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今もなお育ち続ける、京都の手仕事。京焼・清水焼の窯元訪問【京都ものづくり紀行 vol.1】
古くから都として栄え、さまざまな文化と伝統を培ってきたまち、京都。
いまでも歴史溢れる街並みや風景が残るなか、おしゃれなカフェや雑貨屋さんが立ち並び、週末になると手づくり市が開かれるなど、今もなお新しいカルチャーが入り混じる魅力の絶えない街です。
そんな多様性をはらんだ京都を反映したともいえる京都を代表する伝統工芸が、「京焼・清水焼」です。今回は、京焼・清水焼の窯元、清雅堂工房「陶谷窯」さんと「松斎窯」さんの工房に伺い、お話を聞いてきました。
伝統と、新しさ。多様性こそが特徴の「京焼・清水焼」
「京焼・清水焼」と聞いて、どんなうつわを思い浮かべますか? 色鮮やかに絵付けされた磁器、土の質感が残る茶器、シンプルでモダンなデザイン.......。
実は「京焼・清水焼」には決まった技法やデザインがなく、もともと原料である土や石までほかの地域から取り寄せてつくっていたものなのだとか。
都として栄えていた京都では、貴族から、茶人から、いろいろな種類のうつわが求められていましたが、一方で京都では原料となる陶土を堀りつくし、京都の土を使った焼きものはつくれなくなっていきました。そこで日本全国から京都に集まった陶工たちは、地元の作陶が盛んな地域から土を取り寄せて独自にブレンドすることで、個性豊かなうつわをつくってきたといいます。
現在では、種類豊富な陶土と窯元の個性、感性が融合され、「京焼・清水焼」は装飾性が高く、多様性の豊かな伝統工芸となっています。
いまでも京都では、伝統を大切に受け継ぎながらも「京焼・清水焼」らしく新しい価値観や感性、デザインを取り入れ、もっと身近に京都の焼きものを楽しんでほしいという想いで、ものづくりに励む窯元があります。
確かな技術を、もっと身近な存在に。清雅堂工房「陶谷窯」さん
清水寺に続くもうひとつの参道「茶わん坂」は、京都の伝統的な陶器を制作、販売する店が並ぶ商店街です。その一角で京焼・清水焼の伝統を受け継ぎながら、「いままで伝統工芸に距離を感じていた方にこそ京焼・清水焼を楽しんでいただきたい」という想いでものづくりを行っているのが、清雅堂工房「陶谷窯」さんです。
■ 若い人たちに、京焼・清水焼を手に取ってほしい
京都の焼きものといえば、手づくりで、手描きの絵付けが施されているイメージが強いのではないでしょうか。いわゆる大量生産ではなく、いろいろなものをたくさんつくる多品種少量生産というのが京都の焼きものの特徴。そのため、どうしても価格も高くなりがちなのも事実。
そのようななか、清雅堂工房「陶谷窯」さんは、若い人を中心に京都の焼きものに手を出しにくくなっている人が増えているのでは、と気にかけていたと言います。
「うちはもともと、代々清水寺の門前で販売する特許を持って京焼・清水焼を販売するお店をやっていたんです。京都の窯元がつくった作品を販売したり、窯元と相談しながら一緒にオリジナルの焼きものをつくったり。
そうして日々接客して販売をするなかで、京焼・清水焼を敬遠している若い方になんとかアプローチできないか、と考えることがことが多くありました」
何かできないかと考え、およそ2年前に兄妹で京焼・清水焼の工房を立ち上げることに。
いまは兄である谷口和彦(たにぐち・かずひこ)さんが代表を務め、京都で作陶を専門に学んでいた妹であり作家のたにぐち ちさとさんが作品づくりに携わりながら工房を行っています。
「僕の想いとしては、もう少し京焼・清水焼をカジュアルに楽しく普段の生活に取り入れてもらって、でも決して量産の安いものではないですよ、と。きちんとした技術できちんとした手仕事のうえでつくられたものを、できるだけ若い人に届けたいと思っています。そういう作品づくりがしたいという想いでこの工房を立ち上げました」
■ 京都らしい “もうひと手間” を、鳥獣戯画の絵付けで受け継ぐ
そんな清雅堂工房「陶谷窯」さんがつくる京焼・清水焼の焼きものは、やわらかなタッチで「鳥獣戯画」からオマージュを受けたうさぎやカエルなどの生き物たちが手描きされているのが愛嬌のある作品。
「鳥獣戯画」とは、京都の高山寺を代表する平安時代から伝わる宝物の絵巻物のことで、甲巻では擬人化して躍動感溢れる筆致で描かれた動物たちが遊ぶ様子が描かれているのが有名です。
「最近は、手描きではなくて釉薬モノの、一色でシンプルなものが多いようです。でも正直長いことやっている僕らからすると、それは京都じゃなくてもできる。やっぱり京都らしさ、京都の焼きものの魅力ってなんだろうなと考えたときに、どこかに絵付けが入っていたりだとか、成形の繊細さだったりとか、そういう ”もうひと手間” 入っているものじゃないかと思うところがあって。
そのなかで京都らしくて、京都の技術も入っていて、若い人にも受け入れてもらいやすいものは何かと考えたときに、鳥獣戯画というのがひとつのモチーフとしてすごく良いのではないかと考えたんです」
