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こんがり焼けた食パンの時計に隠された、真っ直ぐな作り手の思い|木工作家・木とり舎さん「ただ、ひたすら、ものづくり。」

こんがり焼けた食パンの時計に隠された、真っ直ぐな作り手の思い|木工作家・木とり舎さん「ただ、ひたすら、ものづくり。」

5年以上も私の愛用品である、食パンの掛け時計。パンのフォルムと木の素材を生かした凹凸感、柔らかな風合い、こんがりと焼き印でつけた文字盤がとっても可愛らしくて一目惚れでした。

自宅のお部屋に飾っていますが、いつ眺めても今にも美味しそうな香りが漂ってきそうな心地にさせてくれます。

▲ 切り出したそのままの木材が使われているので、ほどよく経年変化してさらに落ち着いた風合いに。少し火で焼いたようにも見えるようになってきました。
▲ 近くで寄ってみると木材のざらっとした質感がより分かります。赤色の針もアクセントになっていい塩梅。

この時計を手がけるのは、木工作家の木とり舎さん。

こんなに優しくて可愛らしい作品を制作されているのは、一体どんな方なんだろう……。胸を高鳴らせながら工房に伺ってきました。まずは動画で制作工程をご覧ください。

インタビューでは、木とり舎さんのものづくりについて伺い、ずっとお話してみたかったことをあれこれ聞いてきました!

地道に、コツコツと。手元に残るものを作りたい

――ものづくりを始めたきっかけは?

幼い頃からものづくりが好きでした。幼稚園でほかのみんなが外で遊んでいる中、晴れていても道具箱の粘土でひとりで何かを作っているような子どもでした。

▲ 木とり舎の木下さんご夫婦。おふたりで作業を分けてひとつの作品を完成させます。

学生時代に「ザ・ベストテン」という歌番組があり、あの舞台装置を作ったら楽しいだろうなと思い、美術大学で空間演出デザインを専攻しました。そこにいたいろいろな人の影響ですごく視界が開けて、舞台やウィンドウディスプレイを作る仕事に興味を持ち、アルバイトを重ねました。特に、バブル絶頂期のモーターショーのディスプレイ制作はすごく楽しかったんです。

でも結局その道には進みませんでした。作業をしているときは楽しいんですけど、イベントが終わったら壊してしまうんです。時間をかけて作ったものが残らないと分かった瞬間に、これは自分のやりたいこととは違うなと。手元に残るものを作りたかったので、その経験からインテリアデザイン事務所に就職して、3年後に創作家具工房に転職し木工を学びました。

家具工房で10年程働いた後に独立する事となり、妻が提案した『木とり舎』を屋号にすることに決めました。木を「こ」と読んで、小鳥のようにたくさんのお客さまに可愛がってもらえるようにという意味を込めています。

悩んで考えて。突然アイデアが生まれる瞬間があるから面白い

――コロナ禍の中、できあがったのが「トーストの時計」だと伺いました。

▲ 食パンに色を塗り、バターを乗せたトーストの時計。食パンにするか、トーストにするか、どちらも美味しそうで悩みます。

当時は制作や販売のペースが狂い、どうしたらこの状況でも生き残れるのかと無我夢中でした。

トーストの時計はコロナになっていなかったらできていなかったと思います。月1回参加していたイベントが一気になくなって、考える時間ができたんです。それで、「今まで忙しくて手をつけられていなかったものを時間をかけて開発しよう」と。それまではこんなトーストの時計を作ろうと思ったことはなかったですもん。


節(フシ)が入ってしまった板は作品としては販売できないんですけど、それが何十枚と積まれているのを眺めているときに、彩色したら節も目立たないのではと、トーストの時計を思いつきました。その後どうしたらトーストらしくなるのか研究に時間を費やして、1ヶ月ぐらい経ったときにバターも乗せたくなって、バターも木で作ることにしました。

▲ バターになる前の木材たち。この後に着色されてじんわりと美味しそうなバターに変身します。

たくさん考えてもうこれ以上生まれないだろうと思っていても、突然ぽこっとアイデアが生まれる瞬間があるから面白いですね。世の中の変化に合わせるようにお客さんの価値観も急にガラッと変わりました。アーティストや芸術家であれば変化する必要はないかもしれないですけど、僕たちはクラフト作家なのでずっと同じものを作り続けるというよりは常に進化しながらゆっくり進んでいくんだと思っています。

――お客さまからの声や反応をどのように制作に活かしていますか?

僕は木が好きだからどんな模様や木目でも大好きですが、同じ樹種でも育った環境によって色や肌質に違いがあり、実際に木材を切り出してみないと分からないんです。お客さんからこの木目は好きじゃないとか、思っていたのと違ったと言われたことがあって、そのときは何が違うのか分からなかった。でもそういう声に耳を傾けて、なんとなくこんな感じかなって少しずつ改良を重ねています。「いいね」と認めてもらえるか、「ちょっと違う」と感じるかは、値段だけではなくて小さなことの積み重ねで本当にその微妙な差なんですね。

▲ 手書きでひとつひとつ数字を焼き付けていきます。この可愛らしい書体は作家さんが手書きしているからこそ。真似することのできない一点ものの魅力です。

木の色がワントーン変わっただけでオンライン販売で急に動き始めることもあるので「え、こんなにちょっとのことなのに……!」って驚きの連続です。複合的な要素で売れたり売れなかったりするので、それはひとつの捉え方として、まずは大きな1本の道を作っておいて、もしそれが間違っていたらそこまで戻ればいいだけだと楽に考えるようにしています。

可愛くて美味しそう。そんな作品にたどり着くまでの、ものづくりへに対する真摯な思い

――活動の中で大切にしていることはありますか

美味しそうに見えるものっていいじゃないですか。始めた頃の時計は、家やしずく、真四角のシンプルなものだったんですけど、あるときお客さんから食パンの時計のオーダーがあり、作り始めるようになりました。そうしたらほかの方からも可愛いと言っていただけて、「食パンの時計ってそんなに可愛いんだ」って。今では、Creemaでもダントツ人気の作品になっています。

 

もっと効率を上げて量産する方法もありますが、ひとつひとつ刃物を使って自分の手で挽いていくのが楽しいので、その点を大切にしています。お金儲けではなくものづくりがしたくて作家を続けているので、自分が楽しいと思うことに対して正直に、そして地道にコツコツとですね。これからも自分に正直に、嘘をつかないように丁寧に手がけていきたいと思っています。

▲ パン耳も手作業で色を塗っていきます。文字盤の面にはみ出さないように慎重に。一気に食パンらしくなってきました。完成まであと少し!

機械1台から始めてここに工房を持てるようになるまでにすごく苦労したんですけど、ものづくりに興味がある人が自分のやりたいことを諦めなくていいように、「地道にものを作って販売して頑張っていけばいつかそれだけで生活できるようになるから大丈夫」ということを示していきたいと思ってます。

▲ 撮影のひとコマ
「外からの方が撮りやすいよ」と教えていただき、こんな脚立の上から撮影しました。
▲ 外の脚立の上から撮影。実は足場とカメラを安定させるのに精一杯な私。なんだか不思議な光景です……。

木とり=小鳥のようにたくさんの人に可愛がってもらえるように

たくさんの方々に愛される木とり舎さんの木製インテリア作品の数々。ほかにも、ビスケットカンパーニュなど心がほっとほぐれるような温かなものばかりですので、ぜひ一度覗いてみてくださいね。

木とり舎さんのギャラリーページはこちら

これまでの作り手インタビューはこちら

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