BLOG

【地域×芸術祭×大学】大学が地域を動かす芸術祭?東北最大級の芸大が考える、次なる学びの形とは

2022.09.15
PR
【地域×芸術祭×大学】大学が地域を動かす芸術祭?東北最大級の芸大が考える、次なる学びの形とは

芸術大学はアーティストになる人だけが通うものと思っている方もいるのではないでしょうか。
でも実は、芸術大学のなかには、私たちの生活に寄り添う、身近なものをつくったり、世の中とアートを繋ぐ分野もあります。アートがもっと身近なものになって生活に溶け込んだら、もっと楽しい世の中をつくることができる。そんな思いで、アートと世の中を繋ごうと奮闘している人々がいます。

 

クリエイティブの力で世の中を変えようと挑み続ける東北芸術工科大学。ここは、アートやデザイン、クリエイティブを愛し、そこに携わりたいという人に道を拓いてくれる場所です。

 

芸術の秋、今年は全国各地でさまざまな芸術祭が行われていますが、ここ山形では、全国で唯一、大学単体で主催する芸術祭「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2022」が行われました。

 

そこから見えてきたのは、山形から世界へ拡がる、アートやデザインに対する新たな学びの形。アートと世の中を繋ぐには。クリエイティブの力で未来を変えるには。そんな問いに対するヒントが見えてきました。

大学を飛び出したクリエイターたちが街に活気をもたらす

2022年9月、「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2022」(以下、山形ビエンナーレ2022)が開催されました。

ビエンナーレとは、2年に1度行われる大きな芸術祭のこと。東日本大震災からの復興を心で支えようと2014年から始まった「山形ビエンナーレ」は今年で5回目を迎えます。9月3日~25日の金、土、日、祝日の12日間、山形市中心市街地を舞台に7つのプロジェクトが展開し総勢150組のアーティストと100のプログラムが実施されました。

この山形ビエンナーレ2022は、今年4月にクリーマと包括連携に関する協定を結んだ、東北芸術工科大学(以下、芸工大)が主催している芸術祭です。

大学が、地域の芸術祭を主催ーー?
こうしたイベントは地方公共団体が主催する芸術祭が多い中、大学が主体となり、ここまで街を巻き込んで大学と地域がクリエイティブな渦を起こすのは日本全国を見渡しても、ここ山形の芸術祭だけです。

芸工大の教員らがキュレーターやディレクターを務め、市内のさまざまな施設で展示やワークショップ、パフォーマンスなどが展開されていました。

山形駅を降りて散歩しながら楽しめるエリアで催されている山形ビエンナーレ2022。歩いていると街にはおしゃれなカフェやレストランが並び、工事中の壁面でさえ素敵なアートが施されているのに気が付きます。実はこれも、すべて東北芸術工科大学のプロジェクトの一環で取り組まれたもの。

都市部の芸術大学だと、すぐ隣に業界がありますよね。
地方は、そこで勉強していることが生活の真横にあるというか、アートもデザインももっとリアルなんです。それがローカルの強みだと思います。
例えば、大きなショッピングモールが建つとその周りに街ができるように、それがなくなると市街地の空洞化が加速していきます。そういう場所の再利用をデザイン思考で解決するんです。「空き家をリノベーションして新しい使い方にしてみよう」とか。すごくリアルな大学なんですよね。

東北芸術工科大学 中山ダイスケ学長

空きテナントとなっていた場所が、何度も足を運びたくなる魅力あるお店や、つい長居してしまう落ち着いたカフェに生まれ変わる。大学と街が繋がって、さらに地域の魅力が増しているように感じます。

 

この日見学した、山形市民が参加する「美術の學校」プロジェクトで開催された数々のワークショップは、「クオリティを重視して企画した」といわれるだけあってどれも独創的。

3日間に渡って行われるプロジェクト「地元の土で芋煮鍋をつくろう!」では、参加者が自宅の庭の土を持ってきて、それぞれ直径30cmの大きな芋煮鍋をつくります。でもそこで終わりではなく、鍋が完成したら実際に芋煮を作り、「地元の土をつかった鍋」と「そうではない鍋」で、芋煮の味がどう変わるかまでを体験するという壮大なプロジェクト!参加者は、教授の指導のもと真剣に楽しそうに制作に没頭する姿が印象的でした。

※芋煮とは山形の郷土料理で、毎年秋になると河原に集まり鍋を囲む「芋煮会」が開かれることでも有名です。

 

見ること、体験すること、それがもたらしてくれる暮らしの潤い。楽しいクリエイターがいることで、街も人も楽しくなる。まさにアートが現実社会に融合して、生活に彩りを与えていることを肌で感じました。

