BLOG

七宝焼きとは?太田七宝さんに技法や制作方法、そして魅力を伺いました!

七宝焼きとは?太田七宝さんに技法や制作方法、そして魅力を伺いました!

皆さんは、”七宝焼”をご存知ですか?

名前は聞いたことはあるけれど、どういった焼き物なのかわからない。そんな方もいるかと思います。

 

私が七宝焼という言葉を多く目にするようになったのは、クリーマでの業務中の一コマ。鮮やかな色に惹かれたピアスには、七宝焼の技法が使われていました。

Creemaでも現在七宝焼の作品は、2300点を超える出品があり、どれも同じ「七宝焼」ではありながらも、作家さんそれぞれの個性が溢れる作品ばかり。奥の深さを感じてなりませんでした。

今回は、七宝焼とはどういった技法なのか?そして、その魅力は一体何なのか。

愛知県で130年もの歴史をもつ太田七宝さんに七宝焼について、そして太田七宝さんのものづくりについて、たっぷりとお話を伺いました。ぜひ、七宝焼の魅力にハマってみては……?

▲太田七宝六代目のsatsuki*さん。愛知県の本社から、リモートで取材を行いました。

太田七宝

現在、愛知県津島市立込町にある窯元。明治20年4月、花瓶や壺など大型の作品を作られていた七宝焼職人、初代・太田実右衛門氏が小さい作品の制作を始めることをきっかけに、会社を立ち上げる。その息子にあたる太田為一氏が二代目となり、会社や学校のバッジである「徽章」を作り始め、現代でも変わらず徽章の制作を行う。
工房では、七宝焼の体験教室(※要予約)をはじめ、定期教室や七宝焼以外の様々なクラフト体験ができるカルチャー教室も開講中。

今回お伺いしたのは、太田七宝六代目のsatsuki*さん。太田七宝六代目を勤めながら、ご自身のブランド「hana*」では、作家satsuki*として、若い方も気軽に身につけやすい七宝焼のアクセサリーを制作されています。

「hana*」のギャラリーはこちら

ーーまずはじめに、「七宝焼」の起源について教えてください。

satsuki*さん:実は元々は古代エジプト文明のもので、徐々にシルクロードを通って日本へと伝わってきました。

 

愛知県は七宝焼が有名な土地なのですが、それは江戸時代から明治時代にかけて愛知県にいた梶常吉(かじつねきち)さんが今の愛知県の七宝の基礎を作った人だと言われていることに由来しています。

 

また愛知県には「七宝町」があるんですが、それも、かつて七宝焼きの製造業が盛んだった地域だったためそういう名前がつけられています。

 

太田七宝も、本来は七宝町に工房を構えておりました。(※現在は移転済み)、当時は周りには約100軒もの七宝焼屋さんがあったのですが、現在も続いている窯元は7、8軒ほどとかなり縮小してきています。

有線七宝に無線七宝……七宝焼きの色々な技法

七宝焼には様々な技法がありますが、その中でも代表的な技法の特徴についてsatsuki*さんにお伺いしました。

細かくするとかなり技法があるのですが、七宝焼の技法は、大きく分けて有線七宝無線七宝の2つに分けることができます。

有線七宝

ざっくり言うと、“銀線を使う七宝”。線で模様を描いて、そこに色を差していく技法です。

数多くの技法を手がける太田七宝がメインとする技法が、この有線七宝。全て職人による手作業なので色の濃度にも個性が出ます。

また、会社や学校のバッジである「徽章」作りのために個体差が出にくい大量生産型の「メタル七宝」という技法もメインとしています。メタル七宝は、機械で形を抜く大量生産に適した技法です。最終的に色乗せは手作業なので、多少色合いに個体差は出てくるものの、ほぼ同じものが出来上がります。

