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ウクライナでのものづくりと暮らし|ウクライナ在住刺繍作家・akko by sakkoさん
こんにちは、読みもの編集長 森永です。
ウクライナ国内で起こっている戦争の様子や連日の報道に、世界中の人が胸を痛めています。避難を余儀なくされる人々の姿や悲惨なニュースの数々に、もどかしい思いを抱えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
クリーマ編集部では、ウクライナでのものづくりをされている方のお話を通し、ウクライナの美しさや大切に育まれてきた伝統を多くの方に伝えて知っていただくことが、長い目でウクライナの方々の思いや文化を繋ぐ一助となるのではないかと考えました。ウクライナ在住の刺繍作家・akko by sakkoさんのご協力のもと、ウクライナでのものづくり、暮らしや文化について教えていただくインタビューを実施しました。
遠い国ではなく、日本や他の国々と同じように、人々が暮らしと文化を育んできた身近な国の一つとして。ぜひ最後まで読んでいただければ幸いです。
akko by sakkoさん
色鮮やかな刺繍文化が根付くウクライナへと渡り、活動を始めた刺繍作家さん。オリジナルデザインによる刺繍と、布に描くドローイングを組み合わせた独自の手法で制作をされています。アート作品からブローチまで、東欧のエッセンスと、いきいきとしたぬくもりを感じる人物の表情、たたずまいに引き込まれます。
ウクライナ在住刺繍作家・akko by sakkoさんのものづくり
――最初に、ウクライナに住まわれたきっかけについて教えていただけますか。
akko by sakkoさん:大学に入った時、ちょっと変わったことをやってみようとロシア語の学習を始めたのですが、それを使って誰かとコミュニケーションしてみたくなりました。そんな時、友だちが国際ペンパルクラブを紹介してくれたんです(当時はネットがなかったので、外国とのやり取りは手紙だけでした)。
そこでウクライナの人と知り合ったのですが、それが私の夫です。
手紙のやり取りは、その頃、独立したばかりのウクライナの郵便事情が悪すぎてうまくいかず、ほとんど届きませんでした。私は「あ、やっぱり彼は私のこと忘れちゃったのかな」と思っていたのですが、何年もしてからひょっこり彼から手紙が届いたんです。それでどうしても会いたくなり、首都キエフの大学に留学手続きをとり、そこに渡ったのが1996年でした。ずっと前に知り合ったけど顔も見たことのない彼とキエフで会い、結婚しました。
それ以来、25年ウクライナに住んでいます。
――暮らしを通して感じた、ウクライナの⽂化や住まう⼈々の魅⼒についてお聞かせください。
akko by sakkoさん:キエフの大学に留学していた時から、ウクライナの人はよそから来た人にフランクだな、と強く感じました。私はどう見ても外国人だけど、店や銀行、郵便局など、様々な場所で地元の人が分け隔てなくいろいろ話しかけてくるんですね。
他の国と同じでウクライナも人間が住んでいるわけですから、良くない人がいて当然のはずなんですが、25年暮らしていやな目にあったことはほとんどありません。とにかく攻撃的な人が少ないです。少なくとも私は会ったことがないです。
ウクライナの文化の特徴は、と聞かれたら、ヨーロッパのよくある貴族的なお金のかかった芸術というものじゃなくて、民衆の手仕事から生まれた力強い素朴な美しさと答えます。陶器やかごなどは、どの国にもある日用品ですが、何かウクライナらしさ、そこにしかない良さがあるように思います。かわいい花模様のキリムという毛織のカーペットは今でも手織りされていますが、これは中近東と交易していた時の影響で生まれたものです。
昔から様々な国と交流があったのですが、ウクライナ独自のものに変化していって定着したあたりが興味深いです。
――ウクライナには、ソロチカという刺繍をほどこされた伝統⾐装があると伺いました。作品制作にあたって、ウクライナの伝統⽂化や美しい風景からインスピレーションを得ることはありますか?