ただの手づくりや一点ものではなく、伝統工芸品としてきちんとたくさん届けたいという職人としての誇りを感じます。
粉引(こひき)という技法を使い、鉄分の多い赤土の上から白い泥をかけて、味のある表情をしたうつわに描かれたうさぎやカエルたち。それはまるで実際に紙に描かれた鳥獣戯画を眺めているよう......。
「真っ白というよりもぽつぽつと景色が出て味のある色になるので、この鳥獣戯画の絵に合うのでは思っています。泥の掛け方によってムラがでたりとか、ちょっと下の赤土が見えたりとか、変化が出るので、わざとあまりムラを綺麗に処理しすぎずに、自然の泥や釉薬の流れなどを残してキャンバスにしています」
■ いま京都で作陶する、その意味。
京都のさまざまな窯元でつくられる京焼・清水焼を販売する立場から、”自分たちでつくる” という選択をした清雅堂工房「陶谷窯」さん。いま京都で作陶する意味について伺ってみました。
「いまは若い作家さんや職人の卵がたくさん出てきますが、なかなか続かないことも多いようです。またそれ以上に、古くからやっている人が、後継者がいないという理由で辞めていくのもたくさん耳にします。そういう意味で、昔からの伝統的な技術が残りにくく、細ってきていることを感じます。
将来的には伝統工芸も、需要がないと、つまり仕事がないと成り立たない世界なので、需要を発掘するということも僕ら販売する身の仕事だと思うし、逆にそれを提供するのも僕らの仕事。
京都の焼きもの全体のことを考えると、それを見据えた上で自分たちの工房がどういう立ち位置にあるべきなのかは常に考えています。
京都っていろんな手法がある分、許容できる範囲がすごく広いんです。幅広く受け止めるだけの土壌がある。できるだけいろんな人に新しい感覚で新しいものづくりをして欲しいと思っているし、それが京焼・清水焼の根っこを支えていくんじゃないかと思っています」
まだまだ先の話、とは前置きしつつも、ゆくゆくは若い職人さんと一緒にものづくりをして、次のステップに行ってもらえるような工房にしたい、とお話してくださる清雅堂工房「陶谷窯」さん。
少しカジュアルに、でも、京都のテイストとしっかりとした技術で受け継ぎ、毎日の暮らしを豊かにする焼きもの。現代の暮らしに寄り添いながらも確実に京都らしさを繋いでいきたいと未来を見据える、清雅堂工房「陶谷窯」さんの意志を強く感じました。
女性たちの目線でものづくり。京焼・清水焼窯元「松斎窯」さん
明治初年、京都東山に築窯して以来150年余り続く老舗の京焼・清水焼窯元「松斎窯」さん。長く続く伝統を大切にしながらも、この窯元では女性たちが中心となり、時代に沿った新しい分野の陶器作品の制作を精力的に行っています。
■ 自分たち生活者が使いたいものを。
女性4人を中心に作品の企画や作品づくりを行う松斎窯さん。もともと以前は割烹食器をつくっていた窯元だったのだそう。お椀や小鉢、蓋物など、関東・東京中心に高級割烹店向けのさまざまな和食器を問屋にたくさん卸していたといいます。
「けれど、いまはこういう食事の形態が少なくなってきました。ざっくりしたうつわが多くなって、一般家庭では割烹和食器の出番がなくなってきたように思います」
そんななか、それまで作陶を行ってきたご主人が亡くなり、妻であった安田久世(やすだ・ひさよ)さんを中心に焼きものづくりを行うことに。
「主人が亡くなってから現状を考えたときに、『割烹和食器、私たちが使いたいのはこういうのではないよね』と。
ただなんとかいままで培ってきた、代々繋がってきたものはゼロにするにはもったいない。なのでそれを生かしつつ、いまの私たちが使いたいとか、常に置いておいて可愛いとか、なんか癒されるとか、そういう作品がつくれないかと、みんなで考えてものづくりを続けてきました」
それは “大きな変化” だった、とお話する松斎窯さん。自分たちが考えた作品をCreemaのイベントなどで実際に販売し、手に取るお客さんの反応を見ながら考案したり改良したりと、試行錯誤を重ねてきたそう。
実際にいま販売している作品は、可愛らしい色や絵柄のうつわや箸置きのほか、食器だけでなく、お香立てやキャンドルホルダー、花器や置物などのインテリアまで多岐に渡ります。
例えば、割烹和食器の技術を生かすには...... と考えて、珍味入れをアロマやお香を入れられる香合入れ用にアレンジする。そういった企画や絵付けの考案を、女性たちみんなで一から考えているのだそう。
実際に毎日家庭で暮らしを営んだり、食卓を考えたりする女性だからこそ、ここまで生活に根付き、ちょっと癒される、そんな作品が自由に発想されているのだと頷けます。
■ 割烹和食器づくりの財産を、現代の暮らしに沿うように生かす
松斎窯さんの工房の中を拝見させていただくと、一般的によく目にする、ろくろを回してつくる丸いうつわのほか、動物やお家の形をした造形ものや蓋物などが多く目に入ります。そしてさらに工房の奥を見せていただくと、そこにあったのはさまざまな種類形の型、型、型......!
