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絵と対話することで生まれる、人を癒すペン画たち | ペン画アーティスト日高あゆみ

絵と対話することで生まれる、人を癒すペン画たち | ペン画アーティスト日高あゆみ

ふっくらとしたフォルムが愛らしく、眼差しが優しいパンダの絵。

よく近づいて見ると、毛並みが無数の緻密な模様で表現されています。

パンダの大好きな笹の葉や、どこかエキゾチックな柄もあり、じっくり隅から隅まで見ていたくなります。

この作品を描いたのは、ペン画アーティストの日高あゆみさん。日高さんは細いペンの先を使って、点々を打ったり、模様を描いたりして、主に動物を表現しています。その絵は全体像を楽しむだけでなく、ペンから生まれたその一点一点を辿る醍醐味もあります。

 

一目見ただけでスッとその世界観に引き込まれる日高さんの絵が、どのようにして生まれたのか、そしてどんな思いで制作に取り組んでいるのかをお伺いしてきました。

楽しすぎる!ペン画に出会ったあのときのこと

——絵を描き始めたきっかけを教えてください。

小学生の頃、漫画家を目指していた叔母の絵に感動したのがきっかけでした。クオリティが高すぎて、「なんだこれは!」と驚いたのを覚えています。そこから叔母に絵を教えてもらい、ずっと描いていました。と言っても、大学生や社会人になってからは全く描いていませんでした。

 

実は会社勤めしていた時に、うつ病になってしまったんです。体調が悪くなって、会社を辞めて、一旦人生がゼロベースになりました。起き上がれるようになって、散歩ができるようになって、少しずつ回復するなかで、「そういえば絵が好きだった」と思い出し、また絵を描き始めました。

——その頃から今のようなペン画を描いていらっしゃったのですか?

いえ、今とは違ってカラフルで、愛犬など、とにかく好きなものを描いていました。

今の作風になったきっかけは、年賀状を描いて欲しいという仕事の依頼でした。そのなかで、ペンを使って点々で表現して欲しいというリクエストがあったんです。それでやってみたら、止まらなくなりました。「どうしよう、楽しい!」って。その仕事が終わった後も、この表現で描きたいという思いが強く......家でコピー用紙にひたすら点々を描き続けました。

▲当時の実際の年賀状。光が挿す様子を点々で表現するようにリクエストを受けたことが、今のような作風のきっかけに。

そうやって描き続けていたとき、たまたま自分が描いた鳥のスケッチを見つけて、その中に点々を打ってみたら自分でもしっくりきたんです。動物だったら、たくさんの題材があるから、ずっと描き続けられるとも思いました。とにかく点々を描き続けたかったんです(笑)

——本当に熱中されていたんですね.......

今思い返せば、小さい頃から細かい木目を描くのが好きだったんです。風景画を描く宿題が出た時、窓から見た景色を描いたのですが、一番好きでよく描けたのが窓の木枠でした。細い筆を使って、細かく線を引くんです。あとは畳の目を描くのも好きでした。今振り返るとそのことが今の作風にも繋がったというか、答え合わせのようだなと思います。

 

そういった描き方が好きということもあるけれど、前に描いていた絵よりも、お客様の反応もよかったんです。自分のやれることで、喜んでくれる人がいるんだなと嬉しく思いました。

描く動物との対話で生まれる、「癒しの絵」

——日高さんはほとんど下絵をされないと聞きました。

そうですね。枠となる動物だけまず描いて、そのあとはペンで思うままに埋めていきます。自由に描きたいという気持ちが強くて。一度下絵を描いてみたことがあったのですが、自分の描いたものであっても、その下絵に縛られているような感覚があって…...常に自由度が高い方が良いし、何もない方が描きやすいです。

——では、どこから描き始めるかやどう描くかということも決まっていないんですね。

はい、描いている“その子”(動物)によるかなと思います。描く前にその子の全体を眺めて自然に目がいくところ、気になるところから描き始めます。模様も最初から決めているわけではなく、自分の中でその子とコミュニケーションを取り、教えてもらいながら描いている感覚です。例えば「この子は歌を歌う子だから、ピアノの模様を入れてみよう」とか。

 

夢中で描いていると、頭の中が空っぽになります。そうやって瞑想状態に入ると、より対話がしやすい感じがします。

——日高さんの絵が動物のモチーフなのは、元々動物に親しみを感じていたからなのでしょうか。

はい。犬とも暮らしているし、動物は好きです。ただ描く絵が動物モチーフだからといって、特別に動物に詳しいとか、大きなメッセージ性を持たせたいというわけではないと思います。コミュニケーションが取りやすいというのが一番かも。

▲お気に入りのアンティークの作業台で絵を描く日高さん。ハトの羽の模様をペンでつけています。静かで優しい時間が流れていました。

——人を描いたこともありましたか?

ないですね......人だと訴えかけてくるものが強すぎるなあと思ってしまいます。動物の方が伝わってくることが柔らかくて、私には合っていそうです。

——これまで描いてきた動物で、特に思い入れのある子はいますか?