▲太田七宝さんが作った、学校のバッジ(徽章)。愛知県西部のほとんどの学校で使われているそうです。

無線七宝

ざっくり言うと、”銀線を使わない七宝”。

途中まで有線と同じ制作方法ですが、焼く前に銀線を抜きます。そうすることで釉薬の色の境界線が無くなり、境目がぼやけ、有線よりもやさしい印象の仕上がりになります。

そのような手順で作られた技法が本来の無線七宝なのですが、現在では、手順に関わらず線がない七宝=無線七宝と呼ばれています。

省胎七宝(ショウタイ)

省胎の「胎」は、七宝の土台という意味を持ち、七宝焼の土台となる銅板を、出来上がってから溶かすことを「省胎」と言います。

つまり、胎がなくなるので、ガラス質の釉薬だけ残ってガラスの器のような仕上がりになります。その分とても割れやすく脆いので実用品としては扱いづらい技法ではあります。

アクセサリーなどの身に付けるものではなく、主に、作家さんによる芸術作品に用いられることが多い技法です。

透胎七宝(トウタイ)

まず銀で枠を作り、その中に色を入れて焼くのを透胎七宝と言います。こちらも省胎技法と同じく、表面が繊細でとても脆くなっています。

※現在省胎・透胎七宝はCreemaでの販売はありませんが太田七宝さんの店舗での販売は行なっているそうです。

盛上七宝

※ちなみに、この黒みを帯びたシックな赤色は赤透(あかすけ)。日本で生まれた釉薬なので、外国にはない色です。日本の七宝を語られるときによく出てくる色の一つです。

触ると凹凸があり、やや立体感のあるのが特徴。もともと七宝焼きは表面がつるっとした滑らかなもので、作業工程の最後には凹凸を削ってしまうんですが、この盛上七宝はわざと凹凸を作るために一部を盛り上げたり、凹んだ部分が作られている技法です。

制作工程 〜七宝焼(有線七宝)が完成するまで〜

1,素地づくり

▲まず、銅板を作りたいものの大きさに切り出します。
▲その後、木槌で叩いてカーブを付けます。カーブがあることで釉薬をのせても割れにくくなります。

銅板の切り出し〜木槌でカーブをつける工程の後、銅板に「裏引き」(裏にだけ釉薬を乗せる)を施します。釉薬を表面だけに塗るとヒビができやすくなり、割れてしまいます。なので、裏面にも釉薬を塗って、バランスが取れるようにすることで破損を防ぐことができます。

その後、銀箔を貼り付ける「銀張」を行います。

2,植線

 続いて、模様の輪郭となる部分に銀線を立てていきます。ピンセットの先端で、曲げて形を作っていくので、全ての工程の中でも一番時間がかかります。  

アクセサリーなら1日、2日ほどの時間でできますが、大作となれば、何週間もこの作業に時間を費やすこともあります。線が曲げやすくなるように、銀線を焼いて柔らかくし、曲げていきます。

3,施釉

銀線を立てた後、出来上がった模様の中に、釉薬の色を差していきます。銀線の高さを超えるところまで、色を差していきます。  

手作業ゆえに、どうしても表面に凹凸ができてしまいますが、色を差し終わった後は、表面の高さが銀線の高さに揃うように研磨をし、表面を滑らかにします。

▲色を差す時に使用する釉薬たち。淡い色から鮮やかな色まであり、カラフルで楽しげですね。

4,焼成

素地作りや植線など、作業工程の間に、焼成を何回も繰り返していきます。

釉薬の色を重ねていくほど、色は深みを増していきます。素地作りから、植線、焼成と繰り返していくと、一つの作品が完成するのには、3日ほど時間かかります。

ーー太田七宝さんでは、ブローチやネックレスなどアクセサリーを中心に出品されていますが、いつ頃から手がけられているのですか?