私が刺繍を始めたのはウクライナに来てからで、それも夫に「刺繍をやってみたら?」と言われてやろうと思ったのが始まりです。彼は刺繍に興味があったようなのですが、自分でやるつもりはないので私にすすめたみたいです(笑)
飽きっぽい私にしては細々と続いているのですが、続けていけたのはやはりウクライナが刺繍の国だからだと思います。ウクライナの伝統的な刺繍は力強く構成や色がダイナミックで、日本刺繍にはない魅力があります。初めはそれにすごく憧れて真似していたんですが、私はやっぱり日本人で、自分の中にある感性以外に出せるものはないんだな、と気づいたんです、以来、自然な自分らしさを反映した作品作りを心がけています。
ウクライナ刺繍が施された伝統衣装「ソロチカ」
「ソロチカ」とは、白の布地のブラウスやワンピースドレスの袖や首元に、主に赤・黒を基調とした刺繍が施されたウクライナの伝統衣装。ソロチカという名前は数字の「40」を表す単語からきており、この数字は糸の太さを表す番手を示しています。"40番"にあたる繊細な糸を使って仕上げられた高級な衣服、という意味に由来するそう。
ウクライナ刺繍には、病や災いなどの悪しきものから守るといった願いが込められています。そのため、袖や首、裾など境界となる箇所に念入りなデザインが施されています。
地域によって伝統的な文様があるため、現地に詳しい方が見ると、刺繍を見ただけでどこの地方で生まれたものか分かるそうです。
ウクライナは大陸の国なので、風景や気候はやはり日本とは違います。植物などはのびのびとよく育つ風土で、私は植物のスケッチが好きなのですが、地味な花かと思ってよく見たらとても美しかった、という発見を教えてくれたのはウクライナの自然です。もちろん、私が意識しなくてもそれは作品に反映されているはずだと思います。
――ウクライナの伝統や郷⼟料理で、特にお好きなものをご紹介いただけますか。
akko by sakkoさん:料理ではボルシチがいちばん好きです。ボルシチはウクライナ生まれの国民食で、語源は「ビーツ」の古語に由来しているそうです。夫の祖母は村に住んでいたそうで、子どもの時遊びに行くと、その場でしめたニワトリからボルシチを作ってくれて、それがすごくおいしかったとよく話すんです。私は腕がわるくておばあさんにはかないそうもありません。
それと、ウクライナにはちょっと変わった祝日があって、この日は誰でもソロチカを着て一日を過ごすことになっています。街に出るととても華やかなんですが、だからといってソロチカを着ることを暗に強制したりする雰囲気がみじんもないあたりが、ウクライナのいいところです。とても自由でおおらかなんです。
――ウクライナの制作活動を通して感じられたことを教えてください。
akko by sakkoさん:刺繍は時間がかかるので、私が作る作品の数は微々たるものです。でも、モノそれ自体の価値も重要かもしれませんが、そこに宿る心とか、思いみたいな目に見えないもののほうが本当は何倍も重要なんじゃないかと気づいたのは、のんびりした空気が流れるウクライナに住んでいるおかげだと思います。外国人の私をふところに受け入れて、そういう価値観に気づかせてくれたこの国に、本当に感謝しています。
自然、伝統が息づくおおらかな土地・ウクライナ
数多ある魅力のうちの一部ではありますが、akko by sakkoさんにウクライナでの暮らしや、ものづくりについて教えていただきました。
東ヨーロッパに位置し、歴史的にも多くの国との交流があったウクライナ。だからこそ、様々な文化を柔軟に受け入れ、独自の伝統として育んでこられたのかもしれません。
ウクライナの美しい景色や街並み・脈々と受け継がれる文化がこれからも守られ、ウクライナの方々が一刻も早く穏やかな日常を取り戻されることを、心から願っています。
現在「在日ウクライナ大使館」をはじめとする多くの団体が、人道支援を目的とした支援金を募っています。支援金寄付の方法や寄付金の取り扱いについては、各団体のホームページ等でご確認いただけます。