「主人の父が型師だったんです。そういった型を使って、いろいろな形の割烹和食器をつくってきました。その財産を私たちが使わせてもらってものづくりをしています。
それがうちの特色です。主人の父をはじめ、型師さんがいろいろな型をつくって残してくれています。型も綺麗に残っていてそれを生かしたい。一からつくり出すのではなく、いまあるものを=昔の良いものを現代の暮らしに沿うように、というコンセプトでいろいろな作品づくりを試しています」
そんなお話をするなか、まず見せていただいたのは、お正月用に考案しているというひとりお節用の二段重。
「これも、もともと『蓋向(ふたむこう)』というお料理のうつわだったのを、脚をつけて、キー(蓋が動かないよう固定する部分)をつけて、絵柄も変えて...... とアレンジしたものなんです。
絵柄は、やっぱり自分たちも女性でお客さんも女性が多いので、華やかではんなりした京都らしいものを、と思って一から試行錯誤して考えています。絵付けっていうのが京焼の真骨頂なので、こだわりますね」
■ 受け継いだ型を活用して。姿を変えて輝く先人の技術
とはいえ、石膏でつくられた型も消耗品。どんな形の型をつくるかという点だけでなく、きちんとその型で同じ形の作品が何度もつくれるか、手づくりといえども量産できるようになるか、という設計の仕方や型としての質も、型師の技量が問われるものです。
そう考えると、松斎窯さんの工房で目にした型の数々は、先人の技術の結晶にも見えてきます。
こちらはクリスマスを前に制作を進めていた、お家型のLEDキャンドルホルダー。実はこの作品も、割烹和食器をつくっていたときからあった型を使ってつくられているもの。
こちらがその種明かし。写真左が今回の作品、右は昔同じ型でつくっていた茅葺き屋根の家の蓋物食器です。茅葺き屋根の方は、屋根が蓋になっていて、開けるとお料理が入る仕様。
2種類の型を使い、屋根の部分と土台を別々に成形して半生乾き状態で屋根と土台をくっつけ、その後ひとつひとつ透かしを入れてキャンドルホルダーをつくっているのだそうです。
■ まだまだアイディアは止め処なく。生活者目線のものづくり
あれも、これも、と作品についてのお話をたくさん楽しそうにしてくださるのが印象的だった松斎窯のみなさん。Creemaでも150種類を超えるたくさんの作品をご出品いただいており、「大変ではないですか?」とお聞きすると、「次の作品を考えるのが楽しいんです」と、本当に充実していることが伝わってくるご返答がすぐに返ってきました。
たくさんつくりたいものがあるため、いまでは女性4人で年間スケジュールを立てて相談しながら作品づくりを行っているのだそう。
「自分たちが日常の生活の中で欲しいものや、もっと小さいものがあったらいいのにな、といったアイディアなど、生活者目線であることをこれからも企画にどんどん生かしていこうと思います。
目で見ても楽しいものを、お客さんの反応を見ながらどんどん改良しながら...... もっといろいろとつくっていきたいです」
いまの時期はクリスマス、お正月に、そのあとはひな祭り...... と季節に合わせた作品づくりもしていらっしゃる松斎窯さん。これからの作品づくりがますます楽しみです!
京焼・清水焼をもっと身近に。
「京都ものづくり紀行」では、魅力的な京都の工芸作品を通して、伝統と新しさを兼ね備えた作品づくりに奮闘する職人の方々の想いをご紹介しています。
今回ご紹介したクリエイター以外にも、クリエイティビティー溢れる作品を手掛けるクリエイターがたくさん活躍しています。ぜひ、下記ページからラインナップをお楽しみください。
ぜひ、皆さんのお気に入りの作品を見つけていただけたら嬉しいです。素敵な作品との出会いがありますように。
※ 本記事は京都府の伝統工芸品・地場産品に係る販路拡大の取組の一環として、 株式会社クリーマが制作しています
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