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染色家・デザイナー MAITOさん - ”四季を染める” 草木染めの新たな挑戦を_作り手インタビューvol.16

こんにちは。クリーマの宮崎です。

私たちが知る「色」。緑は葉から、青は空から、ピンクは花から… それは自然から学んできた気がします。いわば色は自然からの恵み。

 

自然の素材から染める染色技法「草木染め(くさきぞめ)」をご存知でしょうか?

草木染めは、花、葉、根、茎、木の樹皮など、自然の植物を植物染料として染める伝統技法です。実は、今から150年ほど前の明治時代に化学染料が海外から入ってくるまで、日本ではみんな草木染めをしていました。

 

安価かつ毎回同じ色で染められるなどの利点を持つ、化学染料が主流になった今でも、草木染めにこだわり、新しい表現に挑戦しつづける作り手がいます。

“草木染め” “天然素材” “メイドインジャパン” をコンセプトにものづくりをするブランド「MAITO(まいと)」を立ち上げた、染色家・デザイナーの小室真以人(こむろまいと)さんです。

 

私は、草木染めの魅力をMAITOさんの作品から教わりました。

はっきり何色とも定義しきれないような、淡く優しい色あいのニットやストール。オーガニックコットンのふんわりとした柔らかさ。“自然生まれ”をたっぷりと感じるアイテムを手に取った時、その美しさと心地よさに心奪われました。

 

草木染めを心から愛し、新しいものづくりにチャレンジをしつづける、MAITOさんの思いと未来図について。

蔵前にあるMAITOさんのアトリエショップにて。

四季があり、常に新たな発見がある、草木染めの魅力

- MAITOさんの草木染めのアイテムに触れてみて、心で感じる美しさと心地よさがありました。MAITOさんにとっての、草木染めの魅力とは何でしょうか?

「草木染めには、四季があります。その季節ごとに、ふんわりと奥行きのある色合いを出すことができます。また、染める季節や染め方などいろいろな条件によって、色の出方は変わってくるんですよ。例えば、今年桜で染めてピンク色が出ても、来年同じ桜で染めて同じピンク色が出るとは限りません。毎回新しい発見があるのも魅力ですね。そして、自然の素材を使っているので体に悪いものはなく、アレルギーを起こしにくいと言われます。草木染めにはいろいろなよさがあるんですよ」

 

- 草木染めの魅力は、色合いだけでなく身につける上での心地よさや安心感もありますね。草木染めがもっと身近に感じられました。

「実は、明治時代に化学染料が日本に持ち込まれるまでは、すべてが草木染めでした。華やかな友禅も、平安時代の十二単も、草木染めから生み出されたものなんですよ。皆さんに、植物の中にこんなに美しい色が眠っているんだということをもっと知ってほしいですね」

草木染かすみ織ストール(桜染ピンク・グレー)

普段づかいを目指して。「原綿から草木染めする」という新しい挑戦

「草木染めは、自然の色合いが出せるという魅力がある一方で、色があせやすいという課題がありました。でも僕は普段づかいができるファッションアイテムを作りたかった。だから、色の定着度を高めるために、製品、編地、布、糸… さらにさかのぼり、綿の状態からも染めることにしました。そうすることで、色あせしにくく、さらに色に深みを出すことができたんです。原綿から草木染めをしているのは、うちだけじゃないかな」

 

- 素材にまでさかのぼって「原綿から染める」という発想には驚きました。100%草木染めにこだわりながら色を保つには、大変なチャレンジがあったのですね。

 

「草木染めはとても手間がかかるんですよ。植物を育てて収穫して、煮出して染料を作ってと、化学染料の100倍以上のコストがかかります。この綿染めのために専用の釜も作りましたし、たった1キロの綿を染めるのに数ヶ月かかったりします」

蔵前の工房でも染色をされています。藍染め液を煮出し、カシミアを藍染めしていく様子です。
煮出した藍染め液につけて、冷水で洗って…の繰り返し。丁寧に少しずつ色を重ねていきます。色は重ねるほど濃くなり、その時の状態によっても色の出方は異なります。とても繊細な作業です。

時間とコストをかけてでも原綿から染め上げる。そのために釜まで作ってしまう。MAITOさんの追求心は半端じゃありません。

MAITOさんのものづくりへの情熱、そのルーツは、幼少期にさかのぼります。

織物・染め物のDNAを持って生まれて

MAITOさんは、京都丹後ちりめんの織元の家系に生まれ、福岡県の朝倉市秋月で染め物屋を営むお父さまの元で育ったという、生まれながらにして織物・染め物家系のDNAを受け継がれています。

 

- MAITOさんの染色との出会い、そして、今につながるものづくりはどのような道すじだったのでしょうか?

