとつ増えたことになるのではないでしょうか。
LOVST_TOKYOさんが目指す、植物由来のヴィーガンレザーのこれから
唐沢さんは「日本ではヴィーガンファッションにこだわりを持つ人はまだ多くない」と話します。エコや環境に興味を持つ人が増えてきたのはここ数年の話。また、コロナ禍をきっかけに衛生面でもレザーより抗菌性のあるヴィーガンレザーに注目が集まっています。それは、動物性よりも合成皮革の方が、抗菌力が高いからだといいます。
「軽くて水にも強いから日常使いには便利ですし、リンゴからできているというストーリーを持っているという点で、共感してもらえているようです。実際に若い方から年配の方まで幅広い層に使っていただいていて、嬉しいですね」
植物由来のヴィーガンレザーは、これからますます注目されていきそうです。
ファッションは、ファストな消費が多い今の時代。ひとつのものを大事に使い続けることが何より大切なことに変わりありませんが、たとえ生涯同じものを使い続けられなかったとしても、それが少しでも天然由来であれば、より地球のことを考えた消費になるのではないでしょうか。
そして現在、日本国内でも各地域で余っている資源を活用して、アップルレザーのような植物由来のヴィーガンレザーの開発が進んでいます。
「僕たちも春先には青森県のリンゴを使ったヴィーガンレザーの商品をリリース予定です」と唐沢さん。
「将来的には素材にも100%土に還る素材を採用したいです。販売して終わりではなく、商品を回収してコンポスト化して、その土で野菜を作り、その野菜を飲食店に届ける。そんな循環型の社会をつくれたら面白いと思っています」
インタビューを終えて
「ヴィーガン」という言葉自体は、飲食店でこそ耳にするようになってきましたが、日本ではまだまだ馴染みのないライフスタイルかもしれません。
でも、そのライフスタイルの選択肢には大きな社会的な意義もある。身近なファッションのなかからそんなことを知っていただければ嬉しいです。
そして、それが ”りんごからできたレザー” なんて、ちょっと興味が湧いてきませんか? 普段から手にして口にするものが、こんな形で物として蘇るなんて、なんだか少しは地球にやさしいことをしているのではという気持ちが湧いてきそうです。
難しいことはできなくても、環境にやさしい作品を手にとってみることが、エコを考えてみるためのはじめの一歩なのかもしれませんね!