クリエイターと、アートや文化の力で街のあり方を変えていく

山形ビエンナーレ2022の中心地となった「やまがたクリエイティブシティセンターQ1(キューイチ)」(以下、Q1)には、初日から多くの人が詰めかけていました。

Q1は、「旧一小」として親しまれた山形市立第一小学校の旧校舎をリノベーションしてつくられた新しいクリエイティブスペースです。

この新たな創作の場となったQ1が作られたのには「山形に優秀なクリエイターを残したい」という思いがあったのだそう。

山形は文化として面白いところです。でも、まだまだ魅力が知られていないし、地元の方もあまり自覚していません。とても潜在能力がある街なんです。
でも今はどこでも好きな場所でものづくりができる時代です。
このQ1を、アーティストが滞在する場所にして、街のあり方を変えるアーティストとともに、さまざまなことを考える場にしたいと思っています。優秀なクリエイターがいれば文化的な水準を上げることができますし、そうすることで街の魅力が増しますから。

株式会社Q1 取締役、東北芸術工科大学 工芸デザイン学科教授、大学院芸術文化専攻長/深井聡一郎氏

Q1にはアーティストが制作活動に取り組めるスタジオがあり、創作の様子を間近で見たり、作り手に話を聞くこともできます。現在は陶芸、金工、漆芸、染色を手がけるクリエイターが入居しており、染色作家の林谷さん、漆作家の菊地さんは共に芸工大の4年生。この日もそれぞれ創作活動に励んでいました。

▲染色作家の林谷さん「熱い思いのある人に囲まれた環境での創作活動は、刺激があります」
▲漆作家の菊地さん「作っていると、街の人が気さくに話しかけてくれるんです」

このスタジオで陶芸に取り組みながら、Q1でショップ運営に携わる斎藤さんは、芸工大修士課程 芸術文化専攻 工芸領域の大学院生。

質の高い作品を山形の方々に届けたい、と語る斎藤さん。おすすめの作品は? という質問には、迷った末にひとつの陶器を手にとって、「この作家さんは釉薬の使い方が挑戦的で、こんな掛け方は普通ではないんです。釉薬に対する愛の強さを感じます!」と教えてくれました。

もともと美術全般が好きで東北芸術工科大学に入り、大学ではただつくるだけではなく、いろんな活動をさせてもらいました。その中でフィールドや空間の演出に興味を持ち、いいものが作られる過程や裏側を知るのが好きだなと感じていたんです。
そんな時に深井教授に声をかけてもらって、この店の店長をさせてもらえることになりました。
僕自身、Q1のレンタルスタジオで創作しながら、ここの運営を続けていきます。

斎藤さん

ほかにも県内外の逸品を集めたショップ、素材や味にこだわったコーヒーやスイーツが楽しめるカフェもオープンし、芸術や文化を愛する人やクリエイターはもちろん、誰でも自由に訪れてクリエイティブを感じられる場所になっていました。

山形ビエンナーレ2022やQ1は、市民にとり、クリエイターの手がけた、一流のアートやデザインに触れつつ、自分たちの住む地域の良さ、価値に気づくきっかけとなる場所。また同時に、運営に携わる学生にとっても、アートやデザインの意義や役割を学ぶ貴重な場となっているのでした。暮らしと、アートやデザインとが重なり合う山形市の環境。そこでは単に机上でデザイン論やアートを学んでいるのとは全く違う、血の通ったものづくりを感じられました。

東北芸術工科大学が挑む、新たな工芸の学び方

このようにさまざまなプロジェクトに精力的に取り組む芸工大ですが、2023年4月には新しく「工芸デザイン学科」が開設されます。

この学科は、クリーマと連携することで授業の中で商品開発からマーケティング、販売までの実践的な理解を深めたり、地域産品のリブランディングや商品開発に取り組んでものづくりによる地方創生に挑戦したりすることができる、より実践的で主体的な学びの場を目指しています。

東北芸術工科大学は山形という土地柄もあって、門がない、壁もない、守衛さんもいない(!)、開かれた大学です。朝8時から夜9時まで自由に工房を使える大学は、世界的にも珍しいのではないでしょうか。
先生と学生との距離が近いことや、他学科の先生に話を聞きに行ったりすることも当たり前にあります。「こういうことができないかな?」という疑問を持った時、人に聞いたらすぐに解決できることってありますよね。自分の分野だけではなく、学内のあらゆる人と繋がって知識を増やせることは、この学校の利点のひとつだと思います。

(工芸デザイン学科 学科長 藤田謙教授)