「元々カメラマンをしていた父が、僕が小学校3年生くらいの時に福岡に引っ越して、染色屋を始めたんです。福岡は自然がいっぱいで、季節があって、ゆったりしていて。季節によって山の色も変わりますしね。こんなに自然はキレイなんだなって感動しました。その頃から僕も染色を手伝っていたんですよ。天気の良い日は、裏山から草や花をとってきて染めたりしてね。

 

そして進路を考える時期になったら、やっぱり素材に触っているのが楽しいなって。ものを作って生きて行くことをリアルに体感して育ったので、きっとその考え方が染みついていたんですね。

工芸とデザインを勉強したかったので、東京藝術大学美術学部の工芸科に進みました。工芸の中でも陶芸や金属など、一通りさわってみて、やっぱり繊維が面白かったんです。染織を専攻して、「自分は繊維にしよう」と腹をくくったのが22歳の時でした」

日本初の「草木染めの綿のニット」誕生

- 「自分には染織だ」と決意されてから、どのように製品づくりをスタートされたのでしょうか?

「まずは色の表現を極めようと、染色屋をしている福岡の実家に帰りました。その頃に何げなく見ていたテレビに、ホールガーメント(無縫製のニット)が紹介されていたんです。その時に、「あ、ニットか!」とびびっと来て。

〈ホールガーメントとは・・・別々のパーツを後で縫い合わせる手法の従来のニットに対し、全てのパーツがついた一着の状態で立体的に編まれる無縫製のニットのこと〉

 

「日本の繊維文化は、「染め」と「織り」なんです。日本は着物文化だからヨーロッパの編む文化はなかったし、羊なんていなかったから、ニットやウール文化もなかったんです。だから、自分が勉強していた分野からニットがすぽっと抜けていた。「この機械さえあれば、僕が染めた糸でニットができる。面白いかもしれない!」と思いましたね」

 

- もう直感的に響いたと!最初に今までになかったニットから挑戦する、あえて難しい挑戦に燃えるのは、MAITOさんらしいですね。

「その機械をすぐに買ったんですが、操作はかなり難しくて、まともに動かせるのに1年くらいかかってしまいました。1年間、その機械の隣で寝泊まりしながら勉強して、いろいろな洋服を作れるようになって。草木染めのニットなんてなんて世の中にないから、ワクワクしましたね!」

 

- 1年間も機械と…!それでは、糸から形になった初めてのアイテムはニットだったのですね。加えて今ではシャツや靴下とアイテムも増えて、MAITOさんが目指されていた、普段づかいのファッションが誕生したんですね。

草木染ショートカーディガン(桜染)

草木染ショートカーディガン(矢車附子染)

このカーディガンを染めた原料、矢車附子(やしゃぶし)

このカーディガンを染めた原料、矢車附子(やしゃぶし)

全国の職人たちの技術を結集するものづくり

MAITOさんのユニークなところは、ご自身を「職人でありデザイナー」と言い、どう作り上げるかを考える設計士的な役割を担っていること。そして、全国の職人さんと協業したものづくりのスタイルを取っていること。

そのスタイルを貫くMAITOさんには、がんこなまでのこだわりがありました。

 

「染物屋は、染めるだけでは物ができないんです。縫ったり編んだり形を作る作業が必要です。そこで、文化服装学院に通ってパターンや縫製を勉強してみたけれど、服には動いても邪魔しない良い形があって、それにはパタンナーという職業があるくらい、専門的な技術を持ったプロがいる。自分が片手間にやっていてもその分野のプロフェッショナルには勝てないし、染めがないがしろになってしまうからダメだなと思ったんです」

 