三ツ輪 七宝焼きペンダント 純銀張七宝

satsuki*さん:七宝焼きというと、お皿、つぼ等の作品をイメージする方が多いと思いますが、太田七宝は明治時代から徽章などの小さいもの、アクセサリーなどを制作していました。当時、周りにたくさん七宝焼屋さんがあるなかでも、それは珍しく、とても特殊な窯元だったんです。

 

そんな太田七宝は昔から小物にも力を入れていたので、アクセサリー作りが得意な窯元です。アクセサリーの種類(デザイン)も豊富に取り揃えています。

現在Creemaに出品している作品の中にも、実は初期のデザインを変えずに何十年も制作し続けているものもあるんです。

菊 七宝焼きのカフスボタン(カフリンクス) 純銀メタル七宝

▲徽章の製造に使われている技法「メタル七宝」で作られた、菊のカフスボタン

satsuki*さん:私は六代目なのですが、実は、太田七宝に入社する前はIT企業でシステムエンジニアとして働いていて、七宝焼とは関係のないことをしていました。当時は、七宝焼についても「祖父の実家が徽章を作っているんだなぁ」くらいの認識でした。

 

それから何年かして母が太田七宝を手伝うことになり、私自身も七宝焼を知る機会が増え、興味を持ち始めたんです。そこからエンジニアの仕事も続けながら、趣味として七宝焼を習い始めるようになりました。

 

ある時、五代目が体調を崩してしまった時期があったんです。一時的に太田七宝の人手が足りなくなってしまったタイミングで、六代目をやらないかと声がかかりました。「私がやらなかったら、将来的にはこの会社は無くなってしまう……!」と意を決して、六代目に就任しました。

ーー六代目のsatsuki*さんは、太田七宝とは別で、hana*というブランドでも制作活動をされていますが、hana*を設立した理由やきっかけは何だったのでしょうか。

受注販売 純銀線ネーム入り ぷっくりハートのペンダント

satsuki*さん:七宝焼を習い始めて1年くらいのタイミングで始めたブランドです。習い始めた当初から、「太田七宝の商品って、若い人に向けた商品が少ないな」と思っていたんですよね。

私自身でも会社に着けていけるような、小さめのアクセサリーが欲しいなと思っていたのもあって、純粋に、私が実際に身につけたいものを作ろう!と思って始めました。

 

ですが、太田七宝で小さめのアクセサリーを企画・販売するとなると、従来の作品と世界観が変わってしまう。なので、新たにブランドを設立して制作することにしました。

Bouquet 七宝焼のブローチ 純銀張有線七宝

▲その時々の思いつきで、自由にデザインを生み出していくsatsuki*さん。あえて従来の七宝焼きのデザインにこだわらず、刺繍やガラスフュージングなど、趣味として幅広いものづくりをする中で、創作のヒントを得ているそうです。

ーーhana*の作品を通して、どのような想いを伝えていきたいですか?

satsuki*さん:太田七宝への入社時にも思ったことなのですが、七宝焼って想像以上に世間に知られていないんですよね。七宝焼は焼き物ではあるけれど、ろくろを回して作る焼き物とは違います。七宝焼の話をすると、そこを混同されている方も実際にいました。

 

hana*の作品を通して、少しでも七宝焼を身近に感じてもらいたい。アクセサリーとして気軽に身につけてほしい。そんな想いを伝えられたらと思います。

ーーsatsuki*さんが思う七宝焼の魅力を教えてください。

satsuki*さん:七宝焼は、100年たっても色が変わらないと言われるくらい、色褪せずにずっと美しい色のまま変わらないんです。太田七宝のデザインが代々変わらないように、親から子、孫へと受け継いでいくことができるというのが、七宝焼の魅力の一つだと思います。

 

それに加えて、出来上がった作品それぞれの表情が、一つひとつ異なることも魅力だと感じています。これは教室で講師をしているときにも感じるのですが、例えば皆が同じデザインを見ながら全く同じ工程で制作をしても、違う人が作るとかなり作品の表情が変わってきます。

 