全部の子に思い入れがあるから......だけどあえて絞るのであれば、印象的なのは猫ちゃんの絵かなと思います。あるとき、ご縁のある方から依頼があって、その人をモデルに描いた猫ちゃんなんです。人間を猫で描くというのが面白くて、普段はしないけれど違和感なく描けたんです。

▲モデルの方が春生まれなので、背中にマーガレットの模様が入っているのだそう。

静けさの中に芯を感じるような猫の眼差しは、日高さんのモデルの方へのイメージが投影されているそうです。確かに動物は人間に比べて伝わってくることがダイレクトじゃないけれど、日高さんの描く動物は柔らかさの中にどこか私たちに通じる感情を感じさせてくれます。この猫ちゃんは、そんな作風を実感できる作品だと感じました。

——お客様とのやりとりで、印象に残っていることはありますか?

Creemaを通して出会うお客さんは、本当に温かくて優しいなと思っています。クリエイターをリスペクトしてくださる方も多いし、常連さんがたくさんいてくださるのもありがたいです。作品を手にとってくださった方からは「癒される」という声をいただくことが多いです。動物たちを描きながら自分も癒されているので、お客様の心にも同じように響いていることが嬉しいです。

 

そして、特にやりとりをしなかったとしても、私の作品をお財布を開いて買ってくださる人がいる……それだけで嬉しく、「とんでもない奇跡が起きている!」と毎回Creemaを見ながら感動しています。

 

また、初めて個展をしたときに、描いているときに浮かんでくる言葉を絵とセットにして展示したら、「絵と言葉が一緒になった本が欲しい」というお声を多くいただきました。自分では思いついていなかったのですが、じゃあやってみようと思って、作品集作りにも挑戦しました。

▲こちらが出来上がった作品集。Creema SPRINGSでクラウドファンディングを実施したところ、なんと開始30分で目標100%を達成!最終的には目標を大きく上回る応援者200人以上が集まりました。

——この作品集のこだわりはありますか?

表面は、肌触りがよく、長く楽しんでもらえるように、質感や丈夫さにこだわってPP貼りにしてあります。形も普通のA4だとパンフレット感が出るので、少し背を低くして美しく

作っています。あとはお話を楽しんでもらえるように見開き1ページに一匹の絵と言葉を載せるようにしています。その子の世界観に浸ってもらえると思います。

 

この作品集は自分一人で作っていないというのがミソで、クラウドファンディングで応援してくれた方々や、本作りを手伝ってくれた友人たち、Creema SPRINGSのスタッフさんたちなど、たくさんの方が関わってくれて、この作品集が生まれました。完成品をみたときに、一人じゃできなかったけれど、みんながいたからできたんだ!と感動しました。

同じ場所にはとどまらない。作品も自分ももっと広げたい。

——ペン画を始めてから、今にかけて作風の変化はありますか?

最近作風を変化させています。これまでの作風を気に入ってくださる方も多いし、私も好きで描いているのですが、これまでのスタイルでアーティストとして完成させようとしている自分に気づいたんです。まだペン画を始めて5年目だし、挑戦する余地はあるなと思って、この頃は好奇心や思いついたことを大事に絵を描いています。例えばアクリル絵の具を使ってみたり。

 

あとは、これまでよりも曖昧な表現を受け入れるようになりました。つい白黒つけたがる自分の性格に気付き、色にちょっとグレーを使ってみたり、スルスルかける紙じゃなくて、ペンが引っかかるような凹凸のある紙を選んだり……これまでとは違った表現の仕方にチャレンジしています。

▲左が少し前の作風、右が最近の作風。左が少し太めのペンで細部にまでしっかりと模様を描いているのに対して、右は境目のラインが曖昧で、ペンだけでなく、グレーやホワイトのアクリル絵の具を使用している。

——ご自身のこれからの目標はありますか?

いつかは美術館などで展示ができたら...…と思っています。縁が繋がったり、自分の技術や器が追いついたときになるとは思いますが、ずっと目指していることです。

 

あとは本の装丁や、言葉にも興味があるので、いつかは絵本作りなどにも積極的に取り組んでいきたいです。実は少しずつ作り始めていて、絵本のなかに出てくる歌も作ったりしているんです(笑)絵を描くということだけにとどまらず、いろんなことに挑戦したいと思っています。

インタビューを終えて

これからやってみたいことを、生き生きと話してくださった日高さん。自分にとって制作は苦労なくできる、シンプルに楽しいことだとおっしゃっていました。会社員時代に立ち止まり、うまくいかない時期があったこともお聞きしていたので、今思うままに、絵や新しい制作活動に打ち込んでいる様子をお伺いして、私まで温かく嬉しい気持ちになりました。

 

そんな日高さんがこれから生み出すものが、本当に楽しみでなりません。皆さんも是非、作品をお手にとってその世界観を味わってみてくださいね。

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