- プロの技術力を知り、そしてリスペクトすることで、その道のプロと協業するという発想が生まれたんですね。

「そうですね。とにかく中途半端なものは作りたくなかったんです。現在は、染め、設計、デザインは僕がやって、全国の職人さんと話し合いながら一緒にものづくりをしています。例えば、MAITOのストールは兵庫西脇にある播州織の織機で、帆布のトートバックやポーチは岡山倉敷で、マフラーは日本を代表する機業都市である群馬桐生の職人さんと、という風にさまざまです」

草木染エンブロイドットマフラー(桜染)

群馬桐生で織った刺繍の草木染めレースマフラー。

草木染トート(屋久杉染)

岡山県倉敷市の帆布工場で、原綿から草木染めで染め上げ紡いだオリジナルの綿糸を11号帆布に織り上げたシリーズ。

草木染ゆったりソックス(桑染)

オーガニックコットンの原綿から草木染めで染め上げ紡いだオリジナルの糸で編み上げています。

人と人をつないで、ものづくりの輪を未来につないでいく

- 全国の職人さんの技術が結集したものづくりのスタイル。スタートしてから今まで、MAITOさんはどのようなことを感じてこられましたか?

「福岡に住んでいた頃から、田舎の職人さんに「継ぎ手がいないんだよ。誰かいないかな?」とリアルに言われてきたんです。苦しい時代があって、中国に仕事を取られて淘汰されたりつぶれたりで、ちょうど今の息子さん世代が継がなかったんですよね。

ただ今、若い人ほどものづくりに興味がある人が増えているんです。僕のところにも、染め物を教えてくれませんかという若い人がよく来ますよ。でも地方の職人さんはホームページなんて持っていないですからね。それに、なかなか受け入れてあげられるスペースとお金がないから難しい。だから僕がその橋渡しをできれば解決できると思っています。

人と人とをつないで新しいものを作っていかないと。僕らの力は微々たるものですが、将来的にまたすごい人たちが加わって、産業を守っていければいいなと思っています」

 

- MAITOとしてさまざまなアイテムを制作販売し、ブランドが成長すれば、一緒にものづくりをする職人さんも生活でき、産業が継続できるという良いサイクルができる。製品ひとつひとつがMAITOさんの思いの塊であり、解決策だったのですね。

クリーマを通じてMAITOのものづくりを知って欲しい

「MAITOさんにとってのクリーマとは?」クリーマショップの運営を担当されているスタッフの麻衣さんがお答えくださいました。

 

「沖縄や北海道など私たちの普段なかなか行けないような、遠方にお住まいのお客様からご注文をいただくことも多くありますが、そんなとき、大切にこころを込めて作った商品がこれからどのような場所でどのような人に愛されるのか・・・と自分の代わりに旅にでかけてもらうようなワクワクした気持ちになります。

そんなふうに、場所や時間を関係なく、いつでもどこでも気軽に、アイテムを見たり買ったりできることが最大のメリットだと思うので、クリーマを通して、もっともっと多くの方にMAITOのものづくりを知ってもらえたらと思っています」

スタッフの麻衣さんも、自然の色合いのニットやストールがとてもお似合いでした。MAITO代表・小室真以人さんのことを「すごく愛のあふれた人です」と教えてくださいました。

インタビューを終えて

草木染めはとても奥が深く、美しく、とおといもの...。自然の一部をおすそわけしてもらい、それを身につけることは、自然にかえるような心地よさを感じました。

MAITOさんの中には、草木染めへの愛情と、伝統のものづくりそして良い技術を守り伝えていきたいという情熱が、ドクドクと流れていました。たくさんの思いが言葉となってMAITOさんの中から次々とあふれ出します。お話を聞いた後には「圧倒された」という言葉しか見つかりませんでした。

 

当日、藍染めのワンピースを着ていった私に、「あ、琉球藍ですね」と、MAITOさん。それを染めたのが天然染料なのか化学染料なのか、さらに、何の素材から染められたものなのかが、目で見れば分かるそうです。これには驚きました!

 

MAITOさんは、豊かな自然や人への愛情をもって色を見つめている。そしてその色を、綿や帆布といったさまざまなキャンバスに、愛情を込めて染め上げて、人に渡し伝えていっているのだと感じました。

MAITOさんは、どこまでも「愛のあふれた人」でした。

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