「工芸デザイン学科」学科長の藤田教授が考える理想は、「工芸の “縦割り” の分野を “横断” できるしくみ」づくり。

例えばファッション希望でテキスタイルを学んでいる学生も、陶器、漆、金属の授業も受け、さまざまな分野の素材を知ることができます。作品を生み出す過程で、必要な一連の素材に触れることができます。素材が融合できることを知れば、新たな組み合わせを考えることができるようにもなります。この学科で今までとはまったく違うアプローチで工芸を学んでいくことで、これまで誰も考えたことのないような新しいものを生み出す人が生まれるはずです。

Creemaで当たり前のように売られている陶器を金継ぎしたイヤリングの作り方なんて、今まで誰も教えなかったんです。学生に知識がなければ、発想も狭くなります。
今の時代、誰でも情報でものがつくれますが、それはプロトタイプに過ぎません。五感を通して素材を学び、実際につくることでさらに応用がきくようになり、“こうすれば良い”というアイデアが発想できます。そうやって形にできる人はとても強い。デジタルが進んだ今だからこそ、このアナログな学びが必要となっていくでしょう。

工芸デザイン学科 学科長 藤田教授

当たり前だった “工芸” の概念を変える

なぜ今 “工芸” デザイン学科なのか。機械で何でも生み出せる今、工芸は危機的状況にあります。でも一方で、大量生産では作ることができないものやクラフトの良さが見直されつつあることも事実。
だからこそ、あえて手仕事の分野を見直して、工芸の概念を変えてみよう、ということになったのだそうです。

私たちが失敗したら工芸の未来はない……そんな意気込みで取り組んでいます。

例えば私たちが日頃使っているスプーン。それらは金属や木、陶器などいろいろな素材でできていますが、私たちはそれらを総称して「スプーン」と呼びますよね。
しかし、工芸の世界では「金属のスプーン」と「木のスプーン」は全く別のものです。金属を扱う人は木工をすることなく、ものづくりを学ぶ人はその素材を極める学び方をしているんです。

ですが、今の世の中にはひとつの素材で作られたものの方が少ない。
これまでの工芸では当たり前だった “枠組み” を外して、自由さを取り入れたら、ものづくりの可能性がもっと広がり、想像もしないものが生まれるのではないか。それを考えつく人材が育つのではないか。そんな希望を持ち、この学科を創りました。

工芸デザイン学科 学科長 藤田教授

ものづくりへの多様な関わり方を学ぶ場に

この新学科では、ものづくりを極めて工芸作家やアーティストとして生きていきたい学生はもちろん、どんな形かは決まっていなくても、ものづくりに携わってみたいと思う学生のための授業が行われます。

▲ 企業からのワークショップ依頼も絶えないそう。外からも授業の様子が見えるオープンな環境で、廊下を歩くだけで色んなものに興味が湧いてきます。

一番の特徴は、ただ自分がつくりたい芸術品をつくるだけではなく、市場研究やマーケティングを通して、商業的に受け入れられるものをつくる授業も行われること。

その中の具体的な手法のひとつがCreemaでの実践的なオンライン販売です。商品をプレゼンし、価格設定を行い、実際に販売してみる。リアリティのあるお金のやりとりが生まれ、失敗も成功も経験し、そこから多くのことを学べる、そんな環境が待っています。

これまでの工芸は、つくることには情熱的でしたが、それを売ることはあまり教えてきませんでした。
買う側の論理をもっと考え、作る側のことも買う側のことも理解できる人がいたら、工芸が生き残る道をつくることができるのではないか。そう考えたんです。
また、ものづくりにはさまざまな仕事があります。その中には、思ってもみなかった仕事や役割がきっとあります。漠然とものづくりに携わりたいと思っている人に、いろんな形で関われることを知って欲しいし、この大学で楽しい未来を見つけて欲しいと願っています。

工芸デザイン学科 学科長 藤田教授

アートやデザインの力で、世の中を変えていく。芸工大が挑む新しいものづくりのかたち

2日間にわたって芸工大の皆さんが関わる取り組みや授業の様子を伺い、クリエイティブに対する情熱や発想の楽しさ、それによってもたらされるわくわくとした気持ちや街全体が明るくなる様子に、アートがもたらす可能性を感じました。

 

専門設備の数々や、人との連携、学んだことを目の前の街で試せる環境。山形から、日本、そして世界に向けて、アートやデザインの力で、ものづくりのあり方を変えていく、そんな予感を覚えました。

デジタル化が進んだ今だからこそ、ものづくりには多様な仕事が生まれています。来年はいよいよ、芸工大とクリーマの産学連携の取り組みもスタートします。こちらもどうぞお楽しみに!

 

※本記事は、東北芸術工科大学様より委託を受け、株式会社クリーマが制作しています

ブログで紹介する▼
HTMLコードをコピーしてブログに貼り付けてください
この記事のタグ
同じカテゴリーの記事
人気の記事