手作業というのもありますが、窯の温度や、釉薬の厚みのわずかな違いも作品に影響し、異なる表情が出てきます。特に、銀線を使用しない”無線七宝”は、作った人によってそれぞれ釉薬の厚みが異なるので、色の濃さなども異なってきます。

 

機械のように均一には作れない、ハンドメイドならではの個性が出てくるという点も七宝焼の魅力だと思います。

銀河 七宝焼のカフリンクス カフスボタン 純銀箔ちらし七宝

ーー最後に。今後の太田七宝で挑戦していきたい事について教えていただけますか?

satsuki*さん:最近では、海外のお客様からの注文も多く入っています。太田七宝のインスタグラムでは、海外からのフォロワーも増えてきています。七宝焼の魅力を世界に届けられるように、海外進出が今の目標です。今後海外でイベントができるようになったら、積極的に出店していきたいと考えています!

 

また、もうひとつやってみたい事として、七宝焼作家さんへの情報発信があります。太田七宝で教室を長くやっていますが、趣味として通っている方もいる中で、七宝焼作家として長年やられている方も実は多いんです。

なかには作家さん独自の技法で制作されている方もいるのですが、割れやすいやり方で制作されている方も拝見することがありました。実際にもお問い合わせがあるのですが、「七宝焼を始めてみたいけど何から始めていいかわからない」という方も多いと感じています。

 

それほど、興味を持っても直接技法について聞ける人が身近で見つけづらい業界なのかもしれません。七宝焼をこれから始めてみたい人や七宝焼作家さんに向けて、伝統的な七宝焼の技法を発信していきたいなと思います。

100年変わらぬ美しさで、人々を魅了し続ける七宝焼

古代エジプト文明から伝来し、当時から多くの職人によって作られてきた七宝焼。100年たっても変わらない美しさで輝き続ける七宝焼は、この先もずっと色褪せることなく、人々を魅了していくことでしょう。

 

その一方で、年々窯元が減ってきている事実もあり、この伝統ある技術がずっと途絶えずに、受け継がれていって欲しいという気持ちになりました。この記事を通して、七宝焼の魅力を感じてもらえたら嬉しいです。

 

太田七宝として変わらぬデザインを受け継いでいくこと、hana*として現代の若い人にも七宝焼を身近に感じられるような作品を届けていくこと。伝統的な技術を受け継ぎ、多くの七宝焼作家さんと七宝焼作品が生み出されますように……。

記事を書きながら、私も銀線立てたり色を差してみたい……と七宝焼を体験してみたい気持ちも高まりました!

 

この度、取材にご協力いただいた太田七宝さま、本当にありがとうございました!

太田七宝さんのギャラリーはこちら

この記事を読んだ方におすすめ!

(特集)息をのむ繊細さ 技で魅せる作品

作り手の技が光る、とっておきの作品をご紹介します。その繊細さ、美しさは思わず見とれてしまうほど。手間暇を掛け、こだわり抜いて作られた作品をぜひ堪能してみてください。

(読みもの)私たちが益子焼に惹かれる理由。窯元・益子焼つかもとさんに訪問してきました

益子最大の窯元・益子焼つかもとさんへ実際に訪問し、益子焼の魅力・つかもとさんのものづくりにかける思いについて、インタビューしてきました。老若男女問わず現代の私たちが益子焼の食器(和食器)に惹かれ続ける理由は何なのでしょうか?

(読みもの)作家さんこだわりの素材から知る、作品の新たな魅力

知っているようで実は知らない、素材の特性や素材選びへのこだわりに触れると、より一層作品に興味や愛着が湧いてきます。今回はwaji labo.さん、谷口亜希子さん、華茶【廃材木工】さん、-du bon temps-さんの4人に、「こだわりの素材」のお話を伺いました。
ブログで紹介する▼
HTMLコードをコピーしてブログに貼り付けてください
この記事のタグ
同じカテゴリーの記事
